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英国メイ政権、新たな気候変動対策目標として、2050年排出量ネットゼロを設定へ。主要先進国でカーボンニュートラルを法的目標とするのは初めて(RIEF)

2019-06-13 00:19:48

MayUKキャプチャ

 

  英国が主要先進国で初めて、2050年の温室効果ガス排出量ネットゼロとするカーボン・ニュートラル目標を設定する。退任を決めている英テレサ・メイ首相が、現行の気候変動法(Climate Change Act:CCA)改正を打ち出したもので、労働党なども賛成に回るとみられ、メイ首相の遺産(レガシー)政策になりそうだ。

 

 パリ協定の目標達成に向けて、各国は国別の温暖化対策の強化・明確化を進めている。日本政府も11日に2080年に80%削減を目標とする「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」を打ち出した。しかし、英国の新規目標は期限も目標値も、日本を大幅に上回る意欲的なものとなる。

 

 メイ首相は「我が国は、産業革命の期間、世界をイノベーションでリードした。今、われわれは世界を、クリーンで、よりグリーンな成長でリードしなければならない。傍観は選択肢にはない。2050年に温室効果ガス排出量をネット・ゼロにすることは野心的な目標だが、将来世代のための地球を確実に守るために、重要な目標だ」と語っている。

 

英議会の模様
英議会の模様

 

 現行のCCAでは2050年に80%削減を目標としている。今回の目標引き上げは、CCAに基づいて4年ごとに気候変動政策の検証と提言を担う独立委員会の「気候変動委員会(CCC)」が5月に提言した。

 

 CCC提言では、80%削減からネットゼロ(100%削減)への引き上げのために、ガソリン車やディーゼル車の新車販売禁止をこれまでの2040年目標から前倒して2030年にするほか、英国全土での植林の加速、住宅の低炭素ヒーティング普及、重工業産業のCO2回収貯留(CCS)利用義務化等を提言している。

 

 さらに産業部門だけでなく、市民生活の低炭素化加速も求めている。自動車利用に代えて公共交通機関への利用促進、旅行での航空機利用の縮減、住宅の省エネ化、室内の温度調節は19℃かそれ以下、シェリング経済等。

 

 CCCの提言に対してはハモンド蔵相が、ゼロエミッションの目標達成のためには1兆ポンド(約138兆円)のコストが必要として、公共サービス等の低減につながると否定的な見解を示していた。また、目標達成のために、国内での削減だけでなく、海外から削減クレジットを購入するかどうかをめぐっても、環境NGOらから警戒感が示されている。

 

 CCCの議長のJohn Gummer氏は「国際的なカーボン・クレジットの購入を、ゼロ排出量目標達成のために使わないほうが望ましい」と述べている。ただ、CCSの利用等をあげているものの、それらのコスト的な採算性のメドはついておらず、また市民生活の低炭素化移行効果がどれほど上がるかも不明な要素が大きい。

 

 英国の経団連に相当する英国産業連盟(CBI)代表のCarolyn Fairbairn氏は「(メイ政権の方針は)英国の競争力を高め、長期の繁栄を確保することにつながる。産業セクターによっては低炭素技術への投資を明確にする必要がある。低炭素社会に向けて必要な政策と規制については、省庁の垣根を超えた調整が重要」として、官民連携体制の構築を強調している。

 

 英国に続いて、フランスも今年中にネットゼロ目標を法制化する方針。他の国ではすでにノルウェーが2030年、フィンランドが2035年などと、それぞれカーボン・ニュートラルの目標年限を設定している。http://rief-jp.org/ct8/90535

 

 英環境NGO、グリーンピースのチーフ科学者のDoug Parr氏は「産業革命の発生地である英国が、気候変動の目標を主要先進国で最初にゼロとすることは、正しい選択だ。だが、目標達成の手段の一部を途上国の負担(クレジット)にシフトさせて実現するのは望ましくない」と指摘している。

 

https://www.gov.uk/government/organisations/prime-ministers-office-10-downing-street