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経産省「インフラ海外展開懇談会」最終報告書で、石炭火力発電事業の輸出の継続と、既存火力の温存を前提としたCCUS事業のアジアでのネットワーク化等を提言(RIEF)

2020-11-22 15:15:01

bngaradesh001キャプチャ

 

 経済産業省は20日、インフラ海外展開懇談会の最終報告書を公表した。焦点の石炭火力発電所の海外輸出については、7月の政府の「インフラシステム輸出戦略」により、石炭火力を選択せざるを得ない事情のある国からの要請等に限定する方針を示したが、懇談会報告では新興国等の石炭火力依存を前提とした輸出の継続と、カーボン回収利用貯留(CCUS)事業を広域展開する「アジア CCUS ネットワーク」等の構築など、幅広い対応を提案している。また原子力発電事業の輸出を改めて強調している。

 

 (写真は、バングラデシュ。途上国でも石炭火力発電への住民の不満は高まっている)

 

 同懇談会は、5月に中間報告をまとめている。今回の最終報告は、7月に政府方針、10月の菅首相の「2050年温室効果ガス排出量ネットゼロ」宣言を受ける形でとりまとめた。だが、報告の内容は中間報告の基調と変わりはない。https://rief-jp.org/ct5/102800

 

 懇談会メンバーは、豊田正和日本エネルギー経済研究所理事長を座長とし、岡俊子岡&カンパニー代表取締役、小野田聡JERA代表取締役、工藤禎子三井住友銀行専務執行役員、竹内純子国際環境経済研究所理事、山地憲治地球環境産業技術研究機構副理事長・研究所長。

 

 報告書によると、菅首相が打ち出した「2050年温室効果ガス排出量ネットゼロ」方針を実現するには、再生可能エネルギーや原子力等の既存技術を最大限活用するとともに、水素等の新たな技術の実現・普及に取り組む必要があると言及。これらの技術開発・実証に際しては、国内のみならず海外との連携が重要として、水素・蓄電池・カーボンリサイクル・洋上風力等の脱 炭素技術のインフラ海外展開を後押しを要請した。

 

 そのうえで、途上国市場においては再エネ導入を進める一方で、新興国では人口増等により急拡大するエネルギー需要は、再エネだけでは対応しきれず、化石燃料発電等の多様な電源を活用することが必要と指摘。化石燃料発電が電力安定供給の重要電源として活用さ れていることを踏まえた対応の必要性を強調している。

 

 このうち、化石燃料については、天然ガスは相対的に国際政治情勢に左右されにくく、温室効果ガ スの排出も少なく、石炭は、可採年数が長く、世界各地にバランス良く存在し国際政治情勢に左右されにくいという特徴がある、とそれぞれの利点を強調。一方、再エネは、賦存量に地域的な偏りが見られることや、系統問題がある等の課題を指摘している。

 

 また世界的に再エネのコストが低下していることを認める一方で、「石炭資源が豊富かつ安価なASEANでは、石炭火力が当面コスト競争 力を有する」として、途上国での化石燃料の優位性を強調している。特に、アジアの新興国等では、電力需要を賄うため、経済性やエネルギー安全保障等の観点から、化石燃料発電を引き続き活用せざるを得ない国も存在する、として、各国から日本による支援に期待する声がある、と述べている。

 

 報告書は、こうした現状認識のうえで、「日本が目指すべき対応の方向性」として、水素、蓄電池、カーボンリサイクル、洋上風力などを重点分野としてあげている。石炭火力発電については「CO2 の排出量が多い課題があるが、仮に日本が支援をやめたとしても、OECD ルールに縛られない国による非効率な石炭火力発電輸出が見込まれる」として、輸出継続の理由をあげている。

 

 石炭火力の輸出対象国については、7月の政府方針と整合させるため、「相手国との十分な対話を図り、エネルギー転換・脱炭素化に向けた政策形成に関与しながら、石炭を選択せざるを得ない国に限り支援を行う」との条件に言及したうえで、石炭火力の一層の高効率化、石炭ガス化複合発電(IGCC)、バイオマス混焼、アンモニア混焼等の新分野に積極的に取り組むと、盛りだくさんのメニューを提示している。

 

 既存の石炭火力発電所を前提としたCCS等の技術・プラント事業についても「官民一体となって取組を推進することが必要」としている。CCS事業については、日本政府が二国間で進めるJCM(二国間クレジット制度)の対象とすることもあげている。さらに官民でアジア地域でのCCUS発展につなげるため「アジア CCUS ネットワーク」の構築を提案している。いずれも石炭火力事業の温存・追加を前提としている。

 

 原子力発電については、東京電力福島第一原子力発電所事故後 、日本の原発輸出は事実上、止まっているが、報告書は「福島事故の教訓も踏まえた日本の原子力技術の安全性に対する期待の声が寄せられている」として、「日本はこうした各国の期待に応えていくことが重要」と原発をインフラ輸出として改めて位置付けている。

 

 具体的な原発輸出については、欧米で、小型モジュール炉(SMR)や高温ガス炉、高速炉等の技術開発が進んでいることを指摘。「日本もこうした世界の開発競争を踏まえ、既存の軽水炉の 安全性・信頼性・効率性の向上や、高速炉開発に加えて、原子力関連技術のイノベーションの促進が重要」としている。

 

https://www.meti.go.jp/press/2020/11/20201120003/20201120003.html

https://www.meti.go.jp/press/2020/11/20201120003/20201120003-2.pdf