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EU欧州委員会。温室効果ガス排出量実質ゼロの2050年目標設定の「気候法案」正式公表。2030年目標は50~55%のままで、一本化は先送り(RIEF)

2020-03-05 21:47:05

23VDLキャプチャ

 

 EUの欧州委員会は4日、温室効果ガスの排出量を2050年までに実質ゼロとする目標を盛り込んだ欧州気候法案(Climate Law)を正式に公表した。焦点となっている2030年の目標(現行90年比40%削減)の引き上げについては、50%~55%の幅のままで、今年9月までにインパクト評価レポートを公表、2021年6月までに確定を目指すとしている。目標はEC全体で達成するものとし、各加盟国間での調整を認めている。

 

 (写真は、欧州委員会内で会ったフォンデアライエン欧州委員長と、環境活動家のグレタ・ツゥーベリさん)

 

 欧州委員会は2050年ネットゼロ目標の達成に向け、ウルスラ・フォンデアライエン欧州委員長が主導する形で、法案の軸となる欧州グリーンディール(EGD)を提唱している。今後10年間に、官民合わせて1兆ユーロ(約120兆円)の投資を促す。目標達成を進めること通じてEUの環境関連産業を育成・強化する。2030年、2050年の目標の達成状況については、5年ごとに欧州委員会がレビューするとしている。

 

 目標達成のため、EUは加盟国と協調して必要な対策を講じることを義務づける。各国の進捗を担保するため、欧州委員会は、対策が不十分な国に対して勧告する権限を与えられる。石炭火力等への依存度の高い国への財政支援も盛り込んでいる。結局、この財政支援と技術開発が法案のカギとなる。各国の低炭素経済への移行を促進する「Just Transition Fund」を設立する。

 

 2050年実質ゼロ目標は、EU域内での、発電や産業活動、自動車等の人為的な経済社会活動からの温室効果ガスの排出量と、森林や湿地等の自然資源による温室効果ガスの吸収量および再生可能エネルギーの普及や、省エネ等の技術開発による削減・回収分を相殺して全体でゼロになることを目指す。2050年以降は吸収・削減・回収分が排出より多くなる。

 

 目標達成は各加盟国単位ではなくEU全体として達成する。域内にはポーランドなどのように、石炭エネルギー依存度の高い国もある一方、フィンランドはすでに2035年でのカーボンニュートラルを宣言しているほか、オーストリアやスウェーデン等も50年より前に達成可能としている。こうしたことから、50年時点で未達成の国があっても、超過達成の国との相殺で全体達成を認める。

 

 法案では、2030年の目標値を原案と同じく50~55%と幅を持ってしか示さなかった。この点について、11月の国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)に向けて、パリ協定の国別温暖化対策貢献(NDCs)の引き上げを目指す向きからは批判が出ている。欧州委員会は9月に出る予定のインパクトレポートを踏まえて30年目標の改定を決めるという。だが、9月には国連の気候サミットもある。COP26でEUがリーダーシップを発揮するには、9月では遅く、今年6月までに決定すべきとの指摘がある。

 

 フォンデアライエン委員長は「2050年のゼロ排出量目標は、もはや想定不可能な先のことではない。50年は、私の子どもたちが、今の私よりも若くして到達する時期だ。今回の気候法案は、今後30年間のわれわれにとっての『コンパス(方位計)』だ」と強調した。

 

欧州議会で演説したグレタさん
欧州議会で演説したグレタさん

 

 ただ、欧州議会で演説したスウェーデンの環境活動家、グレタ・ツゥーンベリさんは、同法案を「Surrender(降伏)」と批判した。「EUは、今も新規の化石燃料インフラを建設し、補助金を供給していながら、気候リーダーであるようなふりをするのは止めるべきだ」と述べた。

 

 

 グレタさんと他の環境活動家が今週初めに公表した公開書簡では、「2050年の気候ニュートラルの約束は、パリ協定が目指すもっとも野心的な目標の達成の50%でしかない」「各国政策当局は、残りの50%のカーボンバジェットに集中すべきだ」と求めている。

 

https://ec.europa.eu/info/files/commission-proposal-regulation-european-climate-law_en

https://ec.europa.eu/info/sites/info/files/commission-proposal-regulation-european-climate-law-march-2020_en.pdf