日本政府がトランプ政権に約束した「5500億㌦(約80兆円)」の対米投資第一弾案件(テキサス州での原油ターミナル事業)。米連邦控訴裁判所が事業許可の取り消し・差し戻し判決(RIEF)
2026-08-16 22:21:11
(写真は、テキサス州ニューオーリンズにある第5巡回控訴裁判所の法廷内)
日本政府がトランプ政権に対して約束した5,500億米㌦(約80兆円)規模の対米投融資の第1弾に含まれるテキサス州・ガルフリンク深海原油ターミナル事業について、米連邦第5巡回控訴裁判所(ニューオーリンズ)は12日、同事業に対する米運輸省・同海事局(MARAD:U.S. Maritime Administration)のライセンス交付決定が違法との判断を示し、事業許可の取り消し、差し戻しを命じる判決を出した。同事業には米政府の認可判断を前提として、日本の国際協力銀行(JBIC:財務省全株式保有 )と日本貿易保険(NEXI:経済産業省全額出資 )が今年4月に融資・付保を決定している。このため、両機関の審査・判断の妥当性も問われそうだ。
同ターミナル事業の建設予定地の同州ブラゾリア郡の市民団体である「クリーンエア・クリーンウォーター市民団体(ベターブラゾリア)」が、米政府の事業決定は米深海港法(Deepwater Port Act : DWPA)に違反しているとして訴えていた。控訴裁は市民団体の主張に軍配を上げたことになる。
DWPAは1973年の石油危機を背景に、大型タンカーが接岸できる人工施設を公海上に建設・運営するための法整備として1974年12月に成立(1975年1月署名・発効)した。環境保護と海上交通の安全確保、迅速なライセンス審査を法施行の目的としている。同法では、一つの申請区域内で承認されうる深海港は1つのみと定めている。
ところが、今回のターミナル建設の対象となったガルフリンク事業の申請区では、すでに別の深海港のターミナル事業が承認されている。そこで米運輸省とMARADは、テキサス・ガルフリンクの申請区域から沖合パイプライン区域を除外する形での申請を事業者らに求め、申請を許可したとされる。
しかし、判決は、「法律に基づけば、沖合パイプラインは『深海港』の一部であり、政府が法律に基づいて申請区域を指定する際には、これを含めなければならない」と指摘。パイプライン区域を除外した政府の事業承認判断は、市民団体が指摘するように「違法」との判断を示した。
同判断に際して、裁判所は「この誤り(パイプラインの除外)が許認可プロセスの初期段階で発生し、基本的な手続き上の要件に影響を及ぼした」と認定、行政判断を誤りとした点も、事業者側にとって大きな痛手だ。司法としては、トランプ政権とあえて対立せず、単に行政に認可の差し戻し審理を求めることもできたはずだ。だが、そうではなく、その前段として行政側の判断の取り消しを求めたうえでの差し戻しとすることで、「政府の判断の『誤り』」を明確に示したことになる。
その点について判決は「違法な行政処分を取り消す際、『取り消しが適切な救済措置である』ことが原則」という法理を過去の判例を引用して指摘した。そして、「裁判所が同原則から逸脱するのは『2つの条件』を満たす稀な事例に限られる」とした。それらは、第一に、差し戻しにより当該機関が規則の欠陥を是正できる「相当な可能性」が存在するかどうか。第二に、争われている措置を取り消すことが『混乱を招く結果』をもたらす場合」とした。今回はいずれの条件にも該当しないとの判断を示したことになる。
争点となった事業は、日米政府が2025年9月に合意した戦略的投資に関する了解覚書での「戦略的投資イニシアティブ」による第一弾に含まれた3つの個別プロジェクトのうちの一つ。工業用の原油輸送積出インフラプロジェクトに対して、国際協力銀行(JBIC)が主導する形で日本の官民が投資資金をファイナンスする内容だ。総事業費21.3億㌦のうち、3分の1をJBICが自ら設立した米子会社(JI2)を通じて事業主体に融資し、残りの3分の2は三菱UFJ銀行などの3メガバンクの協調融資とする。メガバンクの融資については、日本貿易保険(NEXI)が保険を付与する。
しかし、今回の判決により、同事業は改めて米政府による認可と事業者の申請手続きを繰り返す必要が生じるため、事業の開始が当初より遅れる可能性が高い。手続きの遅延によって、現在、2年間と想定しているターミナルの建設期間も遅れ、稼働開始もさらにずれ込む公算がある。そうなると、事業費の増加も避けられない。
事業開始の遅延と費用増加が発生した場合、日本政府は新たな公的資金の追加供給を求められる可能性が出てくる。事業に参加する日本の民間銀行の間でも、同事業の採算性については、判決が出る前から疑問視する声があがっていたとされる。民間のリスク評価では、同事業については、キャッシュフローの不足により返済原資が不足する可能性が高いとの指摘も出ていた。
米原油生産の先行きについては、米エネルギー情報局(EIA)も懸念を示す予測を立てている。米国の原油生産量が22027年には、021年以来初めて減少に転じる(2027年に前年比約2%減)と推計しているのだ。原油生産量が減少すると、米国が輸出に回せる余力は当然、縮小することから、そもそも今回の事業自体が必要ないことになる。
この点で、環境NGOのFoE Japanは「同事業が融資を返済できるほどの稼働率で稼動できるのか甚だ疑問。今回の判決は、すでに採算性が疑問視されている事業に、さらに追い打ちを加えるものであり、同事業に融資決定を下したJBICや付保決定をしたNEXIがさらなる負担を強いられ、結果的に国民がその負担を賄うシナリオがさらに現実味を増す」と指摘している。
JBICは控訴裁判決に先立つ形で、7月16日に同事業へのJBIC融資分を当初の1億400万㌦から32%増やして1億3,800万米㌦へ増額したことを発表しており、NEXIも同日に、付保対象融資額を増額したとみられる。こうした財政負担の増大に加えて、対米投融資の増大は、円安加速の影響も懸念される。FoE Japanは「今回の80兆円規模の投融資は大半がドル建てで実行されるため、その分大量のドルを購入する必要がある。大規模な円売りドル買いは、それ自体が新たな円安圧力となって家計を圧迫する」としている。
米国の今回の事業対応は、判決が指摘するまでもなく、既存の法律に明記されている条件を無視する形で提起されており、米側の「杜撰な案件選定」に原因があることは明白だ。しかし、そうした内容であるにもかかわらず、日本の官民が、今回の判決で指摘されるまで、事業継続のスタンスを崩さずにきた点も「お粗末」としか言いようがない。
同事業にファイナンスを供給するメガバンク等の民間銀行にとっても、「政治に巻き込まれたファイナンス」としか、言いようのない状況にあるようだ。メディアの報道によると、あるメガバンクは、第1弾にリスト化された3プロジェクトのリスク分析を行った結果、いずれもキャッシュフローが不足するリスクが高いとの結論になったという。各案件とも事業収益が計画を下回るリスクが散見されることに加え、利益配分をめぐる日米間の枠組みに日本側が不利となる条項が組み込まれているという。
その条項は、今回のプロジェクトのファイナンスの仕組みに盛り込まれているとされる。これらの事業に必要な資金は日本側が全額負担する一方、プロジェクトから生じた利益は、日本側が元利返済相当分を確保するまでは、日米に50%ずつ分配される。その後はアメリカ側に利益の9割が分配されるという。この条項を当てはめると、日本側は、融資した金額に見合うだけのキャッシュフローを十分に確保しづらい。そのうえ事業収益が想定を下回れば、日本に帰属する配当原資は一段と細くなり、融資回収の安定性に大きな不安を抱えていることになる。
さらに米エネルギー情報局(EIA)は米国の原油生産量が2021年以来初めて減少に転じる(2027年に前年比約2%減)と予測しており、米国が輸出に回せる余力は縮小する見通しである。つまり、輸出に回せる余力がなければ、そもそもテキサス・ガルフリンク事業は必要ない、ということになる。
https://law.justia.com/cases/federal/appellate-courts/ca5/23-60027/23-60027-2024-04-04.html
https://www.ca5.uscourts.gov/opinions/pub/25/25-60202-CV0.pdf
https://toyokeizai.net/articles/-/940641?page=2
https://foejapan.org/issue/20260814/31221/

































Research Institute for Environmental Finance