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日本、中国の動きを警戒―アジア開発銀総裁選 (WSJ)

2013-02-28 12:26:04

次期ADB総裁候補と目される中尾武彦財務官
次期ADB総裁候補と目される中尾武彦財務官
次期ADB総裁候補と目される中尾武彦財務官


【東京】日本政府がアジア開発銀行(ADB)の黒田東彦総裁を日銀総裁に起用する人事案を固めたことを受け、ADBの新総裁選びが本格化する。そうしたなか、地域のへの影響力をめぐって日本と中国の争いが新たに生じる可能性もある。

黒田氏が3月から日銀総裁に就任した場合、ADB加盟国が行う総裁選によって後任が決まる。日本は1966年のADB創立以来の約半世紀間、歴代総裁を送り込んできた。日本にとってのADBは、米国にとっての世界銀行あるいは欧州にとっての国際通貨基金(IMF)と同じような存在で、世界的な影響力を行使する基盤となっている。

麻生太郎財務相は26日、閣議後の記者会見で「日本がアジア開銀総裁のポジションを取るべく、今後色々と選挙活動をやらねばいかんようになると思う」と述べ、財務省がADB総裁選への準備を開始することを明らかにした。さらに、日本からの候補者としては財務省の中尾武彦財務官を軸に調整していくことを示唆した。

日本としては、5月にインドのデリーで予定されているADB年次総会を新総裁の下で開催できるよう、その前の選挙実施を希望している。

アジアのインフラ計画や社会基盤整備プログラムへの投融資を主な業務としているADBの総裁選については、過去に世界から注目されることはほとんどなかった。ただ今回は状況が異なるかもしれない。日本が世界第2位の経済大国の地位を中国に奪われた2010年以来、世界で最も急成長しているアジア地域における力関係の変化はアナリストらから注視されてきたからだ。

中国は、特に中国人民銀行(中央銀行)の元副総裁だった朱民氏をIMFの副専務理事に送り込むなど、国際経済機関での影響力拡大を図ってきた。

しかし、中国政府はこれまで、主要な国際金融機関のトップ人事で自国から候補者を擁立したことがない。IMF専務理事選では欧州連合と足並みを揃える形でフランス人のラガルド氏を支持し、また世銀総裁選びでは自国候補を推す米国に同調するなど、従来の取り決めを容認してきた。これらのポストを急成長する新興市場国へ明け渡すよう米国と欧州に圧力がかかっていたが、中国は開発途上国からの候補者を支持してこなかった。

国際機関の関係者らは、中国が国際機関で指導者としての役割を担う時期ではまだないと感じているのではないかと指摘する。そのような地位を目指すためには、まず自らの経済政策作りの変更が要求されるかもしれないことが、躊躇(ちゅうちょ)する理由の一つだ。例えば、ADB総裁を送り出す国は拠出金を増額することや、ADBからの借り入れを止めることを期待される可能性がある。

中国外務省の報道官はADBに関する中国の姿勢についてのコメントを控えた。

地域および世界における経済政策機関や討議の場で日本と中国が影響力強化のために競い合うことは目立たないものの、増加している。

日本政府関係者は、国際経済の協議の中心が先進7か国(G7)から中国などの新興市場国も含んだ主要20カ国・地域(G20)へと移行する流れに抵抗した。一方、中国はIMF・世銀総会が昨年10月に日本で開催された際、中銀総裁と財政相の出席を見送った。

さらに中国政府は、今月東京で開催された「パレスチナ開発のための東アジア協力促進会合」など、日本主催の国際会議に政府高官を派遣することを引き続き拒んでいる。アジア諸国が新たな地域貿易圏の確立について検討するなか、日本政府は中国の加わらない環太平洋経済連携協定(TPP)に重点を置いている。

ABD総裁選の規定は日本に有利に働きそうだ。例えば、候補者の当選には、加盟国に配分された議決権の50%超を獲得しなければならない。日本に加えて支持の期待できる米国とユーロ圏諸国、オーストラリア、ニュージーランドが保有する議決権を合計すると、50.6%に達する。

日本政府関係者は日本が総裁ポストを維持することについて、アジアへの貢献実績から正当化されるとの見解を示している。日本と米国はADBへの最大出資国であり、出資比率はともに15.65%となっている。

ただ、日本が中国の出方を注視しているのは明らかだ。関係筋によると、一部の日本政府関係者らは今月モスクワで開かれたG20財務相・中央銀行総裁会議の際、ADB総裁についての中国財政相の考えに探りを入れたという。その結果、中国政府が自国の総裁候補を擁立する意思のないことを確信したという。

しかし、中国首脳部が違った考えを持っている可能性もあるとして慎重な姿勢を崩していない政府関係者らもいる。さらに、中国が他の候補を支持した場合、日本人の当選が危うくなる恐れもあるとみている。

日本政府にとって明るい材料は、インドネシア財務省が日本支持を示唆したことだ。政府関係者が心配していたのは、知名度の高い同国元財務相のスリ・ムルヤニ・インドラワティ氏(現世銀専務理事)が立候補して厳しい選挙戦になることだった。

インドネシア財務省の財政政策担当高官、バンバン・ブロジェネゴロ氏は今週、ADB総裁職について「日本のもの」と述べた。

インド財務省関係者は最近、次期総裁候補への支持を表明するのは時期尚早と語り、韓国財務省はコメントを控えた。

日本と中国が地域機関のトップ人事をめぐって争った直近のケースとして、2010-11年のASEAN+3マクロ経済リサーチオフィス(AMRO)の事務局長選びが挙げられる。AMROは東南アジア諸国連合(ASEAN)と日中韓3カ国の財務相会議で合意・設立された独立サーベイランス組織だ。

この件で日本と中国は最終的に、任期3年の最初の1年は中国人が、そして残りの2年は日本人が事務局長を務めることで妥協した。ただ、この人事を中国の興隆を証明したものと捉える専門家もいる。

http://jp.wsj.com/article/SB10001424127887324432404578330652852509668.html?mod=djem_Japandaily_t#articleTabs%3Darticle