HOME10.電力・エネルギー |国際的な石炭火力廃絶条約・議定書の制定の可能性浮上。英・カナダ主導の官民連携の石炭火力廃絶運動「PPCA」が目指す。対人地雷禁止条約やクラスター弾条約等をモデルに(RIEF) |

国際的な石炭火力廃絶条約・議定書の制定の可能性浮上。英・カナダ主導の官民連携の石炭火力廃絶運動「PPCA」が目指す。対人地雷禁止条約やクラスター弾条約等をモデルに(RIEF)

2019-10-07 08:47:30

PPCA1キャプチャ

 

 英国やカナダなどが官民連携で主導する石炭火力廃絶運動の「PPCA(Powering Past Coal Alliance)」は、新たにドイツ、スロバキアをメンバーに加えるとともに、2050年までにグローバルに石炭火力を廃絶させるために、人類の倫理性を踏まえた対人地雷禁止条約(オタワ条約)やクラスター弾条約のような石炭火力廃棄条約・議定書の締結を目指して動き始めた。

 

 PPCAは2017年に設立された官民連携の石炭火力廃絶に向けたイニシアティブ。先月の国連気候行動サミットで、ドイツとスロバキアのほか、米ニュージャージー州、フィリピンのオリエンタル・ネグロス州、プエルトリコ、民間のAXA Investment Managers、Schrodersの7機関が新たに加盟した。

 

 その結果、加盟機関数は、32カ国、25の地方自治体、34の企業の合計91機関になった。今回、石炭火力からの脱却を宣言しているEU最大の石炭火力発電国のドイツが参加したことはPPCAの活動に大きな影響を与えそうだ。

 

PPCA2キャプチャ

 

 というのは、これまでの参加国は、すでに石炭火力を停止ないし、利用していない国・自治体が主導してきた。だが、ドイツは、国のエネルギー構成の35%を石炭火力が占め、それを2038年までに全廃する決断をしているためだ。既存の石炭火力を廃絶するモデルになる。

 

 PPCAは、遅くとも2050年までにグローバルベースで石炭火力を廃絶することと、賛同国は2020年までに新設の石炭火力を禁止することを宣言している。石炭火力反対を掲げるイニシアティブは他にもいくつかある。だが、PPCAの特徴は賛同国だけでの廃絶だけではなく、グローバルベースで廃絶を進める点にある。

 

 一国が石炭火力を中止しても、他の国が継続的に石炭火力で発電していると、温暖化の加速に歯止めをかけられない。一方で、石炭火力発電を続けることは、人類全体に負荷を与え続けるため、国としての倫理性が問われる。そこで、「国際的な反化石燃料規範」の構築を踏まえた条約の制定を目指す動きが出ているという。

 

これらの石炭火力を廃絶へ
これらの石炭火力を廃絶へ

 

 想定される条約は、クラスター弾条約や対人地雷禁止条約(オタワ条約)、核兵器の拡散を防ぐ核拡散防止条約(NPT)、生物化学兵器禁止条約など、人類の尊厳と倫理性を踏まえた各条約がモデルになる見通し。

 

 各国の一致を待つと時間がかかることから、オタワ条約のように「賛成する国だけで条約を作る」プロセスを想定している。規制の対象は、石炭だけでなく、化石燃料全体の採掘、輸送、消費のすべてを禁じる議定書作成も検討する。

 

 もっとも、倫理性が基盤なため、石炭火力廃棄条約が成立しても、各国は必ずしも署名・批准しなければならないわけではない。しかし、署名国間では反石炭政策や事業への協調体制が築かれる一方、そうした枠組みに非署名国は参加できないことになる。結果として署名国主導の低炭素エネルギー推進の動きが高まる期待がある。

 

 PPCAは条約化を進めるとともに、石炭火力廃絶と再生可能エネルギーへの移行を署名国、非署名国の両方に対して推進するため、政策専門家やエネルギースペシャリストで構成するネットワークを編成。低炭素エネルギーのベストプラクティスの提供や、政策実践の経験等を踏まえた技術的支援等を目指す。

 

 現時点では、条約化の目標期限は定めていない。ただ、クラスター弾条約の場合、2008年12月の署名時には30カ国でスタートしており、すでにPPCAは32カ国の賛同を得ている。パリ協定の国別削減公約(NDGs)の第1回見直し期限は2020年だが、見直しを踏まえた協定の目標達成の展望を見据え、第2回見直し期限(2025年)までに機運が高まる可能性がある。

https://poweringpastcoal.org/news/PPCA-news/new-alliance-members-un-climate-action-summit

https://link.springer.com/article/10.1007/s10584-017-2134-6