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小水力に温故知新の目 小落差でも発電 新装置(エネルギーを拓く)(各紙)

2012-07-26 22:52:44

日本工営は発電所の遺構が残る曽木の滝で小水力発電に参入(鹿児島県伊佐市)
 

日本工営は発電所の遺構が残る曽木の滝で小水力発電に参入(鹿児島県伊佐市)


各紙の報道によると、5月下旬、鹿児島県内の有力企業2社が再生可能エネルギー事業で手を結び、一大プロジェクトを打ち出した。エネルギー商社の南国殖産(鹿児島市)と酒類販売の本坊商店(同)などが共同で「九州発電」(同)を設立。今後6年をかけて、県内の山あいに小水力発電施設を約40カ所建設する。出力は合計2万4千キロワット、一般家庭5万世帯分の電力を賄う計画だ。


 投資額は約240億円。「100億円を超える規模で(1万キロワット未満の)小水力を大々的に導入するのは全国でも初めて」(国土交通省水政課)という。年内にも3、4カ所で着工する。




■原発1基分眠る

河川や滝の落差、農業用水の水流を使う小水力発電。九州の潜在的な導入可能量(1万キロワット未満)は河川で計100万キロワットと原発1基分、農業用水路でも約2万キロワットが眠る。東北や中部には及ばないが、西日本(関西、中国、四国、九州、沖縄)では最大だ。


 水車を使う水力発電は山川草木が豊かな九州で昔から利用されてきた技術。再生可能エネルギーの拡大を“温故知新”に求める動きが相次ぐ。




 海外約30カ国で大型水力発電の設計やコンサルティングの実績を持つ日本工営。子会社の新曽木水力発電(鹿児島県伊佐市)が今夏、伊佐市で4億5千万円を投じ460キロワットの小水力発電を建設する。日本工営が売電を手がけるのは国内初だ。




 実は施設が立地するのは明治40年(1907年)に完成、47年前まで現役だった旧曽木発電所。取水口や砂を取り除く沈砂設備を再生、川内川の滝を使い発電する。「先人の技術を生かし、地域と共存できる発電所を目指す」(秋吉博之社長)




 一般に小水力発電には3メートル以上の水位差が必要とされる。ところが、明治41年(1908年)創業の機械メーカー、中山鉄工所(佐賀県武雄市)が生産する小水力発電装置は落差がほとんどない水路でも発電が可能だ。




 取水口を狭めるなどの工夫を施し、水圧を高めることに成功、水路に設置するだけで発電できる。堰(せき)や配管、貯水設備などの土木工事が不要なため、初期投資を大幅に軽減できる。




 特許を持つのは小水力発電装置開発のシーベルインターナショナル(東京・千代田)。破砕機などが主力の中山鉄工所をパートナーに選んだのは「耐久性が求められる水車には高度な製造技術が必要だった」(前田俊一取締役)ため。九州で培った技術が小水力発電拡大の一翼を担う。




 規制緩和へ向けた動きも小水力発電の普及を後押ししそうだ。




■手続き簡素化へ




 現在は、農業用など河川の利用許可を持っていても、発電を始めるには、別途申請が必要など手続きが煩雑。しかし、許可済みの水を使う「従属発電」については、許可制から登録制に切り替える方向で、国土交通省が調整を始めた。




 一般の水力でも、申請から許可まで平均で半年かかっていたが、今年度にも手続きが大幅に簡素化される予定だ。




 再生エネルギーの固定価格買い取り制度では、小水力の売電価格は1キロワット時25.2~35.7円。太陽光発電の42円よりは安いが、大規模な初期投資が不要なため事業化のハードルは比較的低い。好立地を先んじて確保しようと、参入を急ぐ動きが広がりそうだ。