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米下院、民主党議員提案の「パリ協定からの離脱阻止法案」を可決。米議会で気候変動法案が可決されたのは10年ぶり。ただ、上院での可決見通しは立たず(RIEF)

2019-05-04 22:57:58

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 米下院は、パリ協定からの米国の離脱を阻止するために民主党議員が提案した「Climate Action Now Act(H.R.9)」法案を下院で可決した。同法案は協定からの離脱方針を打ち出しているトランプ政権が離脱のために連邦予算の使用を禁じる措置を含めている。ただ、上院は共和党優位のため同法案が成立する見通しは現時点ではない。

 

 法案は先週の下院で、賛成231、反対190で41票差で可決した。賛成票には224人の民主党議員が加わったが、共和党議員は一人も含まれていない。上院は共和党が多数のため、同法案の上院での可決成立の見通しはない。だが、米議会で気候変動対策法案が可決されたのはオバマ政権時代から10年ぶり。

 

  パリ協定からの離脱に要する費用は限定的だが、法案はトランプ政権の気候変動対策へ「ノー」の意思表示を象徴的にするために盛り込んだ。また、法案は政府に対して、国家の気候対策の確約への適合を求める内容を含んでいる。トランプ政権に対して、120日以内に、議会に対して政権の温暖化計画の報告を求める内容だ。

 

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 法案を提案した民主党のEarl Blumenauer議員(オレゴン州)は「トランプ政権は、パリ協定から唯一米国だけが離脱するという間違った政策をとって、米国を国際的に孤立化させているが、共和党はそうした政権の『歴史を悪い方向に導く政策』を守っている」と共和党を批判した。

 

 そのうえで、法案が下院で可決したことを「H.R.9の可決は、われわれの子どもたちの未来を守り、気候正義を守るための第一歩だ。さらにグリーン・ニュー・ディール政策によって、クリーンエネルギー関連雇用や持続可能な農業の再建・再生、環境正義の維持等を高めることにつながる」と強調している。

 

 「憂慮する科学者同盟(Union of Concerned Scientists)」のAlden Meyer氏は「この法案は、パリ協定からの離脱は、米国の総意ではないということを、国民や他の国々に対する“メッセージ法案”だ」と指摘している。

 

 下院のナンシー・ロペス議長も「法案は、地球とわれわれの未来を守るための最初の一歩だ」とコメントしている。民主党議員のFrank Pallon氏(ニュージャージー州)は「トランプ大統領に対して、われわれはパリ協定から離脱しないことを伝える法案だ」との主張だ。

 

 だが、上院が共和党多数である以上、下院での可決だけでは成立のメドはつかない。上院の共和党議員の間にも温暖化対策を重視する議員は少なくない。米議会での法案は議員提案のため、過去には、共和党・民主党両党の環境重視議員による共同法案が何度も提案されている。

 

 ただ、今回の民主党議員の提案は、来年の大統領選挙を見据えて複数の民主党候補が掲げる「グリーン・ニュー・ディール政策」と連動している部分が多く、共和党議員にとって、公式に賛成しにくい面がある。さらに共和党内がトランプ政権支持で固まっていることから、温暖化対策だけで、大統領と異質な立場を取りにくい雰囲気もあるという。

 

 来年の大統領選挙、さらにはトランプ政権が警戒する中国の対外政策の動向、気候変動影響の増大等の流動的な要素を含めて、米議会で気候変動対策法案をめぐる状況が急展開する可能性があるかもしれない。

 

https://www.congress.gov/116/bills/hr9/BILLS-116hr9rh.pdf