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風力発電で電力需要代替には、従来推計の5~20倍の面積が必要。風力発電自体の環境負荷で平均0.24℃の気温上昇の可能性。ハーバード大の研究チームが分析(RIEF)

2018-10-09 08:27:10

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   風力発電や太陽光発電も環境負荷を高め、気温上昇も引き起こすことが、米ハーバード大学の研究者によって公表された。まず、再エネ発電に必要なスペースは従来考えられていたよりも、5~20倍も面積が必要なほか、大規模風力発電を全米で展開した場合、平均0.24℃の気温上昇につながるという。環境関連の専門サイト、「Environmental Research Letters」と「Joule」に掲載された。

 

 研究をまとめたのは、ハーバード大学の「Gordon McKay Professor of Applied Physics」所属のデビッド・キース(David Keith)教授らのグループ。グループは、2016年の全米地質調査(U.S. Geological Survey)による、全米の風力発電施設5万7366機のタービンデータを元に、411の風力発電施設と1150の太陽光発電施設の定量発電量を計測した。

 

  その結果、風力発電については、これまで専門家が推計していたよりも、最大で100倍も低い発電量でしかなかったという。風力発電の場合、風車のブレードの影響で、風を受けた風車の後部に設置された風車が十分に発電できないという『ウィンド・シャドウ(風車の影)』の影響が生じるためとされている。

 

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 現在、世界中で展開されているウィンドファームの場合、こうした「風車の影」の影響を最小化するための工夫がなされているが、それでも風車同士の相互干渉や、影響は避けられないという。

 

 太陽光発電の場合も、1㎡当たりの発電量は風力発電よりも10倍以上大きいが、これまでの主要なエネルギー専門家による推計よりも、低い発電量だという(実際の発電量を確保するには、より広い土地が必要になるわけだ)。

 

 今回の研究では実証的なデータに基づいて分析した結果、従来の推計量よりも最大で100倍も発電量が減る事例が実際に観測された点がポイントだ。研究チームは「風力発電の事業推計の多くは風車のタービンの大気中での相互干渉の影響を受ける。特に奥行が5~10km以上の大規模なウィンドファームではその影響が大きい」とみている。

 

 また、現在の米国の電力需要と同量を風力発電だけで賄うために、全米の3分の1 の土地に風力発電を設置すると仮定し、標準的な気候予測モデルを使って推計すると、地表の温度は平均0.24℃上昇することを確認した。特に夜間の気温上昇は最大で1.5℃の上昇になるという。風力発電の稼働による気温上昇は、風車のタービンが空中と地上との大気を攪拌することで生じるとみられる。

 

 風力発電による気候への影響は、気温上昇だけではない。9月に科学誌「Science」に発表されたYan Li氏らの研究によると、アフリカのサハラ砂漠に、風力発電用のタービンを集中設置した場合、周辺の気温や降雨量、さらに植生にまで影響を及ぼすという推計結果が示されている。

 

 太陽光発電の場合も気温上昇への影響が推計される。だが、その影響は風力発電に比べると、10分の1以下と小さい。

 

 研究チームは、これらのモデルを使ったシュミレーション結果は、他の10以上の研究成果とも整合性がつくとしている。また、風力発電に起因する気温上昇は、ウィンドファームが林立する北部テキサス一帯の衛星を使った観測結果で確認された気温上昇とも一致するとしている。

 

 キース教授は、「風力発電はあらゆる環境的尺度で石炭より優れている。だが、その環境への影響を無視できるものでもない」と指摘。そのうえで、「われわれは温室効果ガスの排出量を削減するため、早急に石炭火力燃料から転換しなければならないが、そのためには多様な低炭素技術の中から、社会的、環境的影響を踏まえて、何を選択するかを十分検討しなければならない」と警告している。

https://news.harvard.edu/gazette/story/2018/10/large-scale-wind-power-has-its-down-side/