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カナダで、15人の子ども・若者たちが、政府の温暖化対策の不備が「国民の権利を侵害」と訴訟提起。グローバルに広がる「気候訴訟」。台風被害が増大する日本でも提起か(RIEF)

2019-10-27 20:50:03

Canadachild1キャプチャ

 

   カナダの15人の子どもや若者たちが、カナダ政府の化石燃料資源優先政策は温暖化を加速し、国民の権利を侵害しているとして、政府を相手に訴訟を起こした。世界中で政府の温暖化対策の不十分さを訴える訴訟は1990年以来、1300件以上も起きているが、温暖化で増大する再三の台風被害が続く日本でも、政府の「無策」への国民の不満が高まっている。

 

 (写真は、カナダの気候訴訟の若者原告たち)

 

 カナダの気候訴訟は、先週末、バンクーバーの連邦裁判所に提訴された。原告は10歳から19歳までの若者たち。訴訟は、「La Rose v. Her Majesty the Queen」と名付けられた。カナダの公式の国家元首である英国女王のエリザベス2世と、原告の一人の「La Rose」さんが対峙する形となる。

 

訴状。原告15人が名を連ねている。
訴状。原告15人が名を連ねている。

 

 訴状では、「カナダ政府は温室効果ガス排出量を危険なレベルになる原因を放置し、排出増を許し、増大に貢献してきた」と指摘。本来、政府が化石燃料開発や使用を制限するべきだったのに、そうせず国民の権利を侵害した、と糾弾している。

 

 政府の不作為の責任を問うと同時に、山火事の増大や洪水の増加、永久凍土の溶解、海面上昇等に関連して高まる大気の質の低下、人々の健康の悪化等、若者世代が今後体験せざるを得ない気候変動の影響に対する「将来の責任」も問うている。

 

 原告の一人、17歳の Sierra Robinsonさんは「カナダの連邦政府は、化石燃料の開発が気候リスクを高めることを知りながら、同政策を続け、国民の権利を侵害している」「われわれの権利は、古い世代と比べて、不適切に侵害されている。若者には(国政への)投票権がないので、訴訟で自らの権利を守る以外にない」と、訴訟の理由を説明している。

 

若者たちの怒りは世界中に広まっている
若者たちの怒りは世界中に広まっている

 

 訴訟は、カナダを訪問中のグレタ・ツゥーンベリーさんが先週金曜日に、バンクーバーで開いた「温暖化対策を求める登校拒否(School Strike)」に参加し、参加者に抗議行動を呼びかけた後に、提訴された。若者たちがグローバルに連携、直接行動を抗議デモや座り込み等から、司法闘争へとレベルアップさせているといえる。http://rief-jp.org/ct8/95189?ctid=70

 

 国民、特に若い世代が、政府の温暖化対策の不十分さを不満として訴訟に訴えるケースは、グローバルに増えている。今年7月に公表された英Grantham InstituteとLondon School of Economics(LCE)の共同研究によると、世界中で政府の気候対策の不十分さを訴える訴訟は、28カ国に及ぶ。訴訟件数は1300件を超え、大半の1023件は米国での提起だ。

 

 米国以外の国でも増加基調にある。オーストラリアが94件、英国53件、ニュージーランド17件、スペイン13件、ドイツ5件、ブラジル同となっている。共同研究をまとめた、Joana Setzer氏は「気候変動への対応の失敗の責任を政府と企業を市民が問う流れはグローバル化している」と説明している。

 

 たとえば、オランダでは、環境NGOのUrgenda財団が約866人の市民とともに、同国の温暖化対策が不十分として、2013年に訴訟を提起。効果的な温暖化対策を実施するには、2020年までに40%削減(90年比)が必要と主張して政府と争った。

 

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 同国司法の判断は、2015年の一審判決、18年の控訴審とも原告の主張に軍配をあげた。控訴審判決では、2020年までに25%削減を政府に命じた。http://rief-jp.org/ct8/83611 現在、最高裁で争われているが、同裁判は各国での気候訴訟の原型になっている。http://rief-jp.org/ct8/87787

 

 日本では、都市近郊に建設を計画する石炭火力発電所の差し止めを求める訴訟が、仙台、横須賀、神戸等で、事業者の電力会社を相手取って提起されている。ただ、欧米のように政府の温暖化対策の不備の是正を求める訴訟はまだ提起されていない。

 

 しかし、今年の台風15号、19号等による関東・東北地方で発生した大規模な被害のほか、昨年、一昨年と続いた西日本・九州等での豪雨被害等、毎年のように大規模な災害被害が発生、人的、物的被害が増大している。

 

 欧米の気候訴訟の原告側の主張と同様に、日本政府は、石炭火力発電やCO2高排出産業向けの明確な排出規制を実施していない。そのうえ、温暖化による気候変動の激化で、集中降雨、暴風雨、土砂崩れ等が多発しているにもかかわらず、河川の堤防の増強、土砂崩れ対策、洪水防止策等の政府の温暖化適応策も後手に回っている。

 

 「国民と国土を守る」という政府の基本的役割が不十分である、として、政府の温暖化対策の「不作為」を問う訴訟が、日本でもいつ提起されてもおかしくはない。

 

https://insideclimatenews.org/news/25102019/canada-children-climate-change-lawsuit-fossil-fuels-teens-youth-erosion-permafrost-wildfires?utm_source=InsideClimate+News&utm_campaign=37a835b75f-&utm_medium=email&utm_term=0_29c928ffb5-37a835b75f-327929749

https://www.theguardian.com/environment/2019/jul/04/governments-and-firms-28-countries-sued-climate-crisis-report