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目標は建設コストの半減、メガソーラーの工法改革(各紙)

2012-04-10 22:19:55

再生可能エネルギーの全量買い取り制度が2012年7月に施行されることを受けて、メガソーラー(大規模太陽光発電所)の建設計画が日本各地で動き始めている。太陽光パネルの低価格化が進んでいることも、メガソーラーの設置を加速する要因の1つにはなりそうだ。しかし、メガソーラーの建設コストの中では工事費の比重が高く、抜本的なコスト削減のためには、建設工法の改善が不可欠。新工法を武器に、市場攻略を狙う企業も現れた。



 「本当に日本でメガソーラーが広がるのだろうか」。太陽光発電関連の専門商社、グリーンテック(京都市)の川勝一司社長は、2011年8月、再生可能エネルギーの全量固定買い取り制度の導入を決める法律が国会で成立したニュースを聞いて疑問が湧いた。




 川勝社長は京セラの太陽光発電システムの販売フランチャイズ店の経営を経て、2001年にグリーンテックの設立に参画した。この間、家庭用を中心に太陽光発電一本に絞って事業に取り組んできた。各社のパネルの特徴から、システムの開発、販売方法、様々な屋根に合わせた工事の仕方まで「積み上げてきた太陽光に関する知識やノウハウには自信がある」と胸を張る。




 そんな川勝社長の考えはこうだ。「売電事業が目的なら投資に見合う儲けが出なければやらない。自分が発電事業者になるなら、7~8年以内に初期投資を回収できなければ積極的に投資したいとは思わないだろう」。





■太陽光パネルの価格低下だけでは不十分




 発電事業用のメガソーラーが広がるとしたら、システムを販売するグリーンテックにとっても大きなビジネスチャンスである。




 7月から始まる全量固定買い取り制度で、太陽光発電は1kWh当たりの買い取り価格が30円台後半から40円程度になると見込まれている。発電能力1000kW(1MW)のメガソーラーの年間発電量は日照条件などで異なるが、大体100万kWh程度だ。買い取り価格が40円/kWhなら、年間の売電収入は4000万円になる。7~8年で回収できる初期投資の額は3億円程度までだ。




 川勝社長はこの金額が、グリーンテックがメガソーラーの建設を受注できる目安になると考えた。

わずか3年程前、国内では1MW当たりの建設費は8億円と言われた。内訳は太陽光パネルが4億円、パネル以外の建設資材や工事費などを合わせたバランスオブシステム(BOS)と呼ばれる部分が4億円。実はメガソーラーの建設費の中で工事費が占める比率は高い。


 世界的に増産が続いた太陽光パネルの価格はここにきて急激に下がってきた。円高効果と合わせて何とか1億円に抑える目算が立った。問題はBOSだ。世界的にも高い水準にある日本の川勝社長には太陽光発電所の建設で苦い経験があった。2008年、グリーンテックは一足先に全量固定買い取りを始めていた韓国で、自社で扱う太陽光パネルの実証試験を兼ねて300kW規模の発電所を建設した。その際、太陽光パネルを斜めに立てかけて固定する金属製架台の組み立て不良が相次いだ。架台の支柱や縦横の金属棒同士、架台と太陽光パネルを固定するボルトの締め忘れや抜けが散見されたのだ。「パネル2~3枚に1本の割合で抜けがあった。工期が予定より延びたときのいら立ちは忘れない」(川勝社長)。


 だが、この経験が昨年12月に発表した新商品「ボルトレスラック」と「ワンタッチモジュール」(パネル)の発想につながった。





■ボルトなしの劇的効果





 これまで1MW規模(パネル5000枚)の工事では架台組み立てに5万本、太陽光パネルの固定に1万8000本程度のボルト締めが必要だった。




 新商品は架台を構成する縦横の金属棒が交差する箇所にフック状の留め具を取り付け、簡単な手作業で固定できるようにした。さらに架台とパネルにそれぞれ凹状と凸状の留め具を1カ所ずつ取り付け、凹凸をかみ合わせることで固定と同時に、隣り合うパネル同士が通電する仕組みにし、架台組み付け後に必要だった配線作業もなくした。

 


建設工事費が、3年間で簡単に下がるはずはない。BOSを4億円から半減させて2億円にし、トータルで3億円に収めるには、工事のやり方を根本的に変える以外にない。

簡単な工夫に見える。だが、ボルトは締め付け強さを調整するトルク管理など複雑な作業が必要だ。熟練工不要で簡単に組み立てられるメリットは大きい。


 川勝社長は、作業者の半減と工期を4分の1に短縮することが可能だと見ている。工事費は作業者の数と工期のかけ算で決まる。実現すれば工事費は8分の1になる。留め具などを取り付けた架台のコストは1~2割程アップするが、トータルのコストダウンは大きい。「BOSを2億円に抑える道筋が見えてきた」(川勝社長)。




 これまで企業が太陽光発電を導入してきたのはCSR(企業の社会的責任)活動の延長だった。発電事業の収益に対する関心が乏しかったため、大きな部分を占める工事コストの削減にほとんど手をつけてこなかったと言っていい。建設会社などの工事事業者に、自分たちの売り上げを削ってまで受注を競う環境はなかった。




 太陽光発電事業に期待する事業性や収益性は、投資スタンスの違いによって幅はあるだろう。川勝社長は多くの投資家や企業がもうけを狙って参入したくなる水準として、前出の通り1MW当たり3億円を目標とした。目指すのは、収益を追求する投資家や発電事業者の目線に立って、工事を含めたメガソーラー建設全体を請け負うシステムインテグレーターである。




 川勝社長は「さらにコスト削減を進めたり、敷地面積当たりのパネル数を増やす工法のアイデアも温めたりしている」という。太陽光発電のビジネスが新しい局面を迎えようとしている。