北極圏の永久凍土層、温暖化の進展で冬季に解凍が進み、CO2排出量が従来より倍近く増大。米研究者が論文で指摘。最悪シナリオでは2100年までにCO2排出量は41%増のリスク(RIEF)
2019-10-25 00:15:33
温暖化の進展が特に著しい北極圏で、カーボン貯留機能を果たしている永久凍土が、従来考えられていたよりも早いスピードで解凍していることがわかった。特に冬季の凍結が減少しており、カーボン排出量はこれまでのほぼ倍近いペースで増えているという。最悪シナリオでは、2100年までに現状より41%増える可能性があり、人間活動由来のCO2排出量の増大を凌ぐ影響を、地球に及ぼすリスクがあるという。
(写真は、夏場の永久凍土層。上部にCO2を吸収する植生が広がる)
米ウッドホール研究センター(WHRC)の研究員、Dr Jennifer Watts氏らが分析した研究論文がNature Climate Changeに掲載された。
それによると、北極圏に広がる永久凍土層は、夏の間、植生が広がり、約10億㌧のCO2を吸収する。しかし、冬季間(10月から翌年4月まで)は地面全体が凍結するので、CO2は吸収しない。
Watts氏らの研究によると、温暖化の進行で、冬季間に、夏場に吸収したCO2量を超える形で17億㌧が排出されるという。その理由として凍土が解けると、土壌中のCO2が排出されるが、温暖化の影響で冬場での凍土が解ける期間が続くことから、結果的にCO2排出量が増えるという。
Watts氏は「夏の間に解けた土壌からCO2が排出されることはわかっていたが、雪に覆われた冬の間に、CO2がどれくらい排出されるかは十分にわかっていなかった。今回の研究は、土壌の解凍によるCO2排出量が、植物によるCO2の吸収量を、どれくらい上回るかを示している」と述べている。
重要な点は、今回の分析では、永久凍土が抱え込んでいるメタンによる効果は考慮せず、表面の植生と土壌の関係だけを示している点だ。温暖化の進行で、土壌のCO2吸収効果が大幅に低下することは、同時に、永久凍土の解凍の進展で、CO2よりも温暖化効果の高いメタンの排出増を誘発することになる。
2100年に向けての永久凍土地帯でのCO2排出量の推移を推計すると、IPCC第5次報告書が示す中位安定化シナリオのRCP4.5に基づくと、CO2排出量は現状より17%増加する。さらに最悪シナリオのRCP8.5だと、41%増にまで増える。
永久凍土は、2年以上にわたって土壌の温度が氷点下で維持されている地帯を指す。現在、北極圏域の24%がこれらの永久凍土地帯とされている。これらの地帯が土壌中に貯留するCO2量は、人類がこれまでの人間活動で大気中に排出してきた総量よりも多いとされる。
Watts氏らは、今回の研究で、北極圏での永久凍土の夏場のCO2吸収効果は、冬季間のCO2排出増で相殺されていることが確認された、としている。さらに温暖化の進展で、CO2排出増に転じていく可能性がある、と警告している。
共同研究者のSusan Natali氏は「北極圏での急速な温暖化の進展を踏まえて、早急に永久凍土の状況を把握するモニタリングネットワークを整備拡大し、観測体制を強化すべきだ。永久凍土のCO2排出量を抑制する必要がある」と提言している。
今年初めに報告されたアラスカ・フェアバンク大学による調査では、カナダの北極圏域で、温暖化の影響によって永久凍土が70年以上も早く解凍し始めていることが報告されている。解凍の範囲は、歴史的なレベルよりも150~240%も広いという。