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日本の公的資金。バングラデシュでの国際協力機構(JICA)支援の石炭火力発電所の建設計画を「気候アクション」の名で継続し、CO2排出増を続け、地域社会への負担も続ける(有馬牧子)

2026-07-25 00:09:14

 (写真は、バングラデシュのMIDI計画で建設される石炭火力発電所)

 

  バングラデシュは、過渡期を迎えている。2024年7月に同国で起きた学生主導の革命の激化により、15年間政権を握っていたシェイク・ハシナ首相が国外に逃亡し、ノーベル平和賞受賞者であるモハマド・ユヌス氏が率いる暫定政権が国を統治している。今年の2月にはハシナ政権の期間中は行われなかった自由で民主的な総選挙が2008年以来初めて行われた。権威主義国家から希望に満ちた暫定政府、民主的に行われた選挙とバングラデシュは確実に変化している。

 

 しかし、ハシナ政権下から続く日本政府が関わる開発事業による地域社会と住民への被害は今も継続している。特に、ダッカから約300km南に位置するモヘシュカリ管区の沿岸地域では、その影響が顕著である。ここでは、主に国際協力機構(JICA)の資金提供により進められた化石燃料政策の「負の遺産」が、今もなお人々の生計と地域の生態系に爪痕を残し、さらに「モヘシュカリ・マタバリ統合インフラ開発イニシアティブ(MIDI)」として被害が拡大する恐れがある。

 

 日本による化石燃料開発と地域社会の破壊

 

 日本による開発事業の中でも、地域社会と自然環境への改変インパクトの大きさで、特に問題視されているMIDI計画は、2010年代初頭、JICAとハシナ政権下のバングラデシュ政府との協力事業として構想された。MIDI計画は、静かな海辺のコミュニティを、深海港インフラや複数の化石燃料発電所を含む、広大な産業・エネルギー拠点へと変貌させるものである。その中でも中心的な事業が、JICAの資金提供により、2024年に稼働を始めた、発電容量1,200MWのマタバリ石炭火力発電所である。

 

 マタバリ石炭火力は、2万人近くの周辺住民や労働者の立ち退きを招くなど、地域社会に深刻な影響をもたらしてきた。住民による抗議活動を受けてから、JICAは発電所の向かい側に団地を建設し、住民の一部に住宅を提供した。

 

 しかし、住民たちが悲嘆にくれている実情に変化はない。「家は提供してくれたけれど、仕事はない。それに、以前の家とは全然違う」と、ある女性は涙ながらに語った。JICAがこの家族が活用していたエビ養殖用の土地や季節により塩田として活用した土地を、発電所用に接収したため、これらの家族は職を失ってしまった。発電所の運営関連の仕事は、彼らにではなく、地域出身の外部の人に与えられたという。さらに以前の住まいでは、5人から10人という大家族が一緒に暮らしていたが、新しく提供された住宅の構造上、家族は一つの家に入りきれず、別々に暮らすことを余儀なくされ、家族が引き裂かれてしまった。

 

バングラデシュは、国土の大半が気候変動に対するValinabilitiy 指標で「危険」な赤印となっている。
バングラデシュは、国土の大半が気候変動に対するVulnerability 指標で「危険」な赤印となっている。

 

 「以前は養魚や塩作りをしていた。でも今はすべて失った。今ではマタバリには、発電所の関連事業の仕事以外には何もない。仕事がある人は食べていけるが、ない人は苦しんでいる。仕事なしでは生きていくのが難しい」と、石炭火力事業によって住む場所を追われた別の女性は語る。

 

 発電所の隣にある狭い道路沿いには、海辺に面して小屋が並んでいる。かつてこの海辺の向かいにある島には4,000人が暮らしていたが、彼らは島を去り、これらの小屋に住んでいる。漁民たちによると、その島の砂を石炭火力発電所の裏にある深海港の防波堤の建設に使うため、大量に採取されたことで、島に住めなくなったという。この深海港もJICAの資金提供により、MIDI計画の一環として建設中である。

 

 日本政府は、同港への3億6300万㌦の拠出を気候変動適応資金と位置付けているという報道もある。しかし、すでに気候変動の影響に苦しんでいる地域において、この開発事業は地域社会や人々の生計に壊滅的な打撃を与えている。このような開発事業が気候適応やレジリエンスの恩恵をもたらすのか、地元住民や環境団体は疑問を口にしている。

 

 モヘシュカリ出身の漁師は、この開発事業による自身の生計への影響について語った。「漁をするのに苦労している。以前は半径1~2km圏内で魚を捕ることができたが、今はもっと遠くまで行かなければならない。こうした影響を受けているのに、私たちには何の補償もない。補償を受けたのは、事業区域内に家を持っていた人たちだけだ」

 

 マタバリ出身の別の漁師も次のように語った。「以前は岸の近くで魚が獲れた。今は遠くまで行かなければならないが、それでも十分な量の魚が獲れない。これでは、船の燃料代もまかなえない。この事業のせいで、海水が汚染されてしまった。排水が海に流れ込み、皮膚のかゆみを引き起こしている。だから、今は海に出られない」

 

 現地の人々に対して、事業の責任者から説明があったかどうかを確認するため、同地の漁師に聞いたところ、「いくつかの国が関わっていることは知っているが、具体的にどこの国かは分からない。説明を受けたことは一度もない」との答えが返ってきた。

 

 MIDI開発に向けたJICAのエネルギー計画

 

 JICAが40億米㌦以上の融資を投じているマタバリ石炭火力は、日本のような先進国が、気候変動対策とは言い難い開発プロジェクトを「気候変動対策資金」への貢献として分類している典型例として、海外メディアでは取り上げられている。この発電所が毎年680万㌧のCO2を排出していることを考えれば、同事業を「気候変動対策」と呼ぶのは無理がある。気候変動への脆弱性が極めて高いと言われている地域において、さらなる化石燃料事業を展開し、気候危機を悪化させることは残酷な行為に思える。しかし、JICAのMIDI計画が目指しているのはまさにそれである。

 

 JICAはMIDI計画の一環として、同地域における化石燃料発電所の建設を推進し続けており、その中には13GWのLNG火力発電所も含まれている。日本のNGOの「環境・持続社会」研究センター(JACSES)は、MIDI計画が過大なエネルギー需要予測に基づいて策定されていると指摘する。

 

 The Conversation November 19, 2025から引用
The Conversation November 19, 2025から引用

 

 JACSESによると、バングラデシュ政府の「統合エネルギー・電力マスタープラン(IEPMP)」では、チャットグラム地域というMIDI地域を含む、より広域な地域の設備容量を15GWと見積もっており、MIDIのLNG火力発電13GWの容量と整合していない点も指摘している。2024年12月にバングラデシュの弁護士団体は、JICAが策定支援した同エネルギー・電力計画に対して、化石燃料および化石燃料に基づく技術への過度な依存を理由に、バングラデシュ最高裁判所で異議を申し立てている。

 

 JACSESの分析によると、MIDIのエネルギー計画は5つのシナリオに沿って展開される可能性があり、そのうち「開発を行わない」というシナリオを除く、4つのシナリオでは、ガス火力または石炭火力及びアンモニア混焼や二酸化炭素回収・貯留(CCS)といった化石燃料に基づく排出削減技術が導入される前提になっている。

 

 ハシナ政権下で始まったMIDI計画は、変化をもたらすと人々から期待された暫定政権の下でさらに進んだ。2025年2月に暫定政権を率いるユヌス暫定主席顧問が来日した際、田中明彦JICA理事長と会談し、MIDI計画に対する支援の強化を求めた。その半年後には、暫定政権によりモヘシュカリ統合開発庁が設立された。現地の市民社会団体は、選挙を経ていない暫定政府がこのようにMIDI計画を進める権力はないとして強く批判した。しかし、開発庁に関する条例は、今年の4月にバングラデシュ国会で法律となった。

 

 発電容量が6倍に増加したが、その半分は稼働していない

 

 シェイク・ハシナ政権下のバングラデシュでは、2009年から2024年にかけて発電設備容量は6倍に増加したが、現在の設備容量27,645MWのうち、半分は稼働していない。その大きな要因はガスの供給不足である。当時の政府は2010年の「電力・エネルギー迅速供給特別法」を利用して多くの事業を承認したが、同法は、通常のプロセスや監視・監督手順を省略することを可能とした。暫定政権は、この法律を廃止したが、MIDIはハシナ政権下で事業やエネルギー計画が迅速に推進された結果、すでに進行しており止めるのが手遅れとなっている。

 

 現地NGOのCLEANバングラデシュのメヘディ・ハサン氏は、バングラデシュの現状について、「欠陥のあるエネルギー政策が生み出した結果だ。気候変動の脅威に加え、汚職政治家たちが国民に課した、さらなる負担である」と指摘している。もしバングラデシュでガス開発を継続すれば、地域社会や生態系のさらなる破壊に加え、米国・イスラエルによるイラン攻撃ですでに見られるガス不足や資産の座礁リスクに直面する可能性がある。

 

 米国シンクタンクIEEFA(Institute for Energy Economics and Financial Analysis)のシャフィクル・アラム氏は、化石燃料の輸入への依存は、電力供給の停止、コストの上昇、そして持続不可能な補助金負担の原因であると指摘する。同氏は、MIDIのエネルギー計画に関して、「化石燃料による新規発電所の建設により、ベースロード発電所の稼働率が大幅に低下し、継続的な補助金負担が生じる恐れがある」と指摘し、再生可能エネルギー発電の重要性を強調している。

 

 汚職の渦に巻き込まれるJICA

 

 ハシナ政権下で進められたエネルギー事業に対する監督体制が不十分だったことを踏まえると、当然のことであるが、暫定政権が発足した後、マタバリ石炭火力をめぐる複数の汚職事件が明るみに出た。バングラデシュ汚職防止委員会は、同発電事業の元責任者バングラデシュ石炭火力発電会社(CPGCBL)の元代表取締役に対して訴訟を起こした。。

 

 マタバリ石炭火力の建設において、透明性と現地住民との協議が欠如していたため、環境と人々の生計が破壊された一方で、汚職に染まった指導者や企業が同事業から利益を得た状況である。地域社会や第三者のエネルギー専門家と協議することなく、これ以上、MIDI計画を前進させれば、さらなる破壊を招く恐れがある。同計画でのさらなる有害な影響が広がることを避けるため、市民団体はJICAに対し、情報開示と地域社会との頻繁な協議を行い、影響を受ける住民への補償を適切に実施するよう求めている

 

 市民社会による反発

 

 この地域における甚大な被害にもかかわらず、現地の人々は抗議活動を諦めてはいない。2025年6月から9月にかけて、市民プラットフォーム「Dhoritri Rokhhay Amra(DHORA)」は、コックス・バザール管区全域の地方議会で集会を開催し、塩農家やベテル葉の農家、漁民、避難民を動員して、正義の実現、意義のある補償、そして新たな破壊的な事業の中止を要求した。人々は、気候変動や化石燃料開発が沿岸地域のコミュニティの生活や生計に及ぼす影響を緩和するための、公平かつ公正な取り組みを求めた。

 

 DHORAの事務局長シャリフ・ジャミル氏は、集会で演説し、「MIDI計画は、CO2汚染を伴うガスのような事業の建設を通じて、塩農家を追い出すための青写真だ」と指摘した。彼は今年の、「透明性があり、科学的根拠に基づき、包括的な戦略的環境アセスメントを実施すること」また、「あらゆる重工業の建設を中止すること」を要求した。

 

 しかし、暫定政府の後を継ぐバングラデシュの新政府も方針を変える様子はない。2月に行われた選挙後、MIDI計画は、新しく選出された国会議員により法案として可決された。地域指導者たちは、MIDI計画を通じた新たな破壊的事業を阻止するため、今後も集会を継続する予定である。

 

 JACSESの田辺有輝氏によると、JICAのエネルギー・電力計画は「日本企業の利益を最大化するために策定されたものであり、日本が余剰LNGをアジア諸国に転売するための策略に過ぎない」と述べている。バングラデシュは、ロシアによるウクライナ戦争、米国・イスラエルによるイラン戦争で悪化しているエネルギー危機により、深刻な電力不足を経験している。

 

 消費者を保護するバングラデシュ消費者協会のシャムスル・アラム氏は、すでに対外債務で厳しい状況にあるバングラデシュはMIDIのような野心的な事業は目指すべきではないと警告している。

 

 MIDI計画は、「日本のエネルギー植民地」とも呼ばれており、現地のコミュニティは多くを失う中、LNG発電所やLNG輸入ターミナルの建設とLNGの貿易により、日本の大企業だけが利益を得ると批判されている。日本の官民は、バングラデシュの実態と市民社会の要求に耳を傾け、自身の利益を優先した化石燃料事業の拡大に加担しないためには、JICAによる支援を打ち切るべきである。

 

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MIDI計画に関する資料:

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Arima 2026-07-19 015446

有馬 牧子(ありま まきこ) 国際NGO「Oil Change International」のキャンペーナー。国連大学サステイナビリティ高等研究所や環境省勤務を経て、2022年より現職。