日本がアジアで進める化石燃料依存偏重のAZEC政策は、中国への再エネ依存を加速する「近視眼」政策。米国のMAGAならぬ「中国を再び偉大にする(MCGA)」化のリスク(Richard Katz)
2026-07-29 13:49:44
(写真は、発電所やインフラ等の建設大手の中国企業「PowerChina Huadong Engineering Corporation Limited」がインドネシアのジャワ島西部に建設した浮体式太陽光発電事業=PLN Nusantaraのサイトから引用)
もっとも「近視眼的」といえるエネルギー政策を日本政府が今、アジアで進めている。それも日本自身の輸入化石燃料依存を継続するとともに、「アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)」と称して、アジア諸国を化石燃料、とりわけ天然ガスへの依存から抜け出せないようにしようとしている。アジアの各政府の中には、進行中のホルムズ海峡封鎖のリスクが続く中で、中東の化石燃料への依存から脱して、アジアに豊富に存在する再生可能エネルギーを活用するエネルギー転換へ移行しようとする国もある。ところが、信じがたいことだが、この日本の近視眼的なエネルギー政策の結果、アジア諸国の再エネ利用において「空白」が生じ、アジア諸国は再生可能エネルギーの導入拡大において中国への依存を余儀なくされていることになる。事実上、日本は知らず知らずのうちに「MCGA(Make China Great Again:中国を再び偉大に)」――単なるトランプ政権の「MAGA」のコピーではなく――を後押ししているのだ。

トランプ政権によるイランへの「戦争」が始まった3月、中国の太陽光発電設備の輸出量は前月の2倍となる過去最高の68ギガワット(GW)に達した。世界の50カ国が中国からの太陽光発電輸入で過去最高を記録し、その60%はアジア諸国による購入だった(下図参照)。https://ember-energy.org/latest-updates/chinese-solar-exports-double-in-a-month-to-hit-record-high-amid-energy-crisis/
現実には、日本政府はアジアでの化石燃料から再エネ発電へのエネルギー転換を阻もうとして、ASEAN諸国等への太陽光や風力技術の輸出を控えてきた。その結果、同地域のエネルギー安全保障を損なう影響を与え、同地域の再エネ需要と供給の間に生じた空白を、急速に再エネ供給力を高めている中国が埋めてしまったのである。これがトランプ大統領が掲げる「MAGA」ならぬ、日本の「近視眼的な政策」が中国を利する「Make China Great Again(MCGA)」である。

現在進行中のホルムズ海峡封鎖による石油・ガスの途絶リスクが続く中でさえ、日本の政策立案者たちはその視野を狭める偏見を取り除くには至っていないのだ。日本自体は石油・ガス、石炭・LNGの化石燃料の調達先を多様化させ、従来通りの化石燃料投資を通じてアジア諸国のエネルギー政策を直接支配できる体制を築こうとしている。AZECは単に、現行のエネルギー供給源の割合を高めようとしているだけである。
日本政府の本音を示す例として、日本経済新聞がAZECの推進を担当する日本大使の言葉を引用し、「AZECの根本的な目的は、再生可能エネルギーへの偏重から脱却することにある」と報じている。同氏は、化石燃料からの脱却ではなく、「再エネからの脱却」と言明しているのだ。対照的に、韓国は再エネによる発電量を3倍にする計画を打ち出しており、日本の「反再エネ」政策に歩調を合わせてはいないようだ。
中国が新興国に対し、再エネの拡大を支援すること自体には何の問題もない。むしろ、それは両国の繁栄と気候変動対策の双方にとって最良の選択肢である。しかし、私は、ある供給源、とりわけ特定の製品における支配力を政治的圧力として用いてきた歴史を持つ供給源に、各国が過度に依存することには反対だ。日本、オーストラリア、リトアニアの場合がそうである。
日本が再エネ拡大の波を止めようと命じても、クヌート王のように成功する見込みはないだろう(同王は中世に北欧諸国や英国等を支配、権勢をふるった。ある時、海岸に玉座を置き、潮に対して彼の足と衣を濡らさないよう命じたという逸話がある。潮にも命令をする傲慢さの象徴)。2000年から2020年にかけて日本のエネルギー投資の90%を受け入れ、日本が創設したAZECのメンバーであるベトナム、タイ、インドネシアの事例を考えてみよう。
ベトナムは太陽光発電と風力発電による電力供給の割合を、2018年の事実上ゼロから2025年には28%に引き上げた。一方、タイは2012年の2%未満から14%に引き上げた。インドネシアを除くASEANの9カ国――これら9カ国の総人口は4億人――は、太陽光と風力の割合を18%まで引き上げた。また、AZECのもう一つの加盟国であるオーストラリアは、その割合を50%まで引き上げている(最初の図表参照)。
インドネシアの場合、現在の太陽光と風力を合わせた再エネの電力供給はわずか1%に過ぎない。だが、同国は将来的に、再エネ導入を大規模に拡大する計画を発表した。太陽光、風力、蓄電池の価格が大幅に下落した結果、再エネは今や断トツで最も安価な電力源となっているのだ。実際、国際エネルギー機関(IEA)によると、インドネシア、マレーシア、シンガポール、ベトナム、タイが最近公表した国家計画により、2030年までにASEANの再エネ発電容量は2倍以上になる見込みだ。2025年には、すべての再エネ(水力、バイオ燃料、地熱を含む)が、ASEANの総電力の32%を供給した。2025年10月、ASEANは2030年までにこの割合を45%に引き上げることで合意した。
他に十分な参入者がいない中、これらの国々は、太陽光発電の資材供給源としてだけでなく、自国に工場を立地させる相手としても中国に目を向けている。中国は東南アジアの生産拠点に多額の投資を行っており、その多くは米国の関税を回避する手段となっている(下図を参照)。出典: https://rhg.com/research/solar-manufacturing-in-asia-at-a-crossroads/

EU、英国、そしてトランプ政権以前の米国が前向きな代替案を提示
日本とは対照的に、米国、英国、EUの先進各国・地域は2021年、開発途上国を支援するために「公正なエネルギー転換パートナーシップ(JETP)」を設立した。石炭火力発電所の廃止と再エネ発電の建設の両方が、このパッケージの一部となっている。ただ、ドナルド・トランプ氏は2025年に政権に復帰するとすぐに同パートナーシップから離脱した。日本は当初から加盟していなかった。
これまでにJETPは、南アフリカ、セネガル、インドネシア、ベトナムを皮切りに、公的・民間資金合わせて約500億㌦を拠出することを約束している。2022年にインドネシアに対して約束された200億㌦の支援は、JETPとしては過去最大規模の支援パッケージである。昨年には、ベトナムに対して150億㌦の支援を約束した。
JETPには問題がないわけではないが、その取り組みは中国への過度な依存を軽減することができる。インドのような他の国々も、世界的な太陽光発電サプライヤーとなるべく大きな努力をしており、そうした取り組みは支援されるべきだ。
ゲームチェンジャーとなる経済的マイルストーンが、日本の試みをさらに無意味なものにしている
私が決して忘れないテレビ番組の一コマがある。英国の名優マイケル・ケインがアメリカの人気深夜番組『ザ・トゥナイト・ショー』に出演した時だ。彼は司会者ジョニー・カーソンに対して、父親があまりにも貧しかったためラジオを買う余裕がなく、代わりにレンタルしていたと語っていた。ケインの父親は長年にわたり、もしそのレンタルラジオ分を貯蓄できていればかかったであろう費用よりも、はるかに多くのレンタル料を支払ったのだ。「貧しい人々は、安い商品を買う余裕がない」とケインは説明した。
今思えば、彼は、まるでかつての太陽光発電について語っていたかのようだった。しかし、今は違う。ライフサイクル全体で見れば、太陽光や風力は石炭や石油よりもはるかに安価だ。早くも2021年には、世界人口の半分を占める国々において、既存の石炭・石油発電所を稼働させるよりも、新しい太陽光・風力発電所を建設・運営することの方がすでに安くなっていた。これは発電所のライフサイクル全体を通じた話だ。
とはいえ、ケインのラジオの話と同様に、太陽光・風力発電所や、それに付随する蓄電池の建設にかかる初期費用は、かつては貧しい国々にとっては手が出せないほど高額だった。しかし、もはやそうではない。現在では、新しい太陽光や風力発電所を建設するコストは、新しいガス火力発電所や石炭火力発電所を建設するコストよりも安くなっている。必要な蓄電池を含めた場合でも、2030年までには同様の状況になるだろう(下図を参照)。 https://ember-energy.org/app/uploads/2026/04/The-electric-fast-track-for-emerging-markets-PDF-1.pdf

初期費用さえ支払えば、太陽が輝くことや風が吹くことに対しては、誰もお金を払う必要はない。唯一の財政的負担は、わずかな維持管理費と修繕費だけだ。また、戦争によって石油やガスが遮断されるのとは異なり、戦争になっても、太陽の光を遮断することはできない。
総発電容量の拡大が必要な国々にとって、太陽光や風力発電は迷う余地のない選択肢だ。そして、ASEAN諸国が、OECD諸国の現在の一人当たり水準に並ぶためには、総発電容量を5倍に拡大する必要がある。各国が新規発電容量の確保に太陽光や風力に、ますます注目しているのも不思議ではない(下図を参照)。: https://ember-energy.org/data/electricity-data-explorer/?data=capacity&temporal_res=yearly 注: パーセンテージのラベルは、一人当たりの電力総増加量のうち、太陽光と風力が占める割合を示している。例:ベトナムでは61%

これまでのところ、ASEANの中でもインドネシアは例外であり続けている。同国の1人当たり電力供給量は極めて低く、伸びも緩やかなだけでなく、太陽光や風力による割合はわずか1%に過ぎない。しかし、再エネ発電の初期費用の急落と蓄電池の活用により、この状況は一変している。EMBERは、この状況を「全住民に固定電話を提供する場合と携帯電話を提供する場合のコストの違い」に例えている。
すべての世帯、特に送電網から数十~数百マイル離れた場所に住む人々や、インドネシアの1万7,000の島々のいずれかに住む人々全員にまで、物理的な送電線を敷設するには、莫大なコストがかかる。一方、国土全体に携帯電話の基地局を設置する方がはるかに低コストであるのと同様に、送電網から遠く離れた地域に、蓄電池を備えた地域密着型の太陽光や風力発電施設を建設する方が、コストを大幅に抑えられるのだ。
幸いなことに、ASEAN全体では、約20テラワットの太陽光・風力発電の潜在能力があり、これは現在の総発電容量の55倍に相当する。
東京:「今後数十年にわたり天然ガスを」
日本は、これまで、いかなる証拠(エビデンス)にも動じずに、化石燃料へのイデオロギー的な固執を示してきた。数年前まで、日本は開発途上国における石炭火力発電所の最大の資金提供者および建設業者の一つだった。国内外からの反対が過熱すると、日本は「石炭からガスへの転換」を後押しすることで、CO2排出削減という名目のもと、天然ガスへと切り替えた。
そして2023年、東京は驚くべき虚偽の宣伝として、「アジア・ゼロ・エミッション・コミュニティ(AZEC)」を設立した。AZECの発足から2025年半ばまでにASEAN諸国と締結された150件の覚書(MOU)のうち、35%が化石燃料技術を支援するものであったのに対し、風力や太陽光に明確に焦点を当てたものはわずか7%にとどまった。化石燃料発電所に数十億㌦から数百億㌦を投じれば、その国は数十年にわたりその燃料に縛られることになる。2025年10月に締結された新たなMOUでは、太陽光や風力に言及するものが増えたが、現時点で実際に実施されたMOUは1件のみであり、これが投資額にどのように反映されるかは不明である。
分かっていることは、2000年から2020年にかけて、日本がASEAN諸国の電力プロジェクトに投資した670億㌦のうち(その90%はインドネシア、タイ、ベトナム向け)、太陽光、風力、地熱、その他を含めて再エネ発電に充てられたのは、わずか4%に過ぎなかったということだ。全体の半数は化石燃料関連のプロジェクトで占められていた(下図参照)。出典:www.azectracker.org/#w-tabs-0-data-w-pane-0

2025年に30カ国のLNG生産国・消費国が参加した会議で、経済産業省の武藤容治大臣(当時)は次のように述べた。「われわれは、カーボンニュートラル達成後も、天然ガスとLNGが引き続き重要なエネルギー源であり続けると確信している。日本の天然ガスの排出量は少ない……そして、CCS(CO2回収・貯留)や水素を活用することで脱炭素化は可能だ」と述べた。同大臣は、LNGがCO2排出の主要な原因であるにもかかわらず、これを「クリーンな経済成長の原動力」と位置づけた。
そのため、AZECの覚書(MOU)の大部分は、CCSに加え、アンモニアや水素との混焼など、化石燃料の利用期間を延長することを目的とした措置への投資が占めている。しかし、「グリーン水素」は、混焼に使用される際、1メガワットを生成するために2メガワットの電力を消費する。アンモニアについても状況は同様だ。CCSのコストは再エネよりもはるかに高い。これこそが、私が言う「証拠に耳を貸さない」ということだ。
なぜだろうか?
日本がこうした化石燃料偏重の政策を推進しているのは、主に自国の重機メーカーや天然ガス企業の輸出と利益を拡大するためだと主張する人もいる。しかし、事態はそれほど単純ではない。国家と化石燃料業界と結びついた企業は、イデオロギー的な共同体を形成している。「持ちつ持たれつ」の形で、政府による化石燃料偏重の政策が企業の売上を伸ばすと同時に、経済産業省が国益とみなすものを追求する上でも役立つのだ。
例えば、IEEFAによる最近の報告書は、日本の海外化石燃料投資戦略が「化石燃料自主開発比率」、すなわち日本企業が所有する上流資産からの石油・ガスの輸入割合の引き上げに焦点を当てていると指摘している。日本は、この比率を2023年の37%から、2030年までに50%超、2040年までに60%に引き上げることを目指している。その結果、2013年から2023年にかけて、日本の公的金融機関は、2022年末までに化石燃料への融資を終了すると以前に公約していたにもかかわらず、海外の石油・ガスプロジェクトに930億㌦を投資した。2023年のG7会合では、日本政府は、石炭に代わるものとして、国内外の新規ガス火力発電所への投資を認めるよう合意を引き出した。
さらに、日本の政策立案者たちは、他国での太陽光発電の推進を後押しすることは中国の影響力を強めるだけだと主張している。経済産業省(METI)の元国際担当副大臣で、現在は同省傘下の日本エネルギー経済研究所(IEEJ)の理事長を務める寺澤達夫氏は2023年に次のように記している。
「脱炭素化に伴う太陽光、風力、バッテリー、BEV(バッテリー式電気自動車)の推進は、サプライチェーンにおける中国の支配力を強める…… 化石燃料の使用を止められるようになるまでには、数十年はかかるだろう」。こうした見通しの甘さと、中国による太陽光発電製品の低価格化に直面し、グローバルな太陽光発電用資材市場における日本のシェアは、2013年の約25%から、現在では1%未満にまで低下した。蓄電池分野におけるシェアも27%から5%に低下した。
私は、ホルムズ海峡の危機が、化石燃料に偏重した日本のエネルギー政策に、少なくとも何らかの重要な変化を引き起こすことを期待していた。だが、東京での関係者との話し合いをしてみたが、その希望は打ち砕かれた。再エネの拡大を支持する企業でさえ、これまでのところ控えめな姿勢を貫いている。いずれ現実が影響を及ぼすことを願うが、それにはかなり長い時間がかかるかもしれない。日本の官民に広がる「近視眼的」な傾向への懸念は深まるばかりだ。
https://richardkatz.substack.com/p/japan-unlikely-to-meet-2030-goal?utm_source=publication-search
(注)この記事は筆者Katz氏の「Japan’s “Make China Great Again” Energy Policy in Southeast Asia」のブログ記事を、筆者の了解を得て日本語に翻訳しました。翻訳の責任は環境金融研究機構にあります。
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リチャード・カッツ(RIchard Katz)
経済ジャーナリスト。カーネギーカウンシルのシニアフェロー。フォーリン・アフェアーズ、フィナンシャル・タイムズ等にも寄稿。東洋経済新報の特約記者も兼務。日米の経済政策等に詳しい。日本についての同氏のフリーブログは次を参照してください。https://richardkatz.substack.com/

































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