HOME |EUの欧州議会、COP25を前にして、5大陸初の「気候非常事態」を決議。フォンデアライエン新欧州委員会への「圧力」に。2030年削減目標の改定が焦点(RIEF) |

EUの欧州議会、COP25を前にして、5大陸初の「気候非常事態」を決議。フォンデアライエン新欧州委員会への「圧力」に。2030年削減目標の改定が焦点(RIEF)

2019-12-01 22:33:26

EP1キャプチャ

 

  EUの欧州議会は先週末の28日、欧州の「気候非常事態(Climate Emergency)」を賛成多数で決議した。5大陸で気候非常事態宣言をしたのは初めて。週明けから始動するウルスラ・フォンデアライエン委員長が率いる新欧州委員会が掲げる「欧州グリーンディール(EGD)」を念頭に、パリ協定に沿う「1.5℃目標」に資する法制化や予算執行を確保するよう要請する。

 

 (写真は、気候対策で存在感を高める欧州議会:仏ストラスブール)

 

 仏ストラスブールで開いた本会議で採決され、賛成429、反対225、棄権19で採択された。決議案の提案者で、欧州再興政治グループ所属のPascal Cafin欧州議員は「欧州は気候・環境非常事態を宣言した最初の大陸となる。欧州市民の期待に応えることができた」と採決結果を評価する声明を出した。

 

EP2キャプチャ

 

 さらにCafin議員は、「この決議は、まず欧州市民に対して、さらにはそれ以外の世界の人々に対する大変強いメッセージである。COP25の開催直前に、かつ、米トランプ政権がパリ協定から正式に離脱を確認して3週間後にメッセージを出せた」。米国の離脱にもかかわらず、欧州は気候非常事態に真正面から立ち向かうという決意表明との位置づけだ。

 

 議会でもっとも環境政策を重視するグリーン党は当初、決議案に対して「決議をするだけで中身がなければ意味がない」と批判していた。だが、その後、賛成に回った。次期欧州委員会の「EGD」で焦点となる2030年の温室効果ガス削減目標を高めるための原動力になるとの判断からだ。

 

 グリーン党の Michael Bloss議員は「歴史が作られた」と称賛。気候変動対策の推進をリードしていく、と宣言している。フォンデアライエン委員長が打ち出すEGDでは、2050年の温室効果ガス排出ネット・ゼロ目標の設定とともに、2030年目標のより高い値への変更が論点になっている。

 

EP3キャプチャ

 

 現行の40%削減目標から、50~55%への引き上げが交渉材料となっている。ただBloss議員は「最低でも65%までの引き上げが必要」と、より高い目標の設定を求めている。「非常事態宣言」はそうした決意を問うもの、というスタンスだ。

 

 一方、議会最大勢力の保守系、欧州人民党(EPP)には非常事態宣言に対する疑念が残っている。EPPの副代表のPeter Liese議員は「決議は、緊急行動を求めるものだが、EUの国レベルではどの国もそうした決議をしていない。それなのにEUが『非常事態』を宣言するのは“パニック”の印象を与える」と指摘する。

 

 各政党はすでに、2030 年目標の「50~55%」の選択で火花を散らしている。決議案提案のCanfin議員は、「議会決議は、欧州委員会への『非常に明確なメッセージ』を送った。EGDは、EU資金の期待に応え、緊急対策で応えねばならない」と強調している。

 

 同氏は「55%」が議会の多数意見との立場だ。それを上回る目標設定については、「政治的に困難だ」との認識を示した。「55%を超える目標設定をするならば、私は反対はしないが、多数を制するのは非常に難しいのが現状だ」と指摘している。

 

 欧州気候法(European Climate Act)の原案を作成する新欧州委員会は、産業界の判断を受けて削減目標に慎重なEPPなどとの調整、さらに、各国の利害を代表する欧州理事会との交渉など、多難なハードルを越えていかなければならない。

https://www.europarl.europa.eu/news/en/press-room/20191121IPR67110/the-european-parliament-declares-climate-emergency