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COP23の議長国を務めたフィジーの首席気候変動交渉者が突然の解任。先進国から入り込んだ欧米コンサルタントらが暗躍(?)温暖化交渉を先進国有利に誘導の懸念(RIEF)

2018-03-08 00:30:33

Fiji1キャプチャ

 

 昨年、ドイツ・ボンでの気候変動枠組条約第23回締約国会議(COP23)で、パリ協定の目標実現に向けた「タラノア対話」を提唱、採択に尽力した議長国フィジーの首席気候変動交渉者が、突然、解任された。同氏の解任の背景には、先進国の援助により「途上国の政策支援」と称して、フィジー政府内に入り込んだ欧米コンサルタントの影響力が働いたとの指摘がある。

 

写真は、解任されたフィジーの首席気候交渉担当者のNazhat Shameem Khan氏)

 

 先週、急きょ、気候交渉担当の職を解かれたのは、Nazhat Shameem Khan氏。報道によると、フィジーの首相官邸は、Khan氏の解任の理由については答えず、後任のLuke Daunivalu氏について「タラノア対話を成功裏に導くためのチャンスを最大化するチームワーク能力を保有している」とだけ説明している。逆にいうと、Khan氏はチームワークに問題があったという風にも聞こえる。

 

 「タラノア」はフィジー語で、太平洋諸島の概念である、包括的・参加型・透明な対話を目指すことを意味する。Khan氏のリーダーシップで採択されたCOP23の数少ない成果の一つであり、今年のポーランドでのCOP24で、同対話の開催を確認する予定だ。対話は、現状での温室効果ガス排出量の確認、2020年以降の各国・各地域での排出削減目標の検証、削減方法の検討などを協議して情報共有を目指す協調型のアプローチだ。

 

 同対話はフィジーの主導権で提案されたことから、Khan氏は、COP24においても、ポーランドとともに対話の推進に大きな役割を果たすことが期待されていた。ところが突然の解任の背景では、国連の気候変動枠組み条約事務局(UNFCCC)が所在するジュネーブとフィジーとの外交的確執に加え、オーストラリアや米欧系のコンサルタントとのさや当てが報じられている。

 

cop23の会議模様
cop23の会議模様

 

 フィジー政権内の摩擦は、直接的には、同国が先進国の援助を得て政策立案のアドバイザーとして採用しているオーストラリアや米欧のコンサルタントとKhan氏の対立という状況が指摘されている。COPなどのグローバルな温暖化対策の議長国を途上国が務める場合は、先進国の資金援助によって政策立案のアドバイザーを雇用する慣例のようになっている。

 

 現在は米法律事務所の Baker McKenzieのほか、気候関連専門家として英国のSystemiq社、広報担当には、米国のQorvisがそれぞれ雇用されている。またオーストラリアのJohn Connor氏がアドバイザーの代表に指名されている。

 

 これらのコンサルタントは、形式的にはフィジー政府に雇用される形だ。だが、支払われる費用は主に先進国が出資したファンドから出ることから、実質的な雇用主は先進国、との見方もできる。実際にCOP等の場での取りまとめ文書の作成にも深く関わり、COP23の際にも、「先進国寄りの文言を盛り込んでいる」と他の途上国関係者から批判が出たという。

 

 英情報紙のClimate Home Newsによると、Khan氏を中心とするフィジーの気候変動担当者たちは、当初はコンサルのシナリオに乗っていたが、国際会議等での経験を積むにつれ、独自の視点を強調するようになったという。特にKhan氏はその中心だった。そこで、コンサルチームがフィジー首相の Frank Bainimarama氏に働きかけ、自分たちの思い通りに動かない彼女の解任を強く求めた、との内部情報を紹介している。

 

COP23を記念して発行されたフィジーの切手
COP23を記念して発行されたフィジーの切手

 

 フィジーの気候変動担当者からは「われわれのような小さな島国は、先進国から派遣されたコンサルに厳格にコントロールされている。こうした状況は相互の信頼のためには良くないことだ。だが、コンサルたちは、一歩引くということをしない。となると、彼らとの関係は非常に厳しくなる」と内情を訴える声があがる。

 

 さらには、別の関係者は「欧米からのコンサルたちのアドバイスの多くは、役立つというよりも、むしろ有害なものが多い。彼らは地域の視点を無視し、傷つけることが多い」と指摘する。

 

 首相官邸は当初、「今回の首席気候変動担当者の交代においては、いかなる不正な影響もなかった。そうした指摘は虚偽であり、誤解を招くものだ」と強く反論した。ところが今週初めになって、Bainimarama 首相は(Khan氏とコンサルの間での)関係の悪化があったことを認めた。ただ、交代理由については、あくまでも担当者の若返りのため、と強調している。

 

 同首相は、COP23で自らが行ったスピーチ原稿を、PR会社QorviのGraham Davis氏と、英コンサルのJames Cameron両氏に作成させていたことがわかっている。Cameron氏はフィジーの気候交渉チームの長期アドバイザーとして雇われている。

 

 米欧のコンサルチームは、フィジーが昨年、途上国で初めて発行した5000万㌦のグリーンボンド発行でも推進役を演じたという。同ボンドは、トランプ大統領の温暖化対策無視の姿勢に反論する形でCOP23の場で展開された「America’s Pledge」キャンペーンを盛り上げる役割にも貢献した。温暖化対策推進で先進国・途上国が足並みをそろえていることを強調する演出が主だった、との見方もある。

 

 米欧のコンサルタントが、途上国の政策力を補完する当初の役割を超えて、政策そのものを先進国に有利なように誘導したり、交渉担当者を自分たちに都合のいい人物に入れ替えるような圧力を政権内部でとっているとすると、温暖化対策をめぐる先進国と途上国の対立と途上国側の不満は、根本的には変わらない。むしろ、途上国側の反発は今後さらに広がり、パリ協定の実行自体が宙に浮く可能性もある。

http://www.climatechangenews.com/2018/03/06/fiji-climate-lead-lost-job-challenging-consultants-influence/