ロシアがパリ協定批准の準備か（?） 国内産業界も前向きな動きをみせる。EUの貿易交渉をにらむ。ただ、「批准ジェスチャー」の可能性も（RIEF）
2019-02-08 22:22:52
パリ協定にいまだに批准していない国の代表格であるロシアが、近く批准するのでは、との観測が浮上している。ロシアの首席気候アドバイザーが、批准の是非を整理する準備に入ったと公表したほか、EUが貿易交渉においてパリ協定支援国を優先する姿勢を打ち出したことなどで、産業界にもこれ以上批准を遅らせるのは得策ではないとの見方が出ているという。早ければ3月にもプーチン大統領の判断を得て、議会の承認手続きに入るとの観測もある。
（写真は、ロシアの石油掘削作業、ロシアの温室効果ガス排出量は世界の5%）
ロシアはパリ協定には調印したが、批准はまだしていない。こうした未批准国は、ロシア以外にも12カ国ある。米トランプ政権は2017年に協定からの離脱を正式に宣言していることから、仮にロシアが批准すると、プーチン政権のほうが「地球のことを思っている」と、世界にアピールできるかもしれない。
キーマンとみられるのが首席気候アドバイザーのRuslan Edelgeriev 氏。同氏は批准問題に照準を合わせた論点整理の準備を行っていることを宣言したほか、1月には政府内の専門家会合に対して、2月末までに分析をまとめるよう指示したとされる。そのレポートは3月中にプーチン大統領に提出されるという。
これまで批准作業を無視してきたプーチン政権がこの段階で、分析報告レポートを提出させるというのは、単に分析のためだけではないとみるのが普通だ。対米関係の悪化、気候変動の現実化、対EU交渉等を踏まえて、批准をテーブルに乗せる準備に入った、というわけだ。
条約批准は議会の権限だから、分析レポートを受け取った大統領は、議会に提出する手順となる。Edelgeriev氏の一連の準備作業については、メディアで報道されているほか、かつては批准に慎重だったロシアの産業界からも協定に肯定的な声が上がり始めているという。
ロシア産業人と起業家連合（RSPP）のリーダーであるAlexander Shokhin氏が、1月17日に公表した書簡で「ロシアの製造業者は批准に関心を示している。気候変動と闘う国の義務や規制が不在であることが、ロシア企業に対する経済制裁を課すことの言い訳に使われる可能性がある」と警告した。
これは欧州委員会が、昨年、パリ協定を支援する国々を貿易交渉では最優先する、との姿勢を打ち出したことを踏まえた発言と受け止められる。実際、昨年、EUが日本との間で結んだ自由貿易協定では、パリ協定の批准と実行について、協定文書で明確に言及している。Shokhin氏は、批准しないままの状態でいることで、競争が阻害される可能性と、不必要なコストが生じることを危惧している。
ロシアの温室効果ガスの排出割合は世界全体の5％を占め、日本より多い。ロシア以外の条約未批准国は、トルコ、イラン、イラク、レバノン、リビア、オマーン、イエメン、南スーダン、アンゴラ、エリトリア、キルギスタン、スリナムがある。ロシアが批准に動くと、これらの国々も、「眠りから覚める」可能性もある。
ただ、プーチン大統領が議会に批准案を委ねたとして、簡単に議会をパスするかの見通しについては異論もある。これまでもロシア愛国主義的な議員は協定に反対しており、プーチン大統領が代表を務める統一ロシア党も、議会投票の手続きを遅れさせるとの見方も出ている。
ロシア政府内にも反対派は根強い。科学省の代表は、政府内の専門家会合において、公式に批准反対を表明したという。ロシアは国連気候変動枠組み条約事務局（UNFCCC）が先にまとめた1.5℃の気温上昇にとどめるべきとする特別報告書の採択に反対した国のひとつでもある。
このため、「批准ジェスチャー」をして、欧州等の関心を引こうとするプーチン大統領の戦略ではないかとの見方もある。日本との関係に照らしてみると、北方領土を「返すぞ」とのジェスチャーを繰り返して、日本の関心を引き、実は経済的メリットの獲得を優先する姿勢と、どことなく共通するようにもみえるが、どうか。
Research Institute for Environmental Finance