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ロシア・モスクワでも「たった一人の温暖化抗議」、当局の厳しい規制監視の中、「恐怖」を克服してプーシキン広場に毎週金曜日に立つアルシャクさん(RIEF)

2019-05-25 19:38:56

russia11キャプチャ

 

 温暖化対策を求める子供たちの登校拒否(School Strike)運動がグローバルに広がる中で、ロシアに「たった一人のストライキ」を実践する若者が現れた。登校拒否を一人で始めたスウェーデンのグレタ・ツゥーンベリーさんと違うのは、ロシアでは許可されたデモ以外は、2人以上が連れ立って抗議の意思表示をすることは禁じられているため、「一人でなければできない」という事情がある。

 

 ロシアでたった一人の温暖化対策要求を求める街頭抗議行動を実施しているのは、24歳の学生、アルシャク・マキシャン(Arshak Makichyan)さん。 モスクワの中心部のプーシキン広場で、文豪プーシキンの像の前に立って、温暖化対策を求めるプラカードを掲げて立ち続けている。

 

 アルシャクさんが街頭での「一人抗議行動」を始めたのは、昨年10月、スウェーデンのグレタさんの温暖化行動を知ったためだ。自分たちの未来のために、今、効果的な温暖化対策を求めることの必要性を、自分もロシアの人々に訴えたい。だが、スウェーデンとロシアでは、人々が街頭で自らの意思表示をすることに、大きな違いがあった。

 

Russia21キャプチャ

 

 ロシアでは、許可を得た場合以外、人前での共同行動は法律で禁じられているのだ。18歳以下の子どもは一人で意思表示することも禁じられている。許可を得た場合でも、モスクワ市内ではソコルニキ公園内での行動に限定される。同公園は森林が多く人の出入りは少ないという目立たない場所だ。

 

 ただ、抜け穴はある。共同行動でなければいい。共同行動は二人以上の活動を意味するので、一人ならば当局の許可を得ずとも、自らの意思を示せるはずだ。しかし、当局に拘束される恐怖は払拭できない。

 

 逡巡していたアルシャクの不安を解消したのは、2月末にボリス・ネムツォフ氏を追悼する行進に参加した経験だったという。ネムツォフ氏はエリツィン政権時代に第一副首相を務めた人物。ロシアのウクライナ攻撃に反対する活動を展開していたが、2015年2月27日にモスクワ川の橋の上で何者かに銃殺された。

 

 アルシャクさんは行進の列の中で、プーチン政権の軍事行動に正面から反対したネムツォフ氏が殺されたのは、彼は死を恐れなかったからだ、と気づいたという。自分も「恐れないで行動しよう」。

 

今年2月27日に開かれたビリス追悼の行進
今年2月27日に開かれたネムツォフ氏追悼の行進

 

 

 アルシャクさんはまず、3月に友人たちと許可を得て、ソコルニキ公園で行進した。しかし、そのことを人々に知らせる手段はほとんどなく、50人ほどが集まっただけだった。その次にグローバル・スクールストライキに合わせて同公園で計画した抗議行動は、いったん許可されたが、その後取り消された。

 

 また参加者の一人は、警察が「過激思想の持主」の疑いがあるとして、学校に情報収集に来たという。こうした圧力に参加者たちは「恐怖」に凍り付いた。

 

 アルシャクさんは一人になった。一人でプーシキン広場にプラカードを持って立った。最初、警官は彼に気付かなかった。頭がおかしい奴と思われたのかもしれない。6週間、毎金曜日にグレタさんと同じように広場に立った。するとモスクワの英語紙の記者がインタビューに来た。次の週、記事を見たのだろう、警官がやってきて、質問を始めた。

 

 「何やってんの?」「いくらもらっているの?」など。警官はアルシャクさんのパスポートの写真を撮って去っていったという。彼らは基本的にアルシャクさんを無視した。もし、アルシャクさんが何かミスを犯したり、抗議行動が人々の共感を呼ぶような展開になった場合に逮捕する、というつもりかもしれない。

 

反逆の詩人・作家のプーシキンが見守る
死を恐れなかった詩人・作家のプーシキンが見守る

 

 一方で、良いニュースもやってきた。モスクワ以外の都市では、街頭での抗議行動に対する当局の規制は緩いので、キーロフ、ヤロスラブリ、イルクーツク、セント・ぺテルスブルグなどで、同様の抗議行動が少しずつ、広がり始めたのだ。

 

 またツイッターやインスタグラムなどのソーシャルメディア上でも情報が広がった。「Fridays for Future Russia 」のインスタグラムのページの設立された。多くの人々がアルシャクさんのサイトhttps://twitter.com/MakichyanA に参加するようになった。

 

少しずつ、ロシアの街にも「人々の意思表示」が広がり始めている
少しずつ、ロシアの街にも「人々の意思表示」が広がり始めている

 

 「ロシア語で気候変動について語り合える友達が増えた」とアルシャクさんは素直に喜ぶ。「一人の抗議行動」は10週間目を数える。「次はどうするか」。アルシャクさんは考えている。彼の行動を恐れて、抗議行動を許可しない人々に屈するか、われわれの将来をとるか。その選択だと考えている。

 

 

https://twitter.com/hashtag/LetRussiaStrikeForClimate?src=hash