HOME8.温暖化・気候変動 |豪、炭素税など新エネルギー法を施行 (National Geographic) 原発対応で温暖化対策が宙に浮きそうな日本とは違う |

豪、炭素税など新エネルギー法を施行 (National Geographic) 原発対応で温暖化対策が宙に浮きそうな日本とは違う

2012-10-11 10:37:48

オーストラリア東部、ブリスベンの北西約760キロで操業中のコパベラ炭鉱。新しいクリーンエネルギー法が施行され、オーストラリアは二酸化炭素の排出量を削減する取り組みを開始した。
 

オーストラリア東部、ブリスベンの北西約760キロで操業中のコパベラ炭鉱。新しいクリーンエネルギー法が施行され、オーストラリアは二酸化炭素の排出量を削減する取り組みを開始した。


豊富に産出する石炭に依存してきたオーストラリアが、気候変動対策に向けて大きく舵を切った。7月に炭素税が導入され、2015年7月には税額基準が固定価格から変動価格へ移行する。世界で最も包括的な国内排出量取引制度(キャップアンドトレード)となる予定だ。

元オーストラリア外交官で現在はワシントンD.C.にあるシンクタンク「ブルッキングス研究所」に所属するジョシュア・メルツァー(Joshua Meltzer)氏は、「アメリカやカナダと同様、オーストラリアでも、産業革命以後に化石燃料を中心に築き上げてきた経済体制と真剣に向き合わなければならない時期がやって来た」と話す。

◆炭素税と排出枠

 気候変動対策に向けた包括的なクリーンエネルギー法案は、4度目にしてようやくオーストラリア議会を通過し、2012年7月に施行された。2020年までに、オーストラリア全体の温室効果ガス排出量を2000年レベルから最低でも5%削減、2050年には80%の削減を目標としている。また、その手段として、二酸化炭素排出量の多い300の大企業に課す炭素税や、再生可能エネルギーの推進、またエネルギー効率の改善に向けたインセンティブも組み込まれている。

 新たな排出要件の順守を支援するため、10月に入り、無償の排出枠が初めて割り当てられた。今回の対象はアルミニウム企業のアルコア(Alcoa)、化学企業のクイーンズランド・ナイトレイツ(Queensland Nitrates)である。オーストラリア政府は、総計89億ドル(約7000億円)かけて、国際的競争の厳しい産業のキャップアンドトレードをサポートするという。

 国内産業からの批判を乗り越えるもう一つの仕組みとして、クリーンエネルギー法では、国際交渉の状況に応じた段階式の国際公約が規定されている。大気中の温室効果ガス濃度を450ppmで安定させるという国際合意が成立した場合には、「2020年までに1990年レベルから25%削減」という高い目標が設定される。現状の国際交渉にみられるように、新たな国際合意が実現しない場合には、条件を緩めた「2020年までに2000年レベルから最大15%削減」が目標として設定される。

「つまり、世界が排出削減に向けて公正な姿勢で取り組むなら、オーストラリアも炭素価格を上げて対策に取り組むという主張だ」とメルツァー氏は話す。

 気候変動対策に関しては、オーストラリアの国内世論も揺れている。生活への悪影響を懸念する人が66%に達する一方、気候変動に危機感を抱く人も54%に上り、気候変動に対して一切行動する必要がないと考える割合はわずか10%に留まる。また47%が、炭素税に関して詳細な情報提供があれば受け入れると答えている。

 気候変動対策への支持が増えたのは、近年の干ばつや山火事の影響が大きい。特に、2009年2月7日の熱波「ブラックサタデー」の際には、ビクトリア州全土を山火事が襲い、173人が命を奪われ、500人以上が負傷した。

 メルツァー氏は、「長引く干ばつにより、気候変動が将来もたらす結果を人々が理解するようになった」と話す。

◆石炭に依存する経済

 オーストラリアが化石燃料にいかに依存しているかも猛暑は明らかにした。「ブラックサタデー」の期間中、オーストラリアの電力系統は、膨大な数のエアコン稼働による電力需要の増加を満たすことができず、猛暑の中、人々は停電とも戦う羽目に追い込まれた。

 このようなピーク需要の問題は、特にオーストラリア南部で深刻となっている。オーストラリア全体のエネルギー消費量は過去2年で同国史上初めて低下したが、ピーク需要は増え続けている。

 非営利団体「オーストラリア・エネルギー削減同盟(Australian Alliance to Save Energy)」の代表を務めるマーク・リスター(Mark Lister)氏は、「2007年、オーストラリアの電気料金は世界最低レベルだった。鉄鋼業やアルミニウム産業、化学産業など、多量のエネルギーを消費する産業に極めて優しい国だ」と話す。

 過去20年間、ほかの先進国が石炭火力発電から離れていく中、オーストラリアでは石炭の炎がますます勢いを増していった。1人あたりの二酸化炭素排出量も突出して高くなる。

「しかしオーストラリアには、石炭以外にも豊富な天然資源がある。風力や潮力、太陽エネルギーを利用するチャンスも世界で最も恵まれている」とリスター氏は話す。実際にそのような動きも徐々に進んでおり、ビクトリア州南西部に10億ドル(780億円)をかけて建設中のマッカーサー風力発電所は、2013年初頭に完成すれば南半球最大規模となる。420メガワットの発電規模で、22万世帯を支えることができるという。また、オーストラリア全世帯の10%に相当する75万世帯が自宅屋根に太陽光パネルを設置しており、総計1.7ギガワットの電力を生み出している。

 エネルギー効率の全体的な改善も重要な課題だ。この10月には、これまで州単位だったエネルギー効率の基準とラベルの標準規格が、連邦レベルで統一された。

 リスター氏は次のように話す。「オーストラリアは、石炭に依存してきた分、エネルギー効率を改善する余地にも恵まれている。取り組みは始まったばかりだ」。

http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20121010001&expand#title