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太陽光発電 「メーカー主導」の終わり 引き金引いたソフトバンクとカカクコム (各紙)

2012-04-11 14:31:30

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ソフトバンクが1月末から始めた、太陽光発電パネルの発電データ公開が反響を呼んでいる。昨年末、北海道の帯広市と苫小牧市に発電試験場を設け、国内外10社の太陽光発電パネルを設置。各社のパネルの発電量データを自社ホームページ(HP)にリアルタイムで公開している。どのメーカーのパネルが、どれだけ発電しているのか。同じ場所にほぼ同じ条件で置かれたパネルの発電量の比較は、発電機としての性能のガチンコ勝負だ。


 これまで消費者に見えなかった実測データの公開は、国内の太陽光発電市場の構造を従来のメーカー主導型から大きく変えそうだ。




 ソフトバンクの100%出資子会社で、試験場の保有・管理をしているSBエナジーのHPでは、試験場に設置した太陽光発電パネルのメーカーごとに、月や日単位の累計発電量や、5分おきの発電状況を見ることができる。これらのデータを見比べると、ほぼ同じ条件下で、どのメーカーの発電パネルがより多く発電するかが一目瞭然。見かけが似ている結晶型の8社のパネルでも月あたり3~5%の発電量の差があった。




 データをとり続けることで、発電量だけでなく、暑かったり寒かったりなどの気候条件に対するパネル性質も見えてくると期待する。SBエナジーでは今後、計測データから見えてきたパネルの特徴についてレポートを作り、ネット上で公開する方針だ。




 ソフトバンクは昨夏から秋にかけて、各メーカーに実測値のネット上での公開について了解を得たという。海外勢は「消費者へのアピールになる」と前向きな声が多く、即座にOKした。国内大手は「直接に比べられると、ドキドキしますね」など煮え切らない反応が多かったが、明確に拒否する社は1つもなかった。




 もっとも、これまで無かった実測データの公表による影響は想定以上に大きかった。ある販売店の担当者は「ソフトバンクのサイトで見たところ、発電量が多かった○○社のパネルが欲しい」との問い合わせもあるという。

メーカー側も相当意識をしている様子だ。データ開示を始めて1カ月後、担当するSBエナジーの東條敦購買部長に国内大手メーカーから連絡が入る。「表示を工夫してもらえませんか」。連絡をしてきたメーカーのパネルは、他社製に比べて試験場内での設置数が少なく、実測データだと発電量が大幅に少なく見えてしまっていた。SBエナジーは4月からは表示する発電量を帯広市の拠点では出力5キロワットあたりの量に換算し、パネル設置量の多少による差をなくすなどの対応をした。

公表されている2月と3月のデータを見比べると、従来の認識とはかけ離れた結果が見えてくる。これまで、発電効率が高いとされてきたパネルの発電量が飛び抜けて多いわけではなく、割安品と見なされている製品でも高級品とされる製品と同じか、それ以上の発電実績を上げていた。北海道の冬場という特殊な条件下でのデータなので、どこでも同じような数値になるかどうかは分からない。それでも、メーカーがアピールする能力と実際の発電量の間にはギャップがあることが分かる。


 これまで、太陽光発電パネルの発電能力を示す数値として、消費者がパネルを選ぶときに参考にしてきたのが、メーカーがカタログに表記している「発電効率」だ。パネルに入ってくる太陽エネルギーのうち、どの程度を電気エネルギーとして回収できるかを示すもの。結晶型の太陽電池なら15%程度。20%に近づけばかなり効率が高いとされ、高級品と見なされてきた。




 ただ、メーカーが記している発電効率は、「気温セ氏25度、晴天、太陽が正対している」など理想的な環境下でのもの。曇りがちな天気で日射量が少ないときや、日の出や日の入りのときなど薄日が差す程度のときの能力は発電効率からは分からない。パネル表面の温度や雪などの影響もあり、実際に使うときの条件は複雑だ。実際に使ったとき、どのくらい発電するのか。他社製品と比べて、どの程度の差があるのか――。利用者が本当に知りたい情報は、これまで提供されてこなかった。




 ソフトバンクはデータ公表の狙いを「太陽光発電をしようとする人の拡大」(東條部長)としている。太陽光発電はまだ、市場が出来はじめたばかり。太陽光発電を使ってみたいが二の足を踏んでいる企業あるいは家庭が利用に踏み切れば、国内市場の裾野はさらに広がり、大規模な太陽光発電所を多く建設する予定のソフトバンクの導入コストも割安になることにつながるとしている。

もっとも狙いはそれだけではないだろう。実測データの公表は太陽光発電パネルの供給者であるメーカーと、利用者との間の力関係の変化を決定づけた。大手メーカーがどれだけ高い発電効率をうたっても、実測データを見れば、パネルの客観的な実力は明らかだ。大手メーカーが自らのパネルの価値を決めるのではない。実際に使う利用者が多くのメーカーを比較して、自ら求める条件にあった製品を選択する。そのなかで、単価が決まっていく――。「メーカーお任せのセットで利用者が買うというのは、利用者側に選ぶノウハウがない初期の市場のときだけ」(東條部長)。実測データに利用者が接することができるようになったことで、メーカーと利用者の関係は様変わりする。


 太陽光発電は大きな買い物だ。価格は安くなったとはいえ、現在でも出力1キロワットあたり50万円台を中心に販売されている。1家庭あたり3~4キロワットを導入するため、1度に150~200万円の費用がかかる。導入を決めれば、自動車を買うくらいの出費になるわけだ。




 その割に、利用者への情報提供は進んでいなかった。発電量だけではない、肝心の費用についても複数社で比較検討するのは難しい。実際には施工店などに勧められるがままに価格も決められることが多かった。




 ここでも、新たなサービスが普及している。料金比較サイト大手のカカクコムは昨年7月から太陽光発電のネット見積もりサイトを運営するアイアンドシー・クルーズ(東京・港)と連携し、カカクコムのサイトから、自宅に太陽光発電を導入したときの見積もりができるようにした。現在、月に2000件程度の見積もり依頼があるという。見積もりは1社だけでなく、複数社から得ることができる。販売側のいいなりでなく、利用者が「相見積もり」を簡単に取れる手段が普及している。




 世界に目を移せば、太陽光発電パネルの収益性は急速に悪化している。欧州需要の急減や中国企業の大幅な生産設備増強で販売単価が急減。欧州ではかつて世界シェアトップに立っていた独Qセルズが破産法の適用を申請した。国内の大手メーカーにとって、なお、海外市場に比べて割高な単価でパネルが売れる国内市場でのシェア維持は欠かせない。




 2010年に世界シェア4位だった中国インリーグリーンエナジーが4月中に日本法人を設けるなど、欧州市場の失速で、中国勢など世界大手は日本市場に狙いを定め、販売攻勢を加速している。発電能力も価格も、利用者が自ら調べて、選べるようになるなか、大手メーカーの「ブランド」に頼った販売戦略では、新規参入者にシェアは食われる一方となりかねない。