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モントリオール議定書で製造・使用が禁止されているフロン「CFC-11」、中国東部から大量放出。「新規製造・使用の可能性」。国際研究チームが解析(RIEF)

2019-05-24 00:21:22

CFC113キャプチャ

 

  英国ブリストル大学が率いる国際研究グループ(日本の国立環境研究所も参加)は、オゾン層破壊をもたらすため国際条約で使用が禁止されているフロン「CFC-11」の放出量が、2013年以降、中国東部で増加しているとの解析結果を公表した。放出量は地球全体の少なくとも40~60%と過半を占め、国際的な禁止措置にもかかわらず、CFC-11が新たに製造・使用されている可能性が高いと指摘している。

 

 (上図は、韓国のGosanステーション(済州島)と日本の波照間ステーション(沖縄県・波照間島)で観測された大気中のCFC-11濃度の変動)

 

 研究グループの論文は英科学雑誌「Nature」の5月23日版に掲載された。


   CFC-11は、かつてはエアコンの冷媒や、断熱材を作るのに必要な発泡剤などに使われていた。だが、オゾン層保護のモントリオール議定書の発効に基づき、2010年までに各国で製造や使用は停止されている。規制の結果、CFC-11の放出は80年代後半から長く減少傾向にあった。だが、2012年頃から逆に増加に転じていた。

 

大気観測データから推定されたCFC-11の年間放出量(ギガグラム/年、キロトン/年)。㊤米国海洋大気局のデータから推定された全球の放出量、㊦韓国と日本のデータから推定された中国東部からの放出量
大気観測データから推定されたCFC-11の年間放出量(ギガグラム/年、キロトン/年)。㊤米国海洋大気局のデータから推定された全球の放出量、㊦韓国と日本のデータから推定された中国東部からの放出量

 

 これまでの先行研究では、CFC-11の新規製造が東アジアのどこかで行われている可能性が示唆されていた。しかし、そうした国や地域は特定できていなかった。

 

 研究チームは、東アジアでCFC-11を観測している韓国のGosanステーション(済州島)と日本の波照間ステーション(沖縄県・波照間島)で、CFC-11の濃度が高くなるイベントがしばしば観測されることに注目。精査したところ、高濃度イベントの頻度と強度は2013年頃から特に韓国で高くなっていることを突き止めた。そうしたデータから、その近傍で継続して放出されていると推計した。

 

 次に大気輸送モデルを使って大気観測データからその原因となる放出量の地域分布を推定する手法(逆計算法)で分析した。その結果、中国東部で2013年頃からCFC-11の放出量が上昇していることをつかんだ。

 

 研究チームの推計では、中国東部からの2014-2017年間の年平均放出量は、その前の2008-2012年の5年間に比べて約7000㌧増えていることがわかった。この推計量は全球的な放出量増加のかなりの部分(少なくとも40~60%)を占めるという。

 

CFC-11の推定放出量分布。(a) 2008-2012年の平均放出量分布、(b) 2014-2017年の平均放出量分布、(c) 2008-2012年と2014-2017年の差。図中の▲と●は韓国と日本の観測地点。
CFC-11の推定放出量分布。(a) 2008-2012年の平均放出量分布、(b) 2014-2017年の平均放出量分布、(c) 2008-2012年と2014-2017年の差。図中の▲と●は韓国と日本の観測地点。

 

 放出量の分布の変化から、放出量の増加は中国北東部の山東省と河北省から主に生じていることもわかった。中国東部以外の西日本、韓国、北朝鮮、中国東部の4つの国・地域の放出量についても推定した。しかし、いずれも有意な増加は認められなかった。

 

 中国東部での増加の原因として、CFC-11の全廃前に製造された断熱材や冷凍機(CFC-11バンク)からの漏出とも考えられる。しかし、推定された放出量は、中国のCFC-11バンクのサイズよりはるかに大きいという。このためチームでは2010年の全廃にもかかわらず、CFC-11が新たに製造・使用されている可能性が高いと考えられる、としている。

 

 また中国では近年、CFC-11の製造に使われる四塩化炭素の放出量が増加しているとの報告例もあるという。モントリオール議定書の締約国会合では、議定書の専門家パネルに対しCFC-11の放出状況や想定される発生源に関する調査・報告を行うことを求める決定が採択されている。

 

http://www.nies.go.jp/whatsnew/20190521/20190521.html