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グリーンランドの「氷河収支バランス」、2000年代以降、急速に「消失超過」の「赤字」に転換。グローバルな経済成長構造の変化の影響を体言。海面上昇も加速。国際研究チームの研究で判明(RIEF)

2019-04-23 21:33:19

greenland11キャプチャ

 

  温暖化の進展で、氷河の融解が進んでいるグリーンランド(デンマーク領)の過去46年間の氷河収支(氷河質収支:マスバランス)を推計したデータによると、毎年、冬季の堆積と夏季の消失を繰り返しているが、現在の消失量は1980年代に比べて、6倍に増えていることがわかった。温暖化の加速を明瞭に示す。グリーンランドの氷河の融解による海面上昇は、1972年以来13.7mmで、うち半分は過去8年間に生じている。同地の氷河が全部溶けると、海面は7m上昇する。

 

 研究チームは、米カリフォルニア大学アーバイン校のフランス人氷河学者エリック・リグノット氏のほか、仏グルノーブル、オランダ・ユトレヒト、デンマーク・コペンハーゲン等の研究者で構成した。研究論文は今週初めに、米科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載された。

 

 チームは、グリーンランドの氷の融解量を測定するため、主に3種類の計測方法を採用した。①人工衛星からレーザー光を使って氷河の高さを測定②重力の変動を測定③チームが開発した質量平衡モデル。このうち、①は米航空宇宙局(NASA)の人工衛星を活用した。氷河の融解によって氷河の高さが変化することを衛星で測定する手法だ。

 

グリーンランドを7地区に分けて調査。Bは氷河の厚み、Cは氷の解ける速さ、Dは累積の消失量
グリーンランドを7地区に分けて調査。Bは氷河の厚み、Cは氷の解ける速さ、Dは累積の消失量

 

  二つ目も人工衛星を活用して、氷の融解による重力の減少を把握する手法。三つ目のモデルは(冬季の雨や雪によって)堆積した氷の質量と(夏季に生じる氷の河川流出によって)失われた質量を比較して、残存質量を算出する手法だ。チームは同モデル分析のため、260以上の河川流域を対象としてモデル測定を行った。

 

 これらの手法を組み合わせ、1970~1980年代のグリーンランドの氷河収支(マスバランス)を測定した。その結果、1970年代(1972年~80年)の収支は堆積が年間平均47Gt(470億㌧)に対し、1980年代(80~90年)の消失は平均51Gtと、ほぼ同程度で推移していた。90年代は少し消失量が減り、41Gtだった。1972年から1990年は全体として氷河収支は安定していた。

 

 ところが、2000年代の消失量は187Gt、2010年代はさらに286Gtと急速に増加していることがわかった。この間、堆積量には大きな増減はなく、氷河収支は過去約20年間で一気に、消失超過に転じたわけだ。

 

経年的な氷河収支の地域ごとの変化。赤丸が「消失」、青丸が「堆積」 。赤丸が増え、増大していることがわかる
経年的な氷河収支の地域ごとの変化。赤丸が「消失」、青丸が「堆積」。赤丸が増え、増大していることがわかる

 

 この氷河収支変調の原因は、人類の経済活動で説明できる。1990年代から2000年代にかけては、先進国と中国以外の新興国・途上国の間に成長率の差はほとんどなかった。この間の中国の成長率は比較的大きく変動しているが、世界全体に与える影響はまだ限定的だった。

 

 しかし、2000年代になると、中国以外の新興国・途上国の成長が加速、一方で成長率が低下した先進国との差が拡大した。中国も成長率を上昇させ、2009年にはGDPで日本を抜いて世界第2位の経済大国になった。リーマンショックで2008年、09年の世界経済の成長は一時的に鈍化したが、その後、中国を中心に新興国・途上国の成長で回復、成長を続けている。

 

 単に、成長の軸が、先進国から中国や新興国・途上国にシフトしただだけではない。これらの地域でのエネルギー消費は石炭・石油等の化石燃料源に頼っており、従来の先進国主導の成長よりも単位当たりのCO2排出量が多く、その分、温暖化の進展を加速したとみられる。グリーンランドの氷河収支の変化は、そうした経済成長の変化の影響を明確に示しているいえる。

 

 1972年からのデータで海面上昇に寄与したグリーンランドの氷河の消失地域は、北西部が4.4mm分、南東部が3.0mm分、中西部が2.0mmと測定されている。これらの地域での氷河の溶解が多いのは海岸低地帯で潮流の影響を受けているとみられる。研究チームは、今後、グリーンランドの北部地帯を中心に、氷河の溶融は加速し、海面上昇を高める可能性があるとしている。

 

https://www.pnas.org/content/early/2019/04/16/1904242116