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米政府、気候変動の評価報告書(NAC4)を公表。しっかりとした温暖化対策をとらないと、最悪の場合、米GDP10%以上の損失の可能性も(RIEF)

2018-11-26 16:59:45

NCA46キャプチャ

 

   米政府は23日、4年ごとに気候変動の影響の推計の公表を義務付けられている「第4回気候評価(Fourth National Climate Assessmen:NCA4)」を公表した。気候変動に伴う米経済の損失は今世紀末までに主要な損失だけで毎年、5000億㌦(56兆円)規模に達し、最悪のケースでは国内総生産(GDP)の10%以上の2兆㌦(約226兆円)に達する可能性もあると指摘している。

 

   報告書は法律によって、政府に作成が義務付けられて入る。12月に公開されるとみられていたが、トランプ政権は連休前の先週末に公表した。今回公表分はNCA4報告書の第2巻で、第1巻(Climate Science Special Report:CSSR)は昨年11月にすでに公開されている。今回の第2巻は、CSSRの科学的分析に基づき、気候変動が人間の生活や社会、環境への影響、全米10地域ごとの変化、18のトピックス、リスク軽減策等についての評価などを盛り込んでいる。

 

 報告書の取りまとめ責任者である米海洋大気局(NOAA)環境情報センターの技術サポート部門責任者、デービッド・イースターリング(David R Eastereling)氏は、「報告書をまとめる過程で外部からの干渉はなかった」と強調した。

 

  分析は今後の温室効果の程度(RCP)が、+2.6W/㎡、+4.5W/㎡、+6.0W/㎡、+8.5W/㎡にそれぞれ変動した場合のシナリオ分析を行い、もっとも影響の多いRCP8.5についての経済・社会・環境等への影響を中心に予測した。温暖化対策をほとんどとらない現状の延長線(BAU)のRCP8.5に比べ、中間的な対策のRCP4.5をとる場合ではGHGの排出量は85%減少する。

 

NCA42キャプチャ

 

 明確な温暖化対策をとらない場合、今世紀末の気温上昇は5°C(9°F)かそれ以上に達する。米国の場合、シナリオによって1.6°C~6.6°Cが見込まれる。夏場には、華氏100度(約37.8°C)を超える日が増加するわけだ。その結果、米国の多くの地域で降雨量が増し、冬場も雪よりも雨が多くなる。集中豪雨や洪水の被害が増える可能性がある。降雨量が増える一方で、雪の減少で土壌表面の乾燥が進む。

 

 海面上昇は1900年以来現在まで16~21cmとなっており、その半分は1993年以降の上昇と加速している。これが今世紀末には、0.3~1.3mの上昇となる。RCP8.5シナリオでは蓋然性は低いが、南極の氷床の安定が崩れると、2.4mの上昇になる物理的可能性もある、と指摘している。海面上昇の結果、沿岸部での洪水が増加するほか、沿岸部を襲うハリケーンの増大にもつながるとしている。

 

 北極圏の海氷の溶解は進み、今世紀半ばには夏場の北極海ではほとんど海氷が消えると予測している。北極圏の永久凍土の溶解も進み、凍土に閉じ込められていたCO2やメタンガスの排出が増大することで、温暖化が一層加速するとしている。

 

 気温の上昇と降雨と乾燥の増大等は、農業セクターに大きな影響を及ぼす。全米で作物の収穫量と品質の低下が進むとみられる農業地域での気候変動への適応力(Adaptation)の限界で、住民の経済力は低下し、コミュニティの脆弱化が進む。都市部でも、熱ストレスの増大によって生産性が低下する可能性が高まる。貧困率も上昇する。

 

主要セクターでの損失推計
主要セクターでの損失推計

 

 人間の健康面では、高温化による死者が増加する見通しで、中西部では2090年までに早死にする人が年間2000人増えるとしている。蚊やダニを媒介する病気の増加、ぜんそくやアレルギーの悪化、食品や水由来の疾病リスクの増大も予測される。特に夏場の気温が今以上の高まることから、子どもや高齢者、経済的困窮者などの病気や死亡を増大させる恐れがある。RCP8.5だと年間医療コストは、RCP4.よりも50%多くなる。

 

 自然への影響では、山火事で年間焼失する面積が2050年までに現在の6倍に増えるほか、ハワイやカリブ海では高温により安全な飲み水の確保が困難になる。

 

 報告書はこうした温暖化の影響による経済的損失を、影響を受ける主要セクターごとに、RCP8.5とRCP4.5の場合の比較推計を掲載している。それによると、RCP8.5の場合、労働面での年間損失は1550億㌦となるが、対策がとられて温暖化の進行がRCP4.5にとどまった場合は、損失の48%を削減できる。同様に異常気象による死亡損失額推計は1410億㌦で、対策によって58%を削減できる。

 

 さらに気候変動のシナリオごとのGDPへの直接影響の試算では、RCP8.5シナリオで気温上昇が15°C前後になると、国内GDPの最大約11%の損失となる。米国の現在のGDPは19兆3900億㌦(2017年)だから、おおよそ2兆㌦の損失になる計算だ。RCP4.5の場合は、気温上昇は最大でも8°Cほどで、GDPへの最大の影響は4%弱と推計されている。

 

https://nca2018.globalchange.gov/