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東欧スロバキアで初の女性大統領に選出されたチャプトバ氏、環境重視の敏腕弁護士。同国の気候変動政策の転換へ期待高まる(RIEF)

2019-04-02 15:42:50

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 東欧のスロバキアで初の女性大統領に選出されたリベラル系弁護士のズザナ・チャプトバ氏(45)は、長年、弁護士として環境問題に取り組んできた「環境闘士」。CO2高排出企業が集積し、エネルギーも石炭依存度の高い同国の「クリーン化」への期待が高まっている。

 

 チャプトバ氏(Erin Brockovich’ Zuzana Čaputová)は東欧のハンガリーやポーランドで勢いを増しているポピュリズム的主張に背を向け、LGBT(性的少数者)の権利拡大などを訴えた。投票は決選投票となったが、チャプトバ氏の最終得票は58%を超え、対抗馬の欧州委員会委員のマロ・シェフチョビッチ氏を上回った。

 

 同氏は30日に支持者を前に演説し、欧州で勢力を増すポピュリズム(大衆迎合主義)政党とは一線を画す姿勢を強調した。「大衆主義に迎合せず、真実を語り、過激な言論なしで関心をかき立てることができてうれしく思う」と語った。

 

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 同氏は、離婚経験のある2児の母。弁護士として、1991年に同国西部の小さな町で起きた産業廃棄物の不正投棄によって周辺住民が健康被害を起こした事件に、14年にわたって取り組んできた経験を持つ。

 

 同事件は、裕福な開発業者が同国西部のPezinokという小さな町に、産業廃棄物を不法投棄したもの。ワインの生産が中心の静かな町は、不法投棄後、漏洩した有害物質が周辺住民の健康を害し、がんの多発、呼吸器疾患、アレルギー症状、白血病などが引き起こされた。

 

 70年代に米国で起き、米国の環境政策を転換する事件となった「ラブカナル事件」を彷彿させる出来事だった。同地の白血病発生率は国平均の8倍にも上昇した。チャプトバ氏は被害住民の救済を求めてめ法廷闘争を展開するとともに、欧州司法裁判所でも、環境に影響を及ぼす案件に対する住民の差し止め権の確立を求めて争った。

 

 チャプトバ氏のスポークスパーソンはメディアの質問に答えて、「新大統領にとって、気候変動問題への対応は、重要課題の一つ。パリ協定に沿って地球の気温上昇を1.5℃以内に抑えなければならないのは明らか。経済だけでなく社会全体をグリーン化しなければならない」と述べ、同国の気候対策の転換を目指す考えを示した。

 

 スロバキアは、2004年のEU加盟後、西欧企業の多くが工場を建設、特に自動車、金属、鉄鋼、化学等のCO2排出量の多い産業の集積地として知られる。またエネルギーでも、CO2排出量の多い褐炭の生産に国の補助金を投入している。2023年までに石炭関連事業を縮小する方針を立ててはいるが、実現性に疑問符が向けられている。

 

 チャプトバ氏はこれまでも、石炭産業への補助金提供を強く批判してきた。同氏は石炭鉱山の迅速な廃止とともに、影響を受ける地域と労働者への支援を掲げている。

 

 スロバキアは東欧の中でも中欧4カ国で構成するヴィシェグラード・グループの一員でもある。他のメンバーは、ハンガリー、チェコ、ポーランド。いずれも、西欧諸国が中心になって推進する野心的な気候変動対策には批判的で、EU内の結束に影響を与えてきた。しかし、チャプトバ氏は、より西欧的な気候変動対策をとるとみられ、同グループへの影響も期待されている。

 

 ただ、同国では大統領が絶対的な権限を有するのではなく、議会との調整が最大のカギとなる。石炭産業への補助金の存廃についても、大統領権限で廃止することはできない。あくまでも議会との協議が前提だ。14年かかって勝利を得た廃棄物訴訟のように、粘り強い交渉力で、議会を説得できるかどうかがカギとなる。

 

 スロバキアでは昨年2月、腐敗問題を取材していたジャーナリストのヤン・クツィアク氏とその婚約者が殺害されるという事件が起きた。この事件をきっかけに、国内では市民の権利擁護を求める大規模デモが発生、当時のフィツォ首相は辞任に追い込まれ、アンドレイ・キスカ大統領も再選出馬を断念せざるを得ないという状況に陥っていた。

 

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