HOME8.温暖化・気候変動 |欧州の農民や市民が連帯し、EUの温暖化目標は不十分として規制強化を求める訴訟を欧州司法裁判所に提起。日本の2030年目標より厳しいEU目標でも、気候変動は防げない、と指摘(RIEF) |

欧州の農民や市民が連帯し、EUの温暖化目標は不十分として規制強化を求める訴訟を欧州司法裁判所に提起。日本の2030年目標より厳しいEU目標でも、気候変動は防げない、と指摘(RIEF)

2018-05-27 00:32:19

EU8キャプチャ

 

 欧州の農業関係者や市民らが、EUを相手取り、気候変動対策が不十分だとして、欧州司法裁判所に提訴した。EUは温暖化対策のため、2030年に温室効果ガスの排出量を現行(1990年比)40%削減するという日本より厳しい目標を掲げているが、住民たちは、これでは住民の生活のための基本的権利や、健康、仕事、財産を守るのには不十分として、目標の引き上げと、規制の強化を求めている。

 

 (写真は、ルクセンブルグにある欧州司法裁判所)

 

 訴訟の被告は、EUの意思決定機関である欧州理事会と欧州議会。EUでは欧州理事会や同議会などがEUのために必要な行動をとらない場合、これらの機関を被告として不作為の違法認定を欧州司法裁判所に求めることができる。個人も原告になれる。

 

 今回の訴訟は、フランス、ドイツ、イタリア、ポルトガル、ルーマニア、スウェーデンなどのEU諸国の住民に加えて、ケニア、フィジーの住民らも参加している。環境訴訟を広く手掛けるドイツの弁護士、Roda Verheyen氏の事務所が代理人として行動している。同氏は「気候変動は欧州各国のほか、世界中で訴訟対象となっている」と指摘している。

 

原告の一人、フランスのラベンダー農家のMaurice Feschetさん
原告の一人、フランスのラベンダー農家のMaurice Feschetさん

 

 原告らの主張はEUが導入している排出権取引制度(EU-ETS)のほか、気候変動対策の各規制、土地利用計画、森林規制等を対象とし、規制の不十分さが市民に不利益を強いていると指摘。損害賠償の請求ではなく、規制の強化を求めている。

 

 すでにEU内でも気候変動訴訟は提起されている。オランダ政府が設定した温室効果ガス削減目標(2020年までに14-17%削減)が不十分だとして住民が提訴した訴訟では、2015年に削減目標を20%とすることを命じる判決が出ている。オランダ政府は控訴し、その控訴審判決が今月28日にも出る予定だ。

 

 今回、欧州横断的な原告団の一員となったフランスのラベンダー製造農家のMaurice Feschet氏(72)は、英紙ガーディアンのインタビューに答えて「わわれわれはフランスで1800年代から農業を続けている。この6年間だけでも、気候変動の影響で収穫は44%も減少している。息子が農業を継承してくれているが、気候変動の影響で困難になっている」と打ち明けている。

 

突然の豪雨で洪水で水に浸かったポルトガルのAlgarveの街。
突然の豪雨で洪水で水に浸かったポルトガルのAlgarveの街。

 

 ポルトガルで有機農業を営むAlfredo Sendim氏(52)も「昨年は、年間を通じてほとんど雨が降らなかった。その後、2週間続けて年間雨量と同量の雨が一気に降るという事態に直面した。不安定な気候の影響で農業の持続可能性が失われている」と訴える。

 

 スウェーデンの北極圏地帯に住む先住民のサミ族のSanna Vannar氏(22)は、サミ族の権利を守る青年組織「Sáminuorra」の議長を務める。トナカイの放牧で生計を立てているサミ族は、気温上昇の影響でトナカイの生育に必要な草木が不十分となり、放牧事業に支障が起きていると指摘している。「トナカイを失うと、サミの文化は維持できなくなる。サミの若者の未来が失われる」と指摘している。

 

スウェーデンのサミ族が生活の糧とするトナカイ。気温上昇でエサが十分に確保できず、危機に直面
スウェーデンのサミ族が生活の糧とするトナカイ。気温上昇でエサが十分に確保できず、危機に直面

 

 訴訟には多くのNGOなどが支援体制をとっている。ドイツのシンクタンク「Climate Analytics」の科学者らが弁護団に科学的データ・分析資料を提供し、訴訟費用についても、ドイツのNGOの「Protect the Planet」が提供している。欧州最大のNGOである「Climate Action Network(CAN)」も、支援を表明している。

 

 CANの欧州担当責任者のWendel Trio氏は次にようにコメントしている。「パリ協定では、世界の気温上昇を2°より十分低く抑えるとの目標で合意したが、EUの現在の目標では協定の達成には不十分であるのは明らか。EUは2020年までに削減目標の引き上げを明確にする必要がある。今回の訴訟は、気候変動の影響を受ける“普通の人々”によって提起されたということで、事態の緊急性と深刻性を示している」。

 

http://rae-guenther.de/anwaelte/dr-roda-verheyen/