HOME8.温暖化・気候変動 |ドイツ政権内で、エネルギー転換を促す「CO2税(カーボン税)」をめぐり、財務省と環境省が対立。両省の大臣は同じSPD所属。先週のフランスでの燃料税増税反対の市民行動が影響か(RIEF) |

ドイツ政権内で、エネルギー転換を促す「CO2税(カーボン税)」をめぐり、財務省と環境省が対立。両省の大臣は同じSPD所属。先週のフランスでの燃料税増税反対の市民行動が影響か(RIEF)

2018-11-22 15:49:25

ドイツ財務省(ベルリン)

 

  フランスで先週、エネルギー転換を理由としたガソリン・ディーゼル油への政府の追加課税へ反対する市民の抗議行動が広がったが、ドイツでもエネルギー増税が焦点になっている。独環境省が計画しているCO2税(カーボン税)に、財務省が「国民負担を高める」と反対を表明したためだ。両省の大臣は、連立政権の社会民主党(SPD)に属するが、国民の反発への警戒が政権内で広がっているようだ。

 

 ドイツは1999年に環境税(炭素税)を導入している。ただ、同税は税収の約9割を社会保険料の縮減等に充当する税収中立の制度として知られる。今回、独環境省はEU全体で、ガソリン自動車やディーゼル自動車から電気自動車に転換を促すため、現行の環境税の増税あるいは新たなCO2税、もしくはCO2価格制度の導入等を検討している、という。

 

 これに対して財務相のOlaf Scholz氏はこのほど、環境相のSvenja Schulze氏に対して、温暖化対策の増税は財務省として受け入れられない旨、申し入れた。ドイツ社会を驚かせているのが、 Scholz氏もSchulze氏も、ともに社会民主党(SPD)に属しており、明らかにSPDの中での政策の不一致を露呈したためだ。メルケル首相が基盤とするキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)も、環境相の路線に反対姿勢を示している。

 

メルケル首相のリーダーシップ低落の表れでもある
メルケル首相のリーダーシップ低落の表れでもある

 

 ドイツ与党内でCO2税への不満が高まっているのは、先週、フランスで 自動車のエネルギー転換を促すための燃料税増税に抗議する市民運動が全土で広がったことが影響している可能性がある。政権基盤が弱体化している連立政権にとって、生活負担を高めるCO2税の課税は政権の求心力にとって、さらにマイナスになるとの見方だ。

 

 財務省スポークスマンのDennis Kolberg氏 は記者会見で「市民に負担をかけるCO2税や、あらたなCO2価格制度などの導入は全く考えていない」ときっぱりと宣言した。これに対して環境省のスポークスマンのRegine Zylka氏は「(CO2税等の)新しい考えは、まさに検討を始めたばかりで、現時点では優先事項ではない。われわれの専門家が財務省とも協議していくことになるだろう」と、防戦している。

 

 ただ、事態は与党内の綱引きだけでは終わらない。ドイツの州政府の環境担当相からは、EUの方針に沿って、CO2集中の化石燃料依存社会からの転換を果たすには、連邦政府が明確な方針を示すべきだ、との要請があがっているためだ。

 

 化石燃料使用に高いコストをかけ、再エネを安くすることで、利用者の使用を再エネ分野に誘導する経済的手法によって、エネルギー転換の移行を促すというのが環境省の判断だ。そうした手法は理論的には正しいといえる。

 

 だが、消費者は同時に、現在使用するガソリンやディーゼル油の価格高騰に対しては拒否反応を示す。電気自動車に切り替える際の補助金があっても、切り替え時期に至っていないガソリン車等の保有者にとっては、新車購入はコスト増となり、電気自動車用の再エネ電力価格が安く供給されたとしても、切り替えのインセンティブにはなりにくい。

 

 また環境省の案では、自動車の燃料価格の増大だけではなく、暖房費の増税にもつながることから、生活費負担増への市民の不満はさらに高まることが予想されている。

 

 日本では現在、環境省の中央環境審議会で、カーボン税導入の議論が進行中だ。ただ、ドイツや他の欧州諸国とは異なり、日本の財務省と環境省はむしろ二人三脚の形で、カーボン税導入を目指しているとされる。税収不足が続くわが国では、カーボン税だろうと、消費税だろうと、できるものは何でも増税したいというのが、財政当局のスタンス。気候変動対策のカーボン税ならば、日本では市民からの反発も少ない、と見込んでいるようだ。

 

https://www.bundesregierung.de/breg-en