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論文:「東京株式市場におけるカーボンプレミアムについて」(五島圭一、八木厚樹)

2023-05-28 14:42:45

SAAJキャプチャ

 

 東京証券取引所上場企業の株式リターンと温室効果ガス(GHG)排出量の間に、「負のプレミアム」があるとの研究論文が、日本証券アナリスト協会の「2022年度証券アナリストジャーナル賞」に選ばれた。米国市場での既存文献では、排出量の多い企業は投資家からリスクプレミアムを要求されるほか、省エネ投資をすればエネルギー利用効率の改善が見込める等の要因で、株式のトータルリターンが高くなるとされる。これに対し、同論文の分析では、日本企業の場合、逆に負のプレミアムが生じるとの結果が示された。

 

 論文は、三菱UFJ銀行産業リサーチ&プロデューズ部調査役の五島圭一氏と、アセットマネジメントOneソリューション戦略運用グループ・クオンツ運用タントファンドマネジャーの八木厚樹氏の共同執筆による。

 

 日本企業のGHG排出量と株式トータルリターンの関係が、米国企業と逆に、負のプレミアム発生となる理由として、同論文は、日本企業は米企業に比べて相対的にGHG排出量が少ないほか、政策面でも地球温暖化対策税等による排出規制対策がなされていることが影響しているとみている。このため、「日本企業の移行リスクは相対的に低く見積もられている可能性がある」と評価している。

https://www.saa.or.jp/dc/sale/apps/journal/JournalShowDetail.do?goDownload=&itmNo=39192

 こうした評価は、日本企業による排出削減努力と、政策による削減効果、投資家の排出削減要請等の要因を、どうみるかによって変わってくると思われる。両氏には、たとえば、気候変動政策として企業に法的義務を負わせる排出権取引制度を展開し、企業の排出量削減意識も高いとされ、かつ投資家の削減要請が強いとされる欧州市場での株価と排出量の比較検証も、ぜひ、やってもらいたい。

 

 「2022年度証券アナリストジャーナル賞」には両氏の論文のほか、大阪大学大学院経済学研究科博士後期課程の岡田立子氏の「東証市場再編と経営者の利益調整行動」も受賞した。2022年に行われた東証市場再編に伴い、新規上場の利益水準を満たすための経営者の取り組みに、東証1部と2部以下の企業群では差があることを検証し、そうした行動の違いが、プライム市場の上場基準の相違によって導き出されたことを示している。

https://www.saa.or.jp/dc/sale/apps/journal/JournalShowDetail.do?goDownload=&itmNo=39308

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