【自著を語る】「私たちの電気代が支える偽りの気候変動解決策」~輸入木質バイオマス発電の終わりの始まり、を見据えて(泊みゆき+飯沼佐代子(編著))
2026-06-10 15:55:10
再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)により、バイオマス発電等の再エネ発電の利用は大きく拡大した。脱炭素社会に向かうにあたり、再エネ利用は今後さらに拡大させていく必要がある。だが、一部のメガソーラーのように問題が指摘されるものもあるが、バイオマス発電も大きな問題を抱えている。
FIT制度におけるバイオマス発電の最大の問題と考えられているのが、輸入バイオマスの持続可能性である。輸入バイオマスを主な燃料とする、再エネ固定価格買取制度(FIT)の一般木質バイオマス区分の新規稼働容量は全体の7割以上を占め、400万kWである。われわれ消費者が、こうした再エネ発電の買い取り資金として負担する賦課金の総額は、20年間で8兆円を超える*と推定される。
熱利用をしない木質バイオマス発電は、エネルギー効率が低い。気候変動対策効果はバイオマスの熱利用や他の再エネ電源より低い。バイオマス発電は、発電燃料を外部から購入するためコストが低下しにくく、FITのような助成制度がないと事業が成立しにくい。そもそもバイオマス発電は、木材の燃焼によるCO2排出量は石炭より多い。さらに天然林、特に原生林を伐採した木材を燃料とする場合、森林土壌に蓄積されていた大量の温室効果ガス(GHG)が排出するので、気候変動対策に逆行する。併せて、森林破壊による生物多様性の喪失や社会的問題を生じさせている。
こうした形で、「バイオマス発電の終わりの始まり」が明確に姿を現し始めている。EUは、2023年に再エネ指令(RED)Ⅲで森林由来のバイオマスを燃料とするバイオマス発電に原則、財政支援を行わないことを決定した。日本と並んで輸入燃料によるバイオマス発電を推進してきた韓国も2024年、バイオマス発電への補助金を段階的に廃止すると発表した。
日本でも、2026年度より1万kW以上の輸入バイオマスを主な燃料とする一般木質バイオマス発電は、FIT/FIPの新規認定から外すことが決定された。
バイオマス燃料の価格は国産・輸入ともに10年前の1.5~2倍と高止まりしている。そのうえ、同燃料の安定的な入手がしにくくなっているため、稼働を停止するバイオマス発電所が続出している。それに加えて近年、木質ペレットの受け入れ・搬送・貯蔵施設等での爆発・火災事故が多発し、社会問題化している。
事故の原因究明や事故を防ぐ対策のために、発電所を長期間にわたって使用停止にしたり、追加の対策費の負担等が、発電事業者にのしかかっている。発電事業者が真に気候変動対策やSDGsを追求するのであれば、経済・環境・社会的に問題の多い大型専焼木質バイオマス発電からの撤退を検討するタイミングなのではないかと考えられる。
石炭火力発電でのバイオマス混焼にも大きな懸念がある。再エネ電力100%を目指すイニシアティブ「RE100」は、石炭バイオマス混焼を再エネ電力の分類から外した。混焼は結果的に石炭火力発電を延命させるため、気候変動対策への影響が大きいためだ。爆発・火災事故を起こした愛知県知多郡の武豊石炭火力発電所のように、電力のCO2排出係数を下げるために無理にバイオマス混焼を行うのではなく、電力の高需要期のみ稼働させることで、CO2係数を下げることも一案である。
人類にとってバイオマスは、最も古くから、最も多く使われている非化石エネルギーであり、脱炭素化社会において非常に重要な資源であることは言うまでもない。だが、生物多様性に富んだ貴重な天然林をバイオマス発電の燃料目的で伐採し、丸太をそのまま燃料にするような「悪いバイオマス」の利用は、むしろ気候変動や持続可能な社会に悪影響を及ぼす。
バイオマスのカスケード(段階的)利用が叫ばれるが、その最上位は、「自然生態系としての森林」であり、次には長期間の利用に耐える木質建築材・家具材であることに注意する必要がある。
一方、地域の廃棄物・未利用バイオマスを発電ではなく、熱利用中心に使うことは、地域経済への恩恵、資源の有効活用になる。これは、日本列島に暮らす人びとが数千年にわたって行ってきた営みである。気候変動対策として有効かどうかは、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)やGHGプロトコルのルール、あるいは実際の森林生態系の炭素蓄積を科学的に算定しながら考えていく必要があるだろう。
もちろん、持続的な森林利用計画のもとで伐出される木材は、鉄鋼やアルミニウムなどに比べてGHG排出や環境負荷の低い原料である。また、建材や家具、紙や素材として使われた後、あるいはそれらに向かない樹皮や端材などを焼却してエネルギー利用することは経済的にも社会的にも理にかなうであろう。すべて燃焼させずに、バイオ炭として土壌還元し、マイナスカーボンとする選択肢もある。
NPO法人バイオマス産業社会ネットワークは、1999年の設立以来、バイオマスの持続可能な利用推進のために活動してきた。2016年頃より、一般社団法人地球・人間環境フォーラム、熱帯林行動ネットワーク、ウータン・森と生活を考える会、マイティ・アース、「環境・持続社会」研究センターなどの他の環境団体とともに、パーム油や木質ペレットを燃料とするバイオマス発電に関わる持続可能性の問題に取り組んできた。このたび共同で「私たちの電気代が支える偽りの気候変動解決策~輸入木質バイオマス発電をめぐって~」を執筆し、築地書館より出版された。
同書の概要をお伝えしよう。第1章では、FIT制度による大型輸入バイオマス発電の事例など、概況について説明している。第2章では、バイオマスは燃焼によって石炭以上のGHG排出があるのに、なぜ「カーボンニュートラル」としてこれまで扱われてきたのかについて説明している。
第3章では、輸入木質バイオマス発電の燃料生産地の課題について、ベトナムの認証偽装と超短期伐採の問題、カナダの原生林伐採、米国によるペレット生産の大気汚染、深刻な懸念、インドネシアの熱帯林伐採などを解説している。
第4章では、木質ペレットなどバイオマス燃料の持続可能性の確認方法について解説している。FIT制度では、開始から5年たった2017年から「事業計画策定ガイドライン」が策定され、毎年改定されているが、この政府の対応では、「問題が起きてからの対応と言わざるを得ず、後手後手に回っていることは否めない。パーム油など「農作物の収穫に伴うバイオマス」については、詳細な持続可能性基準が策定されたが、木質バイオマスについては、事実上、合法性の確認に留まってきたのが現状である。
第5章では、海外の状況として、EUが再エネ指令(RED)Ⅲにおいて、森林バイオマスの発電に対して原則助成を行わないことを決定したことや、韓国のバイオマス発電への政策転換、また、バイオマス発電由来CO2の分離・回収・貯留(BECCS)の問題点について取り上げた。
第6章では、木質バイオマス発電のCO2排出量の算定として、IPCCやGHGプロトコルにおけるバイオマス発電由来CO2がどう見なされているかについて解説している。大まかには、年ごとの森林吸収とバイオマス燃焼を別々に計上する「インベントリ」と、燃焼するバイオマスがかつて大気中の炭素を木材に固定化したと見なす「ライフサイクル」の二つの見方があるが、いずれも現在、経済産業省が主張する「バイオマス燃焼によるCO2はカーボンニュートラル」とは齟齬があることが説明されている。
第7章では、近年、多発している木質ペレットの輸送や保管等に関わる爆発・火災事故について解説する。
第8章では、今後の木質バイオマス利用として、産業用熱利用を中心とする中高温からのカスケード利用について提案している。
本書が、月々、家庭や事業所が支払う賦課金によって支えられている現状のような「誤ったバイオマス利用」となっていることを正して、「良いバイオマス利用」として今後のバイオマス利用が進むことに向けた一石となれば、真に幸いである。
(泊みゆき)
////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////
書名:「私たちの電気代が支える偽りの気候変動解決策~輸入木質バイオマス発電をめぐって~」
編著:泊みゆき・飯沼佐代子
出版社:築地書館
定価:2000円(+税)
泊みゆき:NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク理事長
飯沼佐代子:地球・人間環境フォーラム
※400万kW×24時間×300日(年間稼働日数)×(24円/kWh-10円/kWh*)×20年≒8兆円 *[回避可能費用]通常の電力コスト

































Research Institute for Environmental Finance