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インタビュー:電力不足で大型蓄電池の市場創出へ=電池工業会会長(Reuters)

2011-07-22 16:27:03

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[東京 22日 ロイター] 電池工業会の本間充会長(三洋電機副社長)は、ロイターとのインタビューで、東日本大震災をきっかけに太陽光や風力など再生可能エネルギーの導入が進むことで、大型蓄電池の市場が新たに創出されつつあるとの見通しを示した。

 世界的な広がりも予想され、パソコン・携帯電話用電池だけでなく、自動車用電池も超える市場規模になる可能性があるという。ただ、日本メーカーが国際市場で主導権を持つには、太陽光発電システムや電気自動車と同様、補助金による価格引き下げなどが必要と述べ、国家的な支援を求めた。

  電池工業会は、パナソニック(6752.T: 株価, ニュース, レポート)、ソニー(6758.T: 株価, ニュース, レポート)、日立製作所(6501.T: 株価, ニュース, レポート)など国内の電池メーカー各社で構成。インタビューは21日に実施した。主な内容は以下の通り。

――東日本大震災以降、非常用電源として定置用の蓄電池(大型蓄電池)に注目が集まっている。

 「各電池メーカーに大型蓄電池の問い合わせが相当あるようだ。大型蓄電池は、電池業界にとってはまったく新しい市場。(充電して電気を蓄えられる)二次電池の分野では、第一の柱がパソコンや携帯電話に使われる『民生用電池』で、第二の柱が電気自動車(EV)など『自動車用電池』だったが、震災と原発事故を受けて再生可能エネルギーの議論が広がり、太陽光や風力の電気を溜めることができる大型蓄電池の市場を第三の柱として創出できる機会が生まれている」

 「大型蓄電池の分野では(世界で唯一日本ガイシ(5333.T: 株価, ニュース, レポート)が量産する)NAS電池があり、電力会社の蓄電池に使われている。ただ、これからの中規模な再生可能エネルギーの蓄電池としては設備が大きすぎる。NAS電池そのもののコストは高くないが(動作温度に必要なセ氏)300度にするための設備投資がかかるし、大きなスペースも必要。そのスペースでソーラーパネルを増やした方がよいということにもなってくる。一方で、パソコンや携帯に使われるリチウムイオン電池は高密度・高容量でコンパクト。性能は抜きんでいているので、大型蓄電池としての位置づけを確立し始めている」

 ――大型蓄電池の世界市場の見通しはどうか。

 「2020年に約2兆円になるのではないか。今のリチウムイオン電池市場は、ほとんどが民生用電池で約1兆円だが、この民生用分野は20年になってもほぼ1兆円程度の市場にとどまるとみている。パソコンがタブレットに、携帯電話がスマートフォンに置き換わっているが、よほど画期的な製品が出ない限り大きな市場の伸びは見込めないと思う」 

 「大型蓄電池の2兆円は最も保守的にみた場合だ。人によっては3―5兆円と予測する人もいる。もちろん自動車用電池も(EVやHVの普及で)広がると思っているが、(車載機器を含めた)電池システムではなく電池だけでみると20年に1―1.5兆円程度ではないか。だから大型蓄電池は、リチウムイオン電池の用途別で最大の市場になるとみている」

 ――再生可能エネルギーの拡大で大型蓄電池の市場はどのように広がるか。

 「太陽光・風力・地熱で発電した電気を電力会社が買い取る制度においては、自家発電した電力が電力会社の系統に逆流する『逆潮流』を起こす。そうすると電圧や周波数が不安定になる。もともと太陽光や風力は天候や時間で左右されるので不安定で、この不安定さを取り除くことができるのが大型蓄電池のよいところだ。日本では原発事故から表に出始めたが、欧州や米国カリフォルニア州などのスマートグリッド(次世代送電網)の議論で、大型蓄電池システムが必要だという話はすでに出ていた」

 ――日本の全量買取制度の導入で大型蓄電池の拡大が加速するか。

 「ところが今の(国会で審議中の)全量買取制度は、大型蓄電池の位置づけが明確ではない。太陽光や風力のエネルギーを買い取るとき、蓄電池がないと系統が不安定になるのにその議論がなされていない。さらに全量買取制度で、太陽光や風力の発電事業者が利益を上げようとすると、必ずしも(蓄電池システムを備えた)安定的な電力を送り出せる設備を導入するとは限らず、安い設備でよいということになってしまう恐れがある。そうすると不安定な電力を電力会社が買い取らなくてはならなくなるが、それでは国のエネルギー政策として疑問が残る」

 ――大型蓄電池の導入を促進するには、どのような措置が必要か。

 「家庭においては自家発電とともに自家消費を促す制度を確立しなければならないと思う。ドイツは制度設計がうまい。太陽光で発電した電気を蓄電池に溜めて自家消費すれば、ただ単に売る場合よりもメリットになる制度を作った。これで電力会社の系統への負担も減らせる。日本でも太陽光発電を単に売るだけでなく、蓄電池に溜めて自家消費することにインセンティブを持たせるようにする考え方が必要だ」

 ――リチウムイオン電池はまだまだコストが高く、家庭用蓄電池として普及するにはハードルが高い。

「蓄電池価格は1キロワット時あたり50万円くらいというが20万円以下でないと一般家庭では普及しないのではないか。再生可能エネルギー(の売電や自家消費)との組わせで10年以内に減価償却ができるような形にしないと市場はなかなかできない」

 ――太陽光発電システムの設置や電気自動車の購入には補助金があるが蓄電池にはない。

 「蓄電池は装置産業なので量産すれば価格は安くなる。それぞれの電池メーカーの企業努力も必要だが、一定期間の補助金で利用者支援をしてくれれば数量が増える。数量が拡大するまでに国の後押しは必要で、電池工業会としても政府に要望を出している。民間企業の自助努力だけではいつまで経ってもコストは下がらない」

 ――電池メーカーの競争力強化で政府に期待する役割はあるか。

 「民生用電池、自動車用電池に続いて大型蓄電池が電池産業の柱になると思っているが、すでに民生用電池の分野では技術が海外流出して為替や法人税のハンデで(韓国勢などとの)競争はズタズタになっている。電池は日本のお家芸だ。これを奪われるのは半導体や液晶の二の舞になる。太陽光でもEVでも国の後押しが必要だが、大型蓄電池の支援は日本の雇用と産業を守る上でも大きな意味がある。メーカーに補助をするのではなく、新しい市場を形成するために利用者支援をしてほしい。その上で民間企業の切磋琢磨でコストを下げて競争力を高め、グローバルに技術を展開するということが重要だ」

(ロイターニュース 村井令二)

http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-22323820110722?pageNumber=1&virtualBrandChannel=0