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9人乗りの商業用電気航空機、初のデモ飛行に成功。米国のスタートアップ企業が開発。既存の飛行機をエンジンだけ電動に切り替える「リフォーム」方式(RIEF)

2020-06-02 08:13:49

 電気で駆動する初の9人乗り航空機が先週、デモ飛行に成功した。米国のスタートアップ会社のMagniXが開発したもので、米ワシントン州のモーゼス湖上空を30分間飛行した。小型電動航空機の開発は世界のベンチャー企業から大手航空機会社までが取り組んでいるが、9人乗りという「大型」化の成功は初めて。

 フライトに成功したのは、米シアトルに拠点を置くMagniX社が航空機用に開発した電動エンジンを搭載したセスナ「208B Grand Caravan」。航空機の本体へのエンジン搭載は、同じくシアトルのAeroTEC社が手掛けた。Magnix社は2021年末にも商業化したいと意気込んでいる。

初飛行に成功した9人乗り電動飛行機
初飛行に成功した9人乗り電動航空機

 テスト機と追跡用の航空機が予定通りの30分のフライトを終えた。昨年12月には、シアトルのシャトル航空会社のHarbour Airと共同で、小規模の水上機タイプの電気航空機を15分間フライトさせており、それに続く成功となった。9人乗りだが、テストフライトなのでパイロット一人が搭乗した。

 今回のデモ飛行に成功した「Grand Caravan」の飛行可能速度は時速214マイル(約340km)。テストでは 時速114マイル(183km)で飛んだ。同機のエンジンは、電動バッテリーエンジンのMagni250。350馬力で、回転数(RPM)は3000回転。この電動バッテリーでプロペラを回すターボプロップ飛行となった。

 同機の想定航続距離は、100マイル(約160km)。ちょっと飛行機の航続距離にすると短い。MagnixのCEO, Roei Ganzarski氏は「航続距離は1000マイル(1600km)以内として、バッテリーは15年持つようにしたい。ただ、現在のバッテリー密度は我々の期待までには至っていない。電動バッテリーには多くの未開発の可能性が秘められており、まずは100マイルの『ウルトラ短距離』からスタートし、徐々に距離を広げていきたい」と説明している。

心臓部の電動エンジン
心臓部の電動エンジン

 新型航空機の開発から実用化までには、多くの試験データの蓄積等を踏まえて航空当局からの認証を得る必要がある。その分、実用化までに時間がかかる。そこで、MagniXでは既存の承認済の航空機のエンジンをジェットエンジンから電動エンジンに切り替えることで、認証プロセスを簡略化できる「リフォーム」方式とした。今回の航空機も既存のターボプロップ機を活用して初フライトに臨んでおり、昨年12月の水上機フライトも同様だ。

 航続距離を延ばしにくいのは、スピードが限定された超小型機のため、従来の大型航空機のように、空中で滑空して航続距離を稼ぐという手法をとりにくいことも影響するとしている。

 MagniX社は2009年の設立。大手航空会社のスタッフのほか、テスラ等の技術者たちを集めてチームを編成。開発に取り組んできた。電動航空機の特徴は、飛行に伴うCO2排出量がゼロになる点が最大だが、同時に運行コストも通常のジェット機に比べて半分以下で済むという。

既存の飛行機のエンジンだけ電動に入れ替える
既存の航空機のエンジンだけ電動化する(昨年12月の水上機モデルの試行フライト)

 現在のジェット航空機は飛行に伴って膨大なCO2を排出する。環境活動家のグレタ・ツゥンベリさんが移動に伴って航空機を利用して温暖化加速に手を貸すことを嫌い、米国訪問でもヨットで往復するなどの「飛行機嫌い」を実践したことから、電動航空機への関心が高まっている。

  電動航空機開発は同社以外でも、世界中で取り組みが進んでいる。米カリフォルニアのAmpaire社、ワシントン州のZunum Aero社、ドイツのLilium等が電動航空機あるいはハイブリッド型機の開発を進めている。http://rief-jp.org/ct12/72568

https://www.magnix.aero/our-story/