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天然ガス転換は温暖化対策に不十分?(National Geographic)

2012-03-15 20:11:46

アメリカのウェストバージニア州にある石炭火力発電所。最新の研究によると、世界中の石炭火力発電を天然ガスに切り替えたとしても、地球温暖化対策としてはほとんど効果がないという。
石炭に代わるクリーンなエネルギーとして近年注目を集める天然ガス。しかし最新の研究によると、世界中の石炭火力発電所を天然ガス火力に切り替えたとしても、地球温暖化の進行を先延ばしする効果は今世紀中ほとんど見込めないという。研究を率いた物理学者のネイサン・ミアボルド(Nathan Myhrvold)氏は、「天然ガスには優れた点がいくつもあるが、地球温暖化対策としては役に立たない」と話す。

アメリカのウェストバージニア州にある石炭火力発電所。最新の研究によると、世界中の石炭火力発電を天然ガスに切り替えたとしても、地球温暖化対策としてはほとんど効果がないという。


 二酸化炭素(CO2)は現段階で大量に排出されてしまっており、大気中での寿命も非常に長い。これから完全にCO2を排出しない電力に切り替えたとしても、今後100年間の温度上昇を食い止めることはできないという。石炭から天然ガスに切り替えた場合は、100年後の温度上昇を20%程度抑えるだけにとどまる。ただし、再生可能エネルギーや原子力では60~80%ほどの抑制効果が予想されている。

 ミアボルド氏は以前にマイクロソフト社のCTO(最高技術責任者)を務めていた人物で、宇宙物理学や化石研究、さらには料理本の執筆など、多方面で才能を発揮している。地球温暖化問題にも以前から関心を抱いており、今回はアメリカのカリフォルニア州スタンフォードにあるカーネギー研究所の気候変動専門家ケン・カルデイラ氏とタッグを組み、石炭発電に代わる選択肢の研究に取り組んだ。

 2人は、「世界中で石炭火力発電をほかの選択肢に切り替えた場合、気候にどのような影響があるか」をテーマに据えた。この点を体系的に調査した先行研究は存在しなかったという。

◆切り替えの効果

 現在、世界中の石炭火力発電量を総計するとおよそ1テラワットになる。ミアボルド氏とカルデイラ氏は、その発電量を天然ガスや太陽光パネル、風力、原子力などに切り替えた場合について、いくつかの期間を設定してモデル化した。

「まるで予想に反する結果となった」とミアボルド氏。「転換後のCO2排出量が2分の1や3分の1に減少しても、ほとんど効果がない。今世紀中の地球温暖化を大幅に抑制するためには、10分の1や20分の1といった劇的な排出削減が必要だ」。

 仮に今後40年かけて世界中の石炭火力を天然ガスに切り替えた場合、ワット時あたりの温室効果ガス発生量は半分に減るが、温暖化のペースはわずかに遅くなる程度だった。石炭を使い続ける場合に比べて、100年後の温度上昇の抑制率は17~25%に留まるという。

 他方、原子力や風力、太陽エネルギーなど、温室効果ガスをほとんど排出しないエネルギー源に切り替えれば、温度上昇を57~81%抑えられる。

 この研究では、電気使用量の増減は考慮していない。しかし需要は今後100年間で全世界的に増大すると予測されている。現実の世界に与える影響はもっと過酷になるだろう。

◆橋渡し役?

 アメリカの天然ガス推進団体「アメリカン・クリーン・スカイズ・ファウンデーション(American Clean Skies Foundation)」でエネルギー政策アドバイザーを務めるパトリック・ビーン氏は、今回の研究を受けて次のように話す。

「一つの研究成果として評価するが、それでも天然ガスは役に立つと考えている。風力や太陽エネルギーは価格がまだ高すぎる。資金的・政治的制約がある中、クリーンなエネルギーに向かう“橋渡し役”として、天然ガスは重要な役割を担っている」。

 しかし、研究チームのカルデイラ氏は、「結局は天然ガスへの投資マネーは化石燃料業界に回る。業界の政治力が増すだけだ」と主張する。「いずれにせよ、エネルギーの無駄遣いを止められないのなら、どんな努力も無駄になる」。

 研究の詳細は、「Environmental Review Letters」誌で2月に発表されている。
http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20120315001&expand#title