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ベトナム・ブンアン2石炭火力事業。大手海外銀行や共同事業者らが事業から相次いで撤退。事業主体の三菱商事と、融資団の3メガバンクは正念場に。(RIEF)

2019-12-20 22:04:29

Vungang2キャプチャ

 

 三菱商事が推進中のベトナムのブンアン2石炭火力発電所計画が揺れている。融資予定だった英スタンダード・チャータード銀行が、石炭火力事業への投融資の段階的停止方針を打ち出し、同計画から撤退する見通しとなったためだ。同計画からはすでにシンガポールのOCBC銀行の撤退が報じられており、残りの融資団は日本の3メガバンクなどが中心。日本の金融機関の「石炭融資集中」が改めて際立つ形だ。

 

 (写真は、隣接するブンアン1石炭火力発電所)

 

 同計画は、ベトナム中部ハティン省の経済特区で計画されている。2020年に建設開始、2024年に稼働開始予定。事業規模は1200MW、超々臨界圧(USC)方式で、総投資額は22億㌦(約2500億円)。事業主体は三菱商事の100%子会社と、香港の電力会社CLPホールディングスと設置した合弁会社OneEnergy社が設立した特別目的事業体(SPV)のVung Ang 2 Thermal Power Company(VAPCO)。

 


 同発電所の建設予定地域には、すでにブンアン1石炭火力発電所や、2016年に深刻な大規模海洋汚染を起こしたフォルモサ社の製鉄工場、同社の発電所(石炭およびガス)が存在する。汚染排出工場の集中で、地域の排水や排気、石炭灰による環境汚染が増大し、住民の健康被害の可能性が多数報告されている。このため、地域の住民やNGOらが建設反対運動を展開している。

 

Vanang2キャプチャ

 

 こうした地域での反発や、グローバルな温暖化の進行への加担、さらに銀行が石炭火力向け融資を増やすことへの欧米機関投資家らの懸念等が広がり、融資団に加わっていたシンガポールのOCBC銀行は11月に撤退が報道されている。

 

 スタンダードチャータード銀はすでに2018年9月に、新規の石炭火力発電所事業への融資をグローバルベースでの停止を宣言していた。さらに今回、石炭関連事業に依存する取引先向けの段階的な取引縮減方針を示した。それによると2021年1月までに、100%石炭火力から収益を得る企業との取引は行わず、以降、段階的に収益比率を下げ、最終的には10%にまで縮小する方針。http://rief-jp.org/ct6/97247

 

 ブンアン2事業は、100%同事業のために設立されたSPVが事業主体であるため、2021年1月までに撤退対象となってしまう。融資団からOCBC銀行に続いてスタンダードチャータード銀行も撤退すると、残りは日本の公的金融機関の国際協力銀行(JBIC)と大手の三菱UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行、三井住友信託銀行、外銀では唯一、シンガポールのDBS銀行が名を連ねるのみとなる。

 

 さらに、三菱商事の合弁先であるCLPホールディングスも、12月17日に脱石炭方針を発表した。同方針は、改訂した気候変動ポリシー(『Climate Vision 2050』)に基づき、同社は新たな石炭火力発電事業への投資は行わず、既存の全ての石炭関連資産を2050年までに段階的にゼロまで減らすとしている。

 

 同社の新方針に沿うと、ブンアン2事業は撤退対象となる。またCLPと共同出資する合弁のOneEnergy社は、ベトナムではブンアン2以外に、南部のビンタン3石炭火力発電事業にも出資しているが、同社はビンタン3からも撤退することになる。

 

 グローバルベースで気候変動が激化する中で、各国の企業、金融機関が既存の石炭関連事業計画を抜本的に見直す動きを強めているが、日本の企業、金融機関はそうした流れの中にいるにもかかわらず、「判断停止」の状態にあるようだ。いつの間にか、「座礁資産(Stranded Assets)」を抱えて立ち尽くすリスクが高まっているといえる。

 

 環境NGOの気候ネットワーク(KIKO)は、英シンクタンクのレポートが、ベトナムでも2022年までに既存の石炭火力の操業コストより太陽光発電の建設コストが安くなると指摘している点を引用し、「これ以上ベトナムで石炭火力事業を進めるのは、企業にとって大きなリスク。日本の海外の石炭火力向け公的支援額は世界第2位、3メガバンクの2017年〜2019年の石炭火力向け融資額は世界トップ・スリーを独占。日本の官民金融は世界の脱石炭の流れと完全に逆行している」と批判している。

https://www.kikonet.org/info/press-release/2019-12-20/va2