HOMERIEF Interview |国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP FI)特別顧問 末吉竹二郎氏。日本の環境金融、アジアの国にも出遅れ気味に。国が本気で脱炭素に向かう姿勢打ち出す必要(RIEF) |

国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP FI)特別顧問 末吉竹二郎氏。日本の環境金融、アジアの国にも出遅れ気味に。国が本気で脱炭素に向かう姿勢打ち出す必要(RIEF)

2017-11-13 18:11:12

 

 国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)が設立されてから今年で25年。グローバルな環境問題への金融機関の取り組みを促進する活動を展開してきた。12月11、12日には、東京でRegional Roudtable in Asia Pacificを開催する。日本でUNEP FIの国際会合を開くのは14年ぶり。長年、UNEP FIの特別顧問として日本の環境金融を牽引してきた末吉竹二郎氏に、日本の環境金融の進展について聞いた。

 

――UNEPFIのグローバルな活動をどう評価していますか。

 

 末吉氏:UNEPFIは世界の環境金融を引っ張ってきたリーダーであると自負しています。そもそも私がこの活動に関わり始めたのは2000年ごろですが、この活動自体が生まれたのは1992年です。なぜ92年かというと、この年、リオ地球サミット(環境と開発に関する国連会議)が開かれました。当時、リオサミットを準備したUNEPの活動をサポートしてくれたのは、基本的に産業界の人たちだけでした。

 

 金融界の人は誰も関心を持ってくれない、という歴史がありました。しかし、92年のリオサミットを機に、世界のステークホルダーがみんなで一緒に参加すべきという認識の下、世界のおカネの流れに携わる金融が関わらないのはおかしい、ということで、主として欧州の金融機関に声をかけて生まれたのが金融イニシアティブです。UNEPという国連の補助機関と外部の金融機関がパートナーシップを組んで、世界の環境金融を推進するために始まったのです。

 

 例によって、当初、日本の金融機関は全く参加しませんでした。ただ保険業界、特に損保の人たちは、自然災害によって被害が出てくるということで、それは自分たちの問題(保険支払いに直結する)ですから、彼らが先に関係してきました。

 

 sueyoshi2キャプチャ

 

――最初は、UNEPFIは保険と銀行とで、部会が分かれていましたね。

 

 末吉氏:そうです。ところが銀行や投信、証券の世界は全く関係していなかった。それが1999年に当時の日興アセットマネジメントが日本で初めて金融と環境を結びつけたエコファンドを売り出しました。私も当時、関係していました。あれがきっかけで、UNEPFIのほうから声がかかったのです。彼らの言葉を使うと「ブラックホールだった日本で、とんでもないビッグプロダクトが生まれた」と。半年くらいで千数百億円を集めたのです。それで、どういう関係かわからないが、私がそのことをUNEPのフランクフルトで開いたラウンドテーブルで紹介する役割を担ったのが始まりです。2000年の秋でした。

 

――その段階では末吉さんはすでに、環境金融を意識されていたのですね?

 

 末吉氏: 多少はね。会議はドイツ銀行の拠点であるフランクフルトで開かれました。当時のブラウナー頭取が、ものすごい演説をした。30分ほどの間、ペーパーもなく、いかに環境と金融が結びつくのかが大事かと論じました。その話を聞きながら、率直に思ったのは、日本の丸の内や大手町の金融界の人々の顔を思い浮かべながら、いったい、日本の金融界で、だれがこんな話を自分の言葉でできるのかと、すごく痛感しました。

 

 2000年というと90年代のバブルの崩壊で「失われた10年」の最後のころ。金融、特に銀行がすごく痛んでいました。不良債権の償却、いくつかの銀行が消えるとか。多くの銀行員が職を失うとか。日本はまったく後ろ向きだったのに、世界の人たちは金融が環境に何がすべきかという議論が盛り上がっていたのです。このギャップが、私が何かをしたほうがいいのではと考えたきっかけでした。

 

 sueyoshi5キャプチャ

 

ーーそのギャップはこの25年でかなり埋まりましたか。

 

 末吉氏:その当時からすると17~8年ですが、当然、(ギャップは)埋まってきていますが、やはり、まだ後追いですね。なかなか日本の金融界がリーダーシップを発揮するというところまでいっていない。それは残念ですね。変化はしているが、絶対水準でみると、日本と世界は、ギャップがあるという感じに受け止めています。

 

――日本の場合、銀行、保険、証券会社などで対応に違いはありますか。

 

 末吉氏:保険、証券、それから銀行でいくと、保険がやはり先に行っています。これはある意味で当然ですね。自分たちのビジネスに(環境は)直結しているのですから。ただ、銀行と証券、海外でいうと投資の世界は、海外に比べると相当遅れていると思います。

 

――どうしたらいいですか。

 

 末吉氏:やるしかない。これは環境金融に限らず、日本という国は、世界が取り組み始めたパリ協定の実現や、国連の持続可能な開発目標(SDGs)などのグローバルな動きに際して、やはり後追いなんですね。それはなぜかというと、一つは私の見方では、国自身が関心がない。パリ協定には議論に参加して日本の目標も出していますが、国全体が日本を本気で脱炭素に向かせるための大きな政策を取るなどの取り組みが弱いので、(企業にとっては)国がどこにいくかわからない、ということがあります。

 

 私は法律が必要だと思います。ただ、一方で日本の金融とか企業の方々に、時々、ウォーニングを出しているのは、この問題は国が動かなくても、商業ルールとして始まっている、ということです。例えばウオルマートがこういうことでないと取引しませんよ、というと、それでおしまいなんですよね。例え日本でルールがなくても。そういう動きをちゃんとみていなければならない。

 

 sueyoshi7キャプチャ

 

ーー日本の金融機関も石炭火力向けの投融資などで、最近は国際環境NGOから抗議を受けるなど、グローバルに目立ってきていますね。

 

 末吉氏:常々に申し上げているのは、日本という国は世界があってはじめて日本だと。より良い世界があって、より良い日本が実現するんだと。だから、究極的に日本を良くしようと思えば、世界を良くしなければいけないのです。だから、世界が一緒にやろうとすることには、自分のためということも含めて、一生懸命取り組んでいく必要があると思います。

 

 ところが、あえていうと、海外で一生懸命やっている人たちに最初の苦労は任せておいて、どうしてもやらなければならない時になって初めて出てきて、「日本はやっていますよ」というような動きに見えるんですよね。もう少し自分の問題として取り組む気概、意欲というか。そういったものが欲しいと思います。

 

ーー最近は国内でも、ESGの資金運用で、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がインデックスを採用するなど、市場的な盛り上がりがかなり出てきた感じがします。

 

 末吉氏:日本サステナブル投資フォーラム(JSIF)というところがアンケートをとったところ、おととしから去年にかけて、ESG運用が26兆円が56兆円に倍増している(今年は136兆円に増加)。たぶんアンケートですから、あれもこれも入れられるものは入れろということがあったのかもしれないが、それにしても増えています。また、GPIFがついに動き始めました。そういう変化は大きいと思います。ただ日本全体でみると、あるところの統計では資金は3%くらいしか動いていませんので、まだまだです。これからですね。

 

 sueyoshi3キャプチャ

 

――UNEP FIは25周年を迎えます。日本でも14年ぶりに国際会議が開かれますが、日本の金融の課題解決のために、背中を押すものは何でしょうか。

 

 末吉氏:一つは、12月の東京会合を開くことの意味は、今、言われたこと(日本の金融の課題解決)を、日本の金融とビジネスに知ってほしいということ。世界はこんなにやっていますよ、こんなに進んでいますよということを、知ってもらいたいということです。

 

 前回、2003年に東京で大きなラウンドテーブルをアジアではじめて開いた時は、まだ日本はアジアの中でリーダーでした。世界には遅れてはいても。その後、豪州、シンガポール、中国、韓国などアジアの諸国が非常に前に出て動いています。日本は、世界のみならず、アジアの国にも遅れを取りはじめたのではないかという気がします。そういったことに気付いてほしい、きっかけにしてほしい、と思います。

 

 それから、今求められているのは、国を挙げて社会を変えていくという運動です。金融だけが変わるということではなく、逆に言うと社会を変えるために金融が変わらなければならないということです。社会を全体的に変えるためには、やはり中央政府の役割が重要です。あるいは最近では国際金融都市が競争を始めています。グリーンの分野で。したがって、東京都や大阪府などの有力地方都市も、この問題を「わが事」にしていただきたいし、できたら官民一緒になって日本全体が動いていくぞ、ということにしていかないといけない。

 

 sueyoshi6キャプチャ

 

 この問題は単に温暖化対策をとらないと、CO2問題が大変になりますよということだけではなくて、そのこと自体が国際競争の条件になり始めているということです。これをちゃんとやらないと、日本の産業構造の転換もできないし、日本の経済の国際競争の力も、どんなにもがいても、あがいても、日本の金融も国際的な金融機関になれない。ですから国際競争の中で、日本がどうやって勝ち残っていくのかという視点も入れると、これはもう絶対やらないといけないのです。

 

――末吉さんは事実上、日本を代表して推進して来られました。しかし、もっと多くの日本の金融人が、もっと多くの国際的な議論の場に入っていく必要がありますね。

 

 末吉氏:私自身もがんばってるつもりですが、誰かがアヒルの水かきを続けて、どこかの時点で多くの人が気付いて参加してくる。そして「流れ」が始まると、いうことではないでしょうか。それがたぶん金融だけでなく、どこの世界でもあることだと思います。

                                                                      (聞き手は 藤井良広)

 

末吉竹二郎(すえよし・たけじろう) 旧三菱銀行、東京三菱銀行信託会社頭取、日興アセットマネジメント副社長等を経て、UNEP FI特別顧問、その他多くの役職を務める。鹿児島県出身。