タイの「水上寺院」、温暖化による海面上昇と都市化の進展で、取り巻くマングローブ林が消失。しかし、「海に浮かぶ寺」としてインスタ映えで有名に(AFP)
2019-04-27 22:20:24
【4月26日 AFP】寺院周辺の海面が上昇するにつれ近隣住民らは逃げ出したが、僧侶のソムヌック・アティパンヨー(Somnuek Atipanyo)さん(51)は移ることを拒んだ。ソムヌックさんは今、タイで急速に進む海岸浸食との闘いの象徴となっている。
気候変動、工業型農業、急速な都市化という危険な組み合わせが原因で、タイ湾(Gulf of Thailand)沿岸は危機にひんしている。貴重なマングローブ林はなくなり、ソムヌックさんの寺院のように海面上昇で取り残される建物も出てきた。
ソムヌックさんの寺院は首都バンコクから南に約1時間離れた漁村サムットジーン(Samut Chin)にあるが、30年前に浸食が始まって以降住民の大部分は、数百メートル内陸に移動し、そこに木製の家を建て直して住んでいる。
ソムヌックさんは「水上寺院」と呼ばれている高床式の僧院にオレンジ色のけさを着て立ち、海を指さし、かつて学校があった場所を示す。「この寺は村の真ん中にあった」と、ソムヌックさんはAFPに説明した。
「私たちが寺を移動してしまったら、ここにかつて寺があったことを知る人がいなくなってしまう」と話す。今、小さな木製の橋がこの寺に行く唯一の手段になっている。
近辺の海岸は、以前は広大なマングローブ林によって守られていた。タイ湾の沿岸は世界でも有数のマングローブ林で知られ、広範囲に広がる根が海岸線を安定させ、浸食防止の役割を果たしていた。
現在、タイの貴重なマングローブ生態系を保全する取り組みが進められている。全国的なマングローブ植林ボランティアのプロジェクトが展開されており、ソムヌックさんの僧院周辺もその対象となっている。
■海面上昇による思わぬ効果も
ある晴れた日の午後、大勢の人が胸のあたりまで水につかりながらマングローブを植林していた。バンコク当局は2016年にマングローブ植林プロジェクトを立ち上げ、これまでに全国で84エーカー(約0.34平方キロ)相当の植林を実施した。
また、植林以外でも、マングローブの根の代わりとなるよう海底や海岸線にコンクリートの柱を埋め込む活動も行われている。観光地パタヤ(Pattaya)では海岸沿いに柱が埋められており、これまでのところ効果がみられるという。
ソムヌックさんの僧院周辺の海岸の浸食は今のところ食い止められているが、再び乾いた地面を見ることは絶望的だ。だが、海面上昇は思わぬ効果をもたらした。インスタ映えする自撮りスポットとして、この「水上寺院」に観光客の一団が押し寄せている。
「海岸浸食との闘いのおかげで有名になった」と、サムットジーンのウィサヌ・ゲーンサムット(Wisanu Kengsamut)村長は話した。