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IEA、シェールガスの新ルールを提示(National Geographic)

2012-06-04 15:09:50

水圧破砕法(フラッキング)による天然ガス採掘で、油を土砂と水からを分離する処理装置(アメリカ、テキサス州で撮影)。国際エネルギー機関(IEA)は、「シェールガスなど新しい天然ガス資源の産出時に地表水や地下水の汚染を防ぐには、より厳格なルールが必要」と提言している。
国際エネルギー機関(IEA)は5月29日、「シェール層から天然ガスを取り出す水圧破砕法(フラッキング)は、従来の天然ガス開発よりも環境面で危険性が高く、より厳格なルールが必要」との報告を発表した。IEAによると、採掘コストの増加は最大でも7%で済み、必要な対策の実施は十分に可能という。

水圧破砕法(フラッキング)による天然ガス採掘で、油を土砂と水からを分離する処理装置(アメリカ、テキサス州で撮影)。国際エネルギー機関(IEA)は、「シェールガスなど新しい天然ガス資源の産出時に地表水や地下水の汚染を防ぐには、より厳格なルールが必要」と提言している。


 マリア・ファン・デル・フーフェン(Maria van der Hoeven)IEA事務局長は、「シェールガスをはじめとする新しいタイプの天然ガス採掘は、一般市民の批判にさらされて直ちに停止に追い込まれる可能性がかなり高い」と話す。「天然ガス業界は、模範的な行動を示して市民の信頼を得る必要がある」。

 今回の提言では、フラッキングで使用する化学物質の情報開示、地下水汚染を防止するための厳格なガス井設計・建造ルール、メタン排出の抑制処置などの新たな基準が規定されている。メタンは天然ガスの主成分で、強力な温室効果を持つ。

◆天然ガスの黄金時代

 IEAは2011年、「天然ガス黄金時代」の到来を宣言した。今回の報告ではその姿勢を強め、「天然ガスは石炭を抜いて、石油に次ぐ世界第2位の燃料になる」と予測している。

 IEAの「黄金時代」シナリオによると、「シェールガスなど新タイプの天然ガスの産出は2035年までに3倍に増加。世界最大の天然ガス生産国アメリカは、2位のロシアを引き離す」という。シェールガスの採掘技術はアメリカで開発され、実際の採掘もほとんどが同国内で行われている。ただしシェール層は世界各地に広がっており、IEAのシナリオにおいても、大きな埋蔵量を秘める中国が極めて重要な産出国になると想定されている。ほかにも、オーストラリア、インド、カナダ、インドネシア、ポーランドなどが有望な候補として挙げられている。

 IEAは1973年のオイルショックを契機に設立され、エネルギー安全保障を目的とした諮問機関だ。したがって、新たな天然ガス資源でエネルギーの選択肢が増えると歓迎している。しかし、「一般市民に受け入れられるには、現状の業界の姿勢では不十分」とも強調する。

 既に、アメリカのペンシルバニア州やワイオミング州など、シェールガス採掘が盛んな地域では環境への懸念が表面化している。それを受けて、ニューヨーク州やデラウェア州、カナダのケベック州でガス田開発の一時停止が決定。フランスやベルギーではフラッキングの使用が法律で禁止された。

◆ベストプラクティス

 IEA報告では、「黄金時代の黄金律」として、高い透明性や環境対策、モニタリングの強化を挙げている。さらに市民の参加を通じて信頼を築き、社会から事業を認められることが必要だと指摘する。

 特に問題視されているのは、地下水や河川など、水源の汚染である。メタンが水に混入した地域では、水道水に引火するケースも確認された。付近でシェールガス開発が行われており、ガス井の構造欠陥が判明している。

 このような問題を防ぐため、IEAはガス井と地下水を完全に切り離し、メタン漏出を防止するための措置を何重にも備えるよう厳格な規制を求めている。そして、ガス採掘の前に基準となる水質検査を実施し、事業開始後にモニタリングを継続することも提案している。

 また、廃水の地表流出も対象にすべきという。IEAによると、地表に戻されたフラッキング後の廃水は、ガス井での漏出よりも水源に与えるダメージが大きい。適切な処理・保管が求められており、フラッキングへの再利用は化学物質の汚染度が上昇するため慎重であるべきだと指摘している。

 再利用やリサイクルに取り組んでいる天然ガス企業もあるが、一部に留まっており、一貫した規制も存在していない。

◆メタン漏出と地球温暖化

 フラッキングについては、水源の汚染以外にも、メタンの大気への漏出が懸念されている。天然ガスはクリーンなエネルギーとされるが、産出過程でメタンを放出してしまっては意味がない。IEAもメタン排出抑制の義務付けを推奨している。

 ただしIEA報告は、「漏出が抑えられたとしても、石炭から天然ガスに移行するだけでは気候変動は解決しない」とも述べる。世界の平均気温の上昇を産業革命以前のレベルから摂氏2度以内に抑えるには、「エネルギー利用の分野で、はるかに大規模な構造転換が必要」としている。

http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20120531001&expand#title