黒田日銀総裁、気候変動の影響による自然災害増大を認め、日本の温室効果ガス排出量の削減強化を求める。政府のNDCs強化回避の姿勢を「暗に批判(?)」(各紙)
2020-01-26 01:57:23
各紙によると、黒田日銀総裁は24日、スイス・ダボスで開いた世界経済フォーラム(WEF)年次総会で、「日本は(温室効果ガスの)排出量をもっと削減し、気候変動のリスクを軽減し続けなければならない」と語った。日本政府はパリ協定での国別温暖化対策貢献(NDCs)の強化を回避しているが、日銀総裁の発言は、こうした政府の姿勢への「異論」のように聞こえる。
ロイター通信が報道した。黒田総裁の発言はWEFの会議で開いたパネル討論で行われた。総裁は、2019年第4四半期(10~12月期)の日本経済の成長率が、消費税引き上げの駆け込み需要の反動や、台風被害の影響等でマイナス成長になったとの前提で、「(マイナス成長は)主に日本を襲った一連の台風によって工場の生産が打撃を受けたため」との見方を示した。
そのうえで「私見」としながら、「(日本は)気候変動リスクを軽減することを続け、温室効果ガスの排出量削減を、もっとやるべき」との見方を示した。総裁は、日本が自然災害による被害が起き易い環境にあることをあげ、「われわれは気候変動関連のリスク軽減にもっと取り組まねばならない」と強調した。
政府はパリ協定に基づく日本の国別温暖化対策貢献(NDCs)を、2030年度に2013年度比26.0%削減(2005年度比25.4%削減)としている。しかし、パリ協定時の各国のNDCsを合わせても、目標の「2℃」を大きく超えると推計される。このため欧州諸国を中心にNDCs引き上げの動きが起きているが、日本政府は今のところ、変更しない構えだ。
そうした中で、総裁が気候変動の影響が日本経済にマイナス成長に影響を与えたことを認め、さらなる排出量の増大を求めたわけだ。昨年の10~12月期のGDPの速報値は来月発表の予定だが、総裁はマイナス成長になったことを前提とし、明確に気候変動が経済に影響を及ぼしていることを指摘した。
「昨年の第4四半期がマイナス成長になったのは、主に2つの台風(15号と19号)による。自然災害は日本では増大している」「日本経済は世界でもっともエネルギー効率のいい国の一つだと思う。だが、それでも、「(温暖化を防ぐため)もっと温室効果ガス排出量の削減をすべきだと思う」
欧州の中央銀行等は、気候変動によって金融機関のシステミックリスクが増大し、金融政策にも影響が及ぶことへの懸念が指摘されている。ただ、黒田総裁は、気候リスクが日本経済の成長にネガティブな影響を及ぼしていることを認めながらも、金融政策への影響については今回は言及しなかった。
日本経済そのものへの評価としては、総裁は第4四半期はマイナス成長になったものの、企業の資本支出が活発なことと、家計の収入が増大していることを上げて、穏やかな拡大トレンドが継続しているとの見方を示した。
市場には超低金利の長期化が国内の銀行システムにマイナスの影響を与えているとの警戒の声がある。その点について、総裁は「確かに低金利が長く続いていることで、金融システムに何らかの副作用が起きている可能性はある」としながらも、「われわれは金融市場と金融機関を注意深くモニタリングをしており、これまでのところ、何らかの金融バブルあるいは財政過剰の傾向は見えていない」と説明。従来通りの「大規模な景気刺激策の継続」を続ける姿勢を強調した。