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リコー 室内でも発電可能、二酸化炭素で作る太陽電池を開発(スマート・ジャパン)

2014-06-17 15:14:26

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リコーは2014年6月、「完全固体型色素増感太陽電池」を開発したと発表した。内部の液体部分を固体に変えることで、変換効率を2倍に高め、安全で、85度の高温下でも2000時間以上劣化しないという。2015年度以降にサンプル出荷を開始する予定だ。[畑陽一郎,スマートジャパン]

 

リコーは2014年6月、室内の光で発電量が従来よりも2倍以上多くなる太陽電池を開発したと発表した。「色素増感太陽電池」と呼ばれる太陽電池の一種*1)。「現在他社が開発中の色素増感太陽電池よりも安価に生産できる見込みがあり、2015年度以降にサンプル出荷を予定している」(リコー)。

屋根の上に敷く、メガソーラーに使うというよりも、室内空間で電源コードや蓄電池を使わずにモノのインターネット(IoT:Internet for Things)を実現する用途に向いている太陽電池なのだという。例えば、室内環境のセンサーや健康状態をモニターする場合などに自立用電源として利用できる。電力を「無線」(光)で伝送するワイヤレス充電と似た技術だと捉えることもできる。

*1) 色素増感太陽電池は色素によって光を捉えるため、光の性質に応じた色素を採用することでさまざまな環境に対応しやすい。色味を変更しやすいためデザイン性にも優れる。製造時に必要なエネルギーはシリコン太陽電池よりも一般に小さい。


シリコン太陽電池よりも高効率


 

リコーが開発した色素増感太陽電池には、特徴が3つある。発電効率と安全性、耐久性だ。

太陽電池には使用環境に応じて異なる技術、材料が使われている。宇宙(人工衛星)用途では高価だが高効率なGaAs(ガリウムヒ素)や放射線に強いInP(インジウムリン)が適する。地上でも高温にさらされる場所ではCdTe(カドミウムテルル)やCIS(銅インジウムセレン)が向く。温暖でいくぶん冷涼な地域ではSi(シリコン)が適している。設置量ではシリコン太陽電池が最も多い。

同様に、室内空間や太陽光が斜めに入射するような場所には、色素増感太陽電池が適している。色素増感太陽電池が開発される以前には、アモルファスシリコン太陽電池*2)がこのような用途に最も適していた。

*2) シリコン原子が結晶を作らず、乱雑に結合した状態(アモルファス)に保った太陽電池。室内では「ソーラー電卓」によく使われている。

リコーによれば、照度が200lx(ルクス)となる白色LEDの光を当てた場合、これまで知られている最も高性能なアモルファスシリコン太陽電池は1cm2当たり、6.5μWの電力を生み出すことができた。従来型の色素増感太陽電池は8.4μWであり、アモルファスシリコンよりも30%程度性能が高い。リコーが発表した色素増感太陽電池は、13.6μWであり、アモルファスシリコンと比較して2倍以上、従来品と比較しても60%以上高性能だ。

図1に示したのは新開発の太陽電池(RICOH-DSSC)の性能をアモルファスシリコン太陽電池(a-Si)と比較したグラフだ。横軸の電圧、縦軸の電流とも、新開発品が上回っていることが分かる。つまり出力が大きい。図2には最大電圧(開放電圧:Voc)と最大電流(短絡電流密度:Jsc)の測定値を示した。


yh20140617Ricoh_IV_361px.jpg 図1 白色LED(200lx)下の太陽電池の発電特性 出典:リコー


yh20140617Ricoh_IV2_360px.png 図2 発電特性の測定値 出典:リコー



液体を固体に置き換えて性能向上


 

発電効率をこのように改善でき、安全性と耐久性を高めることができた理由はこうだ(注3も参照)。色素増感太陽電池は、他の方式の太陽電池とは異なり、2枚の電極の間に液体を保持している。電解液だ。電解液には腐食性のあるヨウ化物イオンも含まれている。

リコーはこの電解液部分を固体に変えた。「完全固体型色素増感太陽電池」と呼ぶ。これにより、電解液の液漏れやヨウ素による腐食などのリスクがなくなり、安全性を確保できた。

同時に耐久性も高くなり、85度という条件に2000時間置いても、最大出力値の低下がなかった。リコーによれば従来構造のまま85度の条件下に置くと、太陽電池セル中にある色素がやはり内部にある酸化チタンから脱着する「有機色素剥がれ」という現象が起きるのだという。これが起こると出力が大幅に低下してしまう。

図3では横軸に時間(h)、縦軸に社内基準値に対する任意単位を示した。暗所に置いた場合と、85度で性能に違いが少ない。つまり、太陽電池の材料や構造に劣化がなかったということだ。


yh20140617Ricoh_Durability_366px.jpg 図3 開発した太陽電池の耐久性 出典:リコー

 


どのように固体に変えたのか


 

リコーが電解液を固体化するために打った手は2つある。1つは、電解液の代わりに、有機p型半導体と固体添加剤の混合物を用いたこと*3)。この部分をリコーは「ホール輸送性材料」と呼んでいる。もう1つはホール輸送性材料を「加工する」ために従来と違う手法を開発したことだ。

図4はリコーが開発した太陽電池の構造だ。この図から文字を消してしまうと、従来の色素増感太陽電池の構造と見分けが付かないはずだ。固体化した部分以外の基本的な構造が同じだからである。

太陽電池としての動作はこうだ。左側から光を入れると、光が増感色素に吸収されて、増感色素内の電子のエネルギーが高くなる(励起する)。その電子が金属酸化物ナノ粒子(二酸化チタン粒子)に移動して電流となり、「(陰極)透明導電基板」とある電極から外部に流れていく*4)。色素が光を吸収して電子を外に受け渡す部分の動作はカラー写真フィルムとよく似ている。

 

*3) リコーによれば、有機p型半導体の性質(エネルギー準位)を調整することで、太陽電池の開放電圧を高めることができたという。「他社でも採用事例のある有機p型半導体だ」(リコー)。増感色素の選択により、短絡電流密度を高めることができた。この2つの組み合わせによって、出力を高めることができた。固体添加剤は複数の物質からなる混合物であり、電気伝導度が高い。発電ロスが少なくなる。なお、有機色素は広く使われているルテニウム錯体以外を用いたという。


*4) 一般的な色素増感太陽電池の場合、電子を失った増感色素は、電解液中のヨウ化物イオンから電子を受け取って元に戻る。



yh20140617Ricoh_structure_495px.jpg 図4 色素増感太陽電池の構造 出典:リコー



このような仕組みを採っているため、太陽電池として機能するためには非常に微細な金属酸化物ナノ粒子(灰色の大きめの円)と増感色素(ピンク色の小さな円)、固体電解質(黄色)がそれぞれ密着していなければならない。一般的な色素増感太陽電池のように電解液を使っていれば、すき間はできにくい。ところが、リコーの方式は電解液を固体化している。密着が難しい。いかにして密着させるかが、肝心だ。

ここに工夫がないと、図5に示したように二酸化チタン粒子からなる多孔質膜内部にすき間(未充填部)が多くなり、太陽電池としての性能が悪くなる。とくに安全性が下がる。図5では下側から光を受け取る形だ。図4の状態から反時計回りに90度回転させて撮影した。


yh20140617Ricoh_conventional_SEM_590px.jpg 図5 従来工法で作成した色素増感太陽電池の断面の走査型電子顕微鏡像(左下の白い棒は100nmを表す) 出典:リコー




高圧の二酸化炭素を使って「詰める」


 

このようなすき間が生じにくくなる方法を開発した。「超臨界充填法」と呼ぶ。ガス状の二酸化炭素を加圧すると、74気圧(7.37Pa)、31.1度以上の状態で液体とも気体とも違う極めて反応性の高い超臨界状態になる。超臨界充填法により、二酸化酸化チタンナノ粒子のすき間に固体電解質を効率よく詰めることできた(図6)*5)。「この製造法は効果的だが技術的難易度は高くない。さらに一般的な製造装置を利用可能だ」(リコー)。

*5) 「今回の13.6μW/cm2という性能は二酸化炭素を使わないスピンコート法で試作したセルの値だ。超臨界状態の二酸化炭素を使えばより出力が高まると考えている。加えて、室内光のスペクトル特性に適した最適化が完了していない」(リコー)。





今回開発した太陽電池セルの構造は複合機(コピー機)に用いられている有機感光体と似ており、同社の材料技術や製造技術が役立ったのだという。「有機感光剤を複合機に利用する際も、成膜技術を利用している」(リコー)。


今後の開発ポイントは?


 

完全固体色素増感太陽電池は、研究開発途上にある。「今回の成果は1cmの基板上に作成した0.15cm2のセルの性能を自社測定したものだ。(上に挙げた)アモルファスシリコン太陽電池なども、開発品と測定条件を合わせている」(リコー)。

2014年6月25日~27日に東京ビッグサイトで開催される「第25回 設計・製造ソリューション展(DMS 2014)」では、開発した太陽電池セルを直列接続したモジュールのサンプル品を早くも展示する予定だ。

冒頭で紹介したサンプル出荷に至るまでに必要な開発項目も残っている。「低コスト化はもちろん、理論上の最高効率になるべく近づけるような開発を進める。屋外で利用できるよう、耐久性をさらに高めるという改善点も残っている」(リコー)。

http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1406/17/news034.html