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EU欧州委員会、フォンデアライエン体制、決まる。12月1日から発足。「欧州グリーン・ディール(EGD)」の推進を目指す。2030年までに3兆ユーロ投資(RIEF)

2019-11-28 18:27:57

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  EUの欧州議会は27日、次期欧州委員会の委員案を賛成多数で承認した。この結果、ウルスラ・フォンデアライエン委員長が率いる新欧州委員会が12月1日にスタートすることが正式に決まった。新体制は気候変動への取り組みを優先課題に掲げ、2030年までに3兆ユーロ(約360兆円)を気候関連事業に投じる「European Green Deal(EGD)」を政策の軸に据える。

 

 欧州議会は、フォンデアライエン委員長を支える26人の新欧州委員の就任を、賛成461、反対157、棄権89の多数決で承認した。当初の委員候補のうち、フランス、ハンガリー、ルーマニアの3人について、議会側が承認を拒否し、委員会の発足が1ヶ月遅れていた。

 

 議会投票に先立ってフォンデアライエン氏は議会で「気候変動との闘いのために、もはや一秒たりとも無駄にできない。もし世界がわれわれのリーダーシップを求める分野があるとすれば、それはわれわれの気候保護策だ。気候対策は欧州にとっても、世界にとっても、存在自体を問われる課題だ」と語った。同氏は気候変動の顕在化事例として、ポルトガルでの山林火災、ベネチアの洪水等を指摘した。

 

フォンデアライエン氏と、信任された新欧州委員たち
フォンデアライエン氏と、信任された新欧州委員たち

 

 同氏が掲げる「EGD」は、気候変動対策を同時に、経済対策として推進するものだ。「EGDは、われわれの新たな成長戦略だ。欧州が先んじて動けば動くほど、われわれの市民、われわれの競争力、われわれの反映にとっての利益が大きくなる」と強調した。

 

 欧州委員会の試算によると、EGDが目標として掲げる2050年のCO2排出ネットゼロを実現すると、EUのGDPは毎年2%ずつ増加するという。石油・ガス等の化石燃料輸入が不用となり、2050年までの20年以上にわたって2兆~3兆ユーロを削減できることになる。その一方で再生可能エネルギー発電関連で域内投資がさらに拡大すると見込んでいる。

 

 欧州域内でのCO2ネットゼロに向けた投資は、特に東欧諸国を中心に、石炭等の化石燃料関連の雇用と成長、エネルギーを転換させるために集中的に求められる。すでに2030年までに3兆ユーロ(360兆円)の資金をエネルギー転換に投じ、そのうち1兆ユーロをEU予算から、残りの2兆ユーロを、EU加盟国や民間投資からの誘導でまかなう案が浮上している。

 

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 そうした膨大な資金を気候関連事業に振り向けるには、現欧州委員会が力を入れてきたサステナブルファイナンス行動計画を軌道に乗せる必要がある。現在、同計画の中心軸となるグリーンプロジェクトを整理するタクソノミー(分類)作業が欧州議会と欧州理事会、委員会の3社間で調整しており、その決着が急がれている。

 

 フォンデアライエン氏は、新体制発足後の、12月11日にEGDについての詳細なスピーチをすると期待されている。同施政方針で「就任後100日計画」として、2050年のネットゼロ目標の法制度化を含む、主要な枠組み作りを宣言するとみられる。

 

 より現実的な目標として、現行の2030年40%削減目標を、費用対効果分析を条件として、50~55%に引き上げる目標の提示も焦点だ。環境NGOや気候対策を支持するUnileverやCoca Cola、Interfaceなどの企業も、少なくとも上限の55%という、より高い目標にすることが、投資促進につながるとのスタンスをとっている。仮にフォンデアライエン氏がそうした声とは別に、高CO2排出企業に配慮して下限の50%水準の目標を選択した場合、「100日計画」は出鼻で失速する可能性もある。

 

 目標設定の綱引きだけではない。フォンデアライエン氏は、すべての新規の貿易交渉において、環境保護条項を盛り込むことを求め、欧州投資銀行(EIB)はEU域内での移行事業へのファイナンスを優先する銀行に転じる、としている。フォンデアライエン体制で、EUは気候変動政策のギアを一段と高めることになりそうだ。

https://ec.europa.eu/info/index_en

https://www.europarl.europa.eu/portal/en