HOMERIEF Interview |『秋田発』再生可能エネルギーの新潮流(下) 流体解析技術を駆使した小水力発電の水車設計の東北小水力発電。秋田から内外に展開へ。和久礼次郎社長に聞く(RIEF) |

『秋田発』再生可能エネルギーの新潮流(下) 流体解析技術を駆使した小水力発電の水車設計の東北小水力発電。秋田から内外に展開へ。和久礼次郎社長に聞く(RIEF)

2017-08-30 20:57:56

 

 秋田発の、もう一つの先端を行く再生可能エネルギー・ベンチャーは東北小水力発電。コンピューターで水の流れをシュミレーションする「流体解析技術(CFD)」を使って、小水力発電の水車発電機を設計、発電効率を従来のものより3~5%高める技術で、高効率・低コストの水力発電システムを開発している。米航空宇宙局(NASA)なども活用している解析技術が土台になっており、現在、国内での引き合いに加えて、海外での大規模展開も進行中という。東北小水力発電の和久礼次郎社長に聞いた。

 

 ――東北小水力発電の特徴である「流体解析技術(CFD)」とはどのような仕組みですか。

 

 和久氏:専門的には数値流体力学(Computational Fluid Dynamics)と呼びます。コンピューターで水や空気の流れをシュミレーションして解析する技術です。流体の流れ、熱や物質移動、化学反応などを方程式にして解き、現象を予測し、実験値と予測値を相互比較することで、実験では計測が難しい場所や内部の流れなどを把握できます。その結果、開発コストの低減、開発スピードの向上、発電の効率アップが計れます。CFDのデータを使って自社で水車発電機を設計します。

 

 touhoku5キャプチャ

 

――流れる場所によって水の流路は違うということですね。

 

 和久氏:水車を設置する場所によって条件がすべて違うので、それに合わせて設計します。水車発電機を設計する時には、事前に設置する場所では実験ができないケースが多いので、コンピューター上で各種のデータを入れてシュミレーションするのです。大型の発電容量何万kWという大水力のダム建設の場合は、以前からこうした手法を導入していますが、小水力発電に応用したのは、われわれが実質的に初めてと言っていいと思います。大企業は小規模な発電は採算が合わなくててやりません。

 

――水力発電で流量の評価が大事な理由は。

 

 和久氏:日本でも、水力発電は50~60年、あるいは100年近く稼働しているものもあります。当然ながら水力発電所は、河川の流域でもっとも発電効率のいいところで建設されてきました。流量の変化が大きい場所は、発電効率が下がります。今までは、流量変化が大きくて比較的条件の悪い場所への建設は避けられてきました。そこで新たな適地を求めるには、多少、流量に変化があっても如何に効率よく発電できるかが勝負になりました。それが解決すれば、水力発電所の適地が大幅に増えます。変な表現ですが、流量変化に「鈍感な水車」を作れないかという事です。当社の場合、CFD解析という新しい技術によって、他の中小メーカーのものより年間の総発電量を増加させることができるのです。最先端の技術力によってそれが可能になってきます。

 

――今までに実用化しているのは。

 

 和久氏:秋田県にかほ市の白雪川の流域で、2016年3月、にかほ土地改良区による発電出力42.7kWの畑野小水力発電所が稼働、わが社の第一号の水車が発電しました。電力は東北電力に売電しています。また、今年4月には奈良県御所市の県営浄水場で出力39kWの発電所が稼働しました。電力は同浄水場内で使用しています。それ以外にも、山形県や岐阜県などでも農業用水を利用した案件が進んでいます。引き合いは、秋田だけでなく全国からあります。

 

流体解析のコンピュータ上でのシュミレーションの模様
流体解析のコンピュータ上でのシュミレーションの模様

 

――水の流れがあれば、どこでも発電できそうですね。

 

 和久氏:われわれは早稲田大学の宮川和芳教授の研究室と共同研究をしています。その共同プロジェクトの一つに、中東地域での水道網を使った発電計画があります。水道は上から下に水が流れます。落差はそんなにありませんが、水道網のところどころに圧力を逃がすための減圧弁が設置されています。その減圧弁を撤去して、そこに水車を設置して発電させる計画です。調査の結果、水車の設置可能な適地がその国で7000カ所くらいあります。首都だけでも約750ヶ所。まだ開発段階ですが、うまく受注できると7000カ所にわが社が設計する小水力発電ができることになります。そういう夢みたいな話も先にあるのです。

 

 まさに水の流れるところはどこでも発電できます。また上水道、下水道、どちらでもできます。今までのように河川に単発の水力発電所を設けるのではなく、面的な発電網を築くことができます。これまで捨てていた流量のエネルギーを拾って発電するのです。中東の国での上水道発電が全部できると、100万kWの電力を発電できます。これは原発一基分の発電量に匹敵します。今まで捨てていたエネルギーで原発一基分の電力を発電でき、化石燃料を使わず放射能を出さないということですから、いいことずくめですね。

 

 ――日本の小水力市場の発展の見通しをどうみていますか。

 

 和久氏:日本の主な河川での水力発電所はすでに、発電効率のいいところはほぼ設置が終わっています。このため、これまでの小水力発電は農業用水路中心に導入が進んできました。従来の水力発電は、山の上の落差のあるところが発電の候補地とされてきましたが、これからの小水力発電は都市でもできます。人が住んでいるところの上下水道で発電し、その電力を都市ですぐに使う。捨てていたエネルギーから新たなエネルギーを得て、その場で使うので無駄がありません。

 

 また既存の水力発電所も転換期に来ています。国内にダムは2400カ所ほどありますが、その多くが建設から40~50年を経過し、リプレースの時期にきているのです。そういう意味でも十分な需要があります。小水力といっても、発電出力は1万kWまであります。大型の風力発電機で1台2000kWくらいですので、大型風力発電5機分の発電力があります。わが社の水車製作は1万kWくらいまで対応可能です。

 

 touhoku11キャプチャ

 

 小水力というと、小川のせせらぎのようなイメージですが、1万kWというと実はでっかい。しかも再エネの中で、稼働率は地熱と並んで一番安定しています。

 

 ――小水力発電に取り組むようになった経緯を聞かせてください。

 

 和久氏:それ以前は、小型風力の開発に関わっていました。トヨタグループや東大などとも提携し、風の流体を研究していました。その中で、東大などとCFDでの開発を経験したスタッフらが現在のわが社にいます。ただ、風というのはどこから吹いて来るのかがなかなか予測できない。急に竜巻になったりで、風の流体の解析は非常に難しい。悶々としていた時に、2011年の東日本大震災が起きたのです。

 

 そこで目の当たりにした津波の脅威。水のパワーはすごい、ということから、それまで空気を対象としていた流体解析を水に当てはめたらどうか、と研究を始めました。風と違って、水は上から下への一方通行の流れです。なので、これは自分たちが今までやってきたものよりも、きっと簡単だろうと単純に思ってやりだしたのです。

 

 この分野への取り組み状況を調べたら、流体解析の技術は水力のメーカーでは大企業しか持っていない。その大企業は、小水力には見向きもしていない。中小メーカーの取り組みはほぼゼロ。われわれは小型風力で途中までできていたので、もう少し勉強するといけるなと思い、進出したのです。しかし、総簡単にはいかなくて、突き詰めればそれはそれで奥が深い開発となりましたが。

 

東北小水力発電の全社員
東北小水力発電の全社員

 

――震災の被害の部分だけではなく、津波のパワーに目をつけたのですね。順調に進みましたか。

 

 和久氏:当社は小さなベンチャー企業なので、解析用の高額なソフトを買うにしても、とても手が出ません。なので、ソフトは借りるなどで対応しました。事業計画を金融機関に見せて、こういう技術が必要だと説明しても、「いいですね」とは言われますが、融資の決断にはつながりませんでした。ほとんどの金融機関は、先端技術のことは大変難しいので、なかなか理解できないですね。

 

 政府系金融機関を含めて、ほとんどの金融機関に足を運びましたが、反応はよくありませんでした。最後に訪ねた地元の秋田県信用組合の北林貞男理事長に一対一の面談の機会を得て、メインバンクとして応援するという決断をしていただきました。まだ開発は途中段階でしたが、県信さんのご支援でわれわれの大きな夢がスタートできたというのが経緯です。

 

 北林理事長は技術のプロではないので、たぶん、われわれの技術の詳細はわからなかったと思います。しかし、再生可能エネルギーに以前から興味を示されており、また地元企業のわれわれを応援したいという思いがあったと思います。さらに言えば、他の金融機関が応援しないなら、われわれが応援したいという思いもあったのではないでしょうか。理事長に首を横に振られていたら、今はなかった、と思っています。

 

小水力発電機の設置の様子
小水力発電機の設置の様子

 

――秋田県で再エネビジネスをするメリットは何ですか。

 

 和久氏:われわれは元々、秋田で立ち上がったベンチャー企業です。現在のオフィスは秋田県産業技術センター高度技術研究館の中にあります。秋田県には事務所の提供も含め、水車の共同開発など全面的な協力をいただいています。地元には産官学で協力する体制があります。そうした体制を土台に、流体解析の設計は都会でなくてもできるし、実験などはこっちのほうがやりやすい。うちの若い社員は基本的に田舎もんだから東京なんかあまり知らない。でも彼らは、長期間研究開発したNASAの街のことはよく知っているんですよ。

 

 8月22日には新エネルギー財団(NEF)から吉報が届きました。わが社と早大、秋田県の3社で応募していた新事業がモデル事業に採択されたのです。この事業は、秋田県鎧畑発電所に新たに実証実験用の第3発電所を新設して、低価格で変減量・変落差に対応する新型フランシス水車を開発、4年後の商品化を目指します。われわれとしては、開発した新型水車を使った「インテリジェント水車システム」を、計画中の中東プロジェクトに活用したいですね。

 

東北小水力発電が入居している秋田県産業技術センター(秋田市)
東北小水力発電が入居している秋田県産業技術センター(秋田市)

 

――金融への期待をもう少し話してください。

 

 和久氏:そうですね。世の中にお金持ちはいっぱいいるでしょうが、金もうけだけでなく、自分が投資してその会社を育てたことがイコール環境に貢献したみたいなことに、理解のある投資家に巡り合えないかと思っています。夢を共有する投資家ですね。計画している中東での水道発電プロジェクトなどでは、できれば中東の資本家と共同で実現したいと思っています。グローバル規模での夢の実現になると確信しています。

                          (聞き手は藤井良広)

 

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 ▽東北小水力発電

  本社:秋田県秋田市 資本金2450万円 社長:和久礼次郎氏http://www.tohoku-hydropower.jp/index.html

 

和久礼次郎(わく・れいじろう) 秋田県出身。青山学院大学卒、2011年4月東北小水力発電設立、代表取締役社長。