HOME8.温暖化・気候変動 |ドイツの太陽光発電 すでに天然ガスより安く、2030年には住宅向けでも石炭並みまで価格下落へ (スマート・ジャパン) |

ドイツの太陽光発電 すでに天然ガスより安く、2030年には住宅向けでも石炭並みまで価格下落へ (スマート・ジャパン)

2014-02-05 21:58:43

図1 各種エネルギーを利用した発電所の均等化発電原価(LCOE) 出典:ドイツFraunhofer ISE

ドイツFraunhofer研究所は、各種の再生可能エネルギーと化石燃料の発電コストを比較したレポートを発表した。発電所の設計、建設から運営、廃止までの全てのコストを、生涯発電量で割った均等化発電原価(LCOE)を用いた調査研究だ。[畑陽一郎,スマートジャパン]


2013年にドイツで建設された一部の大規模太陽光発電所は、コスト面で既に平均的なコンバインドガスタービン発電よりも安価である。最も条件のよい陸上風力発電は最も安価な化石燃料である褐炭のコストに匹敵する。ドイツの研究機関であるFraunhofer研究所の太陽光関連の部署Fraunhofer-Institut für Solare Energiesysteme(Fraunhofer ISE)が発表したレポートの結果だ。

 

発電コストは、1kWhの電力量の料金と同じ意味で使われることが多い。例えば、家庭用電気料金が29円10銭(東京電力の第3段階料金)であることを、発電コストが29.1円であるということがある。

 

しかし、国や地方自治体、企業がさまざまな再生可能エネルギーを利用した発電を大規模に導入する計画を立てるなら、このようなあやふやな議論ではだめだ。単に初期導入コストや年間発電コストを比較するのでは公平性を欠く。発電所の設計、建設から運営、廃止までの全てのコストを、生涯発電量で割った均等化発電原価(LCOE:Levelized Cost Of Electricity)を比較することが好ましい。今回のFraunhofer ISEの議論は全てLCOEに基づいている。

 

Fraunhofer ISEのプロジェクト統括責任者であるChistoph Kost氏は発表資料の中で以下のように指摘する。「各種の再生可能エネルギーや化石燃料を選ぶ際に、発電コストは決定要因ではない。上流と下流のコストも主要な役割を占める。日照の強さや風がどの程度利用できるかなどの環境条件はもちろん、ファイナンシングコストやリスクプレミアムなどさまざまな条件が持続可能性に影響を与える。われわれの研究ではこれらの条件を加味しているため、異なる技術に対しLCOEを通して比較でき、各種の再生可能エネルギーのコスト競争力を示すことができる」。


7種類のエネルギー源を比較


 

Fraunhofer ISEは2013年から2030年までのドイツにおけるLCOEを算出した。対象としたエネルギー源は再生可能エネルギーが4種類(太陽光、洋上風力、陸上風力、バイオガス)、化石燃料が3種類(褐炭、無煙炭、天然ガス)だ。これは現時点のドイツでの資源調達を考えたメニューになっている。ドイツは水力資源に乏しく、地熱は利用できない。その代わり、石炭資源は多く、畜産業由来のバイオガスを利用しやすく、風力発電の導入量と潜在導入量が非常に大きい。

 

これらのエネルギー源を利用した発電所のLCOEがどのようなものなのか、図1に示す*1)。図1で下に位置するほど、LCOEから見て有利であり、競争力がある。

図1 各種エネルギーを利用した発電所の均等化発電原価(LCOE) 出典:ドイツFraunhofer ISE
図1 各種エネルギーを利用した発電所の均等化発電原価(LCOE) 出典:ドイツFraunhofer ISE


*1) 図1を算出するに当たって、Fraunhofer ISEはさまざまな仮定を置いている。図1にあるGHI(Global Horizontal Irradiation)は全天日照量を示す。太陽電池モジュールに直接照射する直達日照量と、大気からの散乱日射量を加えた値だ。FLH(Full Load Hours、全負荷時間)は1年の8760時間のうち、どの程度の時間フルパワーで発電できるかを示す。PR(Progress Ratio、進歩率)は経済学的な分析で多用されている係数。累積生産量が2倍になったときにコストがどの程度低下するかという数値であり、値が高いほど単位コストの低下度合いが大きいことを示す。CO2 allowance pricesは、二酸化炭素排出権価格。

 

図1の縦軸は2013年時点のユーロの貨幣価値で表した発電量1kWh当たりのLCOE。1ユーロ=140円で換算すると、縦軸の0.10が14円に相当する。横軸は西暦だ。

 

橙色の縦棒がコンバインドガスタービン発電(2013年時点で0.098ユーロ/kWh以下)、紺色の縦棒が無煙炭(同0.08以下)、茶色が褐炭(同0.053以下)を示す。無煙炭は排出物が少ない高品位な石炭、褐炭は安価だが熱量が低く二酸化炭素排出量が多い石炭だ。


太陽光発電の潜在力は著しい


 

以下にエネルギーの種類ごとにFraunhofer ISEの結論を示す。図1では、太陽光発電のLCOEを黄色い縁取りがある斜線で示した。黄色い枠が上下に幅のある理由は、さまざまな発電条件が考えられるからだ。ドイツ国内で最もLCOEが低くなるのはドイツ南部に建設した大規模太陽光発電所だ。ドイツ南部は日照条件がよいため、全天候日射量が年間1200kWh/m2となる。条件が悪いのはドイツ北部に建設した屋根置き型の太陽光発電システムだ。全天候日射量は年間1000kWh/m2

Solaryh20140205Fraunhofer_graph_590px2

グラフの左下の隅を見ると、LCOEの値(0.08ユーロ/kWh)がコンバインドガスタービン発電と無煙炭の間にある。つまり2013年時点でも条件次第ではこれらを利用した発電所に太陽光発電が追い付くことも可能だ。条件の悪い一般家庭の屋根に設置した太陽光発電システムのLCOEは0.14ユーロ/kWh。これはドイツの平均的な家庭用電力価格(0.29ユーロ/kWh)を大幅に下回っている。これは初期投資費用を投じて屋根に太陽光発電システムを設置すると、発電期間内の電気料金が半額以下になることを意味する。

 

2030年になるとどうなるか。黄色い枠の右上を見ると、ガスタービン発電を下回り、平均的な無煙炭よりも安い。これは一般家庭の屋根に設置した場合との比較だ。最も条件のよい太陽光発電では褐炭の下限に等しい。つまり化石燃料に打ち勝つことになる。なお、石油火力は2013年時点で石炭火力よりも高価であり、0.13~0.17ユーロ/kWhである。つまり平均的な太陽光発電よりも劣る。


陸上風力は既に化石燃料に勝っている


 

太陽光発電よりも効果的なのが、陸上風力発電だ。図1では外枠がない青で示されている。陸上風力発電のLCOEは2013年時点で0.05~0.11ユーロ/kWhであり、条件がよいものは無煙炭やコンバインドガスタービンとも直接競争できる。太陽光発電と比較すると約3分の2程度のLCOEだ。Fraunhofer ISEによれば、陸上風力発電のLCOEはこれ以上下がらないものの、化石燃料側が上がるため、2020年に褐炭と競合できるようになるとした。

 

洋上風力発電はどうか。図1では紺色を枠を付けた薄青色で示した。洋上風力発電のLCOEは2013年時点で0.12~0.19ユーロ/kWhであり、逆に太陽光発電よりも1.5倍程度高価だ。全負荷時間が年間2800~4000時間と長いにもかかわらず、陸上風力発電とはLCOEで全く競合できない。Fraunhofer ISEによれば洋上風力発電の魅力は技術的にコスト低減の余地が大きいことだ。2030年時点では陸上風力発電の平均的なLCOEになんとか追い付くことができる。それでも太陽光発電よりは高価だ。


太陽光と陸上風力以外のメリットとは


 

LCOEを比較すると、太陽光発電や陸上風力以外の選択肢は少ないように見える。洋上風力発電はLCOEの値が大きく、コスト面で不利だ。バイオガス(図1の黄緑色)も0.14~0.22ユーロ/kWhと高コストであり、LCOEが改善する傾向もない。

 

Fraunhofer ISEによれば、洋上風力発電は全負荷時間が長い。つまり、利用できない日が少ないということだ。バイオマスは制御性がよい。これはより大きな出力が必要になったときにすぐに応答できることを意味する。どちらも系統電力の安定性を保つ働きがある。

 

以上のようなLCOEの数値はどのような再生可能エネルギーをどの程度利用し、組み合わせていくのか、メニューを作り上げる際に非常に有益だ。日本はドイツよりも全天日射量が2割多い。風力発電の条件は大きく異なる。例えば洋上風力発電の建設コストはドイツよりも一部高価になる。国内でもさまざまな再生可能エネルギーについてLCOEの値を算出し、更新し、比較していく必要がある。

 

http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1402/05/news109.html