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欧州委員会の欧州委員中の3人、「化石燃料産業界との関係あり」と国際NGOが調査で指摘。「欧州グリーンディール(EGD)」をEU全体で推進するうえで、ふさわしくないと警告(RIEF)

2021-02-21 00:29:06

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 「欧州グリーンディール(EGD)」を掲げるEUのウルズラ・フォンデア・ライエン欧州委員会の3人の欧州委員が、化石燃料産業と深い関係があったことが指摘され、EGDへの懸念が浮上した。国際的なNGOが調査で明らかにした。化石燃料業界との関係の深さを名指しされたのは、Josep  Borrell(スペイン)、Stella Kyriakides(キプロス)、Adina Vălean(ルーマニア)の3氏。

 

  調査結果を公表したのは、NGOのGlobal Witness(GW : 英ロンドン)。EUの欧州委員会に各国から選出される委員を対象に、本人だけでなく、家族が化石燃料産業のインサイダーと関係しているかどうか、海外企業を経由して富裕層のために働いて報酬を得ているか等を調べた。

 

 欧州委員会委員は、EU各国に1ポストずつ割り当てられており、当該国の大臣経験者らが就任することが多い政治家ポスト。ただ、各国の政治利害は、各国の関係政治家で構成する閣僚理事会等で調整するため、欧州委員は各国の利害よりも担当分野についてのEU全体での専門的判断を求められる立場だ。ただ、任命は一カ国1ポストのため、各国からの推薦者を事実上、受け入れる形となっている。

 

スペイン選出委員の
スペイン選出委員のJosep Borrell氏

 

 GWは、委員任命に際して公表される委員個人に関する倫理的情報開示等に基づいて調査した。EGDを掲げるフォンデアライエン欧州委員会の軸となる委員の任命に際して、各欧州委員は委員会就任に際して、前任の活動は辞めねばならない。ただ、GWは、直近の所属以前の活動、あるいは直系の家族が化石燃料産業等とどう関係しているか等については最低限度しか考慮されていないという。

 

 こうしたことから、GWが実施した調査の結果、化石燃料業界との関係が疑われるとして、名指しされたのは3人。このうちJosep  Borrell(スペイン)氏は、現在、委員会で外務・安全保障政策上級代表(外相に相当)を務めるほか、過去に欧州議会議長、スペインの外相等を経てきたベテラン政治家。

 

 しかしGWによると、同氏は2009年から2016年にかけてスペインのエネルギー企業のAbengoaの役員を務め、年間30万ユーロ(約4000万円)の報酬を得ていたことがわかった。実は、同氏は欧州大学機関の議長を務めた際、Abengoaでの活動を公表していなかったことから、2012年に辞任に追い込まれた経緯もあった。

 

 同氏は、大学でも石油経済を専攻し、その後、スペインの国有石油会社でエンジニアとしてほぼ10年勤務した経験もある。そもそも化石燃料エネルギー分野の専門家でもある。欧州委員会は、Borrell氏の委員会での担当は、エネルギーや気候分野ではなく、外交担当なので過去の経歴は問題ないとしている。しかしGWは、国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP)交渉はまさに外交交渉であり、バイデン米政権との米欧グリーン外交等にふさわしくない、と指摘している。

 

キプロス選出の
キプロス選出のStella Kyriakides氏

 

 キプロスのStella Kyriakides氏は、同国保健相の臨床心理士から、保守党議員に選出された。欧州評議会(PACE)のキプロス代表等を務めた後、PACEの議長にも就任した経験を持つ。欧州委員としても同様に保健分野を担当している。同氏は経歴に化石燃料業界との直接の関係はない。

 

 だが今年2月に公表された同氏の利害関係宣言書によると、彼女の夫はキプロスの石油精製・貿易企業のMotor Oil Hellas社が主要株主であるエネルギー企業2社の幹部だったことが判明した。Motor Oil Hellas社は、ギリシャで民営最大の石油製油会社を経営しているほか、米テキサスやタンザニア等でガス開発事業を展開するグローバルプレイヤーでもある。Kyriakides氏側は、彼女の夫の職業は欧州委員会の行動規範に抵触しないとしている。

 

ルーマニアの
ルーマニアのAdnina Valean氏

 

 もう一人はルーマニア選出のAdina Vălean氏。欧州委員会では運輸分野を担当している。同氏は欧州議会での経験が長く、環境問題を扱うCommittee on the Environment, Public Health and Food Safetyの議長も務めた経験がある。同氏は欧州議会議員在任中に、バージン諸島登録のコンサルティング企業Finite Assets Ltd.の諮問委員会メンバーとして、2009~10年に年棒10万4325ユーロ(約1320万円)をコンサル料として受け取っていた。

 

 同氏が在籍中にFinite社はスイスのRompetrol Holding S.A.,に買収された。同社のオーナーのDinu Patriciu氏はカザフスタンの石油・ガスにRompetrolを売却して巨万の富を得るなど東欧のエネルギー市場で活躍した人物。同氏(2014年死去)の活躍時期と Vălean氏のFinite社在籍との関係を指摘、欧州委員としてふさわしくないとしている。同氏は欧州議員としても化石燃料事業を推進する「Connecting Europe Facility (CEF)」の設立に深くかかわってきたとされる。

 

 欧州委員会はGWが指摘した3氏について、「欧州委員としての行動規範から問題がない」として、委員任命には問題がないとの見解を、欧州メディアに表明している。また、Vălean氏を除く他の2氏は、エネルギーや気候政策に直接的に関係しない分野の担当であることも強調している。

 

 ただ、欧州委員の任命については、基本的に各国推薦が軸となることから、これまでも任命基準の弱さが指摘されていた。今回のGWの調査を受けて、欧州議会の間でも、委員任命の倫理基準を現状よりももっと強化すべき、との意見も出ている。

 

 欧州委員の利益相反問題は、前任のユンケル委員長時代でも起きている。エネルギー・気候担当の委員に任命されたスペイン選出のMiguel Arias Cañete氏だ。同氏は化石燃料業界との関係が深く、欧州議会での任命に際して紛糾した。同氏は任命直前に保有する化石燃料企業株を急遽売却したことも問題になった。しかし同氏は欧州議会の会派間の調整で、そのまま委員に就任した。

https://www.globalwitness.org/en/campaigns/fossil-gas/eu-green-deal-politicians/