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インド・パキスタンまで拡大するサバクトビバッタの大群を捕まえて、養鶏の飼料にする実験。パキスタンで手応え。「Pest(害虫)をprotein(タンパク質)に」プロジェクト。意外にいいかも(RIEF)

2020-06-16 20:27:35

locust004キャプチャ

 

 サバクトビバッタの大群がパキスタン・インドにまで拡大し、世界中の懸念が高まっている。そのパキスタンで、大量のバッタを捕まえ、養鶏の飼料として利用する試みが行われている。バッタにしてやられているだけではなく、バッタを餌として利用、食糧危機克服に役立てようというたくましい計画だ。有害な殺虫剤の使用も減らすことができる。「Pest(害虫)をProtein(タンパク質)に」作戦の展望はーー。


 (写真は、バッタの大群と遊んでいるのではない。捕まえて「売る」のだ)

 

 昨年後半に東アフリカから始まった今回の大量のサバクトビバッタの襲来は、今や、インド洋を越えて中東、インド・パキスタンにまで広がっている。各地では、無数のバッタが波のように幾重にも襲来、周辺の穀物や草木等を食べ尽くす。その勢いに、散布する殺虫剤の威力も限定的で、各地で人々はお手上げ状態に陥っている。

 

 中国等では、蝗害(こうがい)と呼んできたこうしたバッタの大群を、飼料として役立てるプロジェクトが、パキスタン食糧安全保障・研究省のムハンマド・クルシード(Muhammad Khurshid)氏と生物工学学者のジョハール・アリ(Johar Ali)氏の指導によって2月から始められている。2人は昨年、紛争で荒廃したイエメンで、住民の飢餓対策として、たんぱく質の豊富なバッタを食べる取り組みが実施されたことを視察、ヒントを得たという。

 

網で「一網打尽」にする
網で「一網打尽」にする

 

 実験では村人たちにバッタを捕まえてもらい、それを当局が買い取る。工場で乾燥させて粉末状にし、鶏用の飼料に混ぜる手順だ。ただ、バッタを退治するために投入される殺虫剤が混じっていると、飼料に適さなくなる。最初の実験は、幸運にも(?)殺虫剤散布が間に合わなかったパンジャブ州オカラ(Okara)地域で行った。


 バッタは日中は大量に空中を飛び回る。だが、夜になると木や食物に群れを作って休む。日が昇るまでの涼しいうちは動かないので、その間に捕まえる。捕まえたバッタ1kg当たり20パキスタン・ルピー(約13円)が支払われるため、地域の住民らは懸命になって夜通し中、バッタを採集した。「Catch locusts. Earn money. Save crops(バッタを捕まえ、金を稼ぎ、穀物を守る)」が合言葉だ。

 

 集められたバッタは、同国飼料生産最大手ハイテク・フィーズ(Hi-Tech Feeds)社に送られる。同社が養鶏飼料に使わっている大豆の10%分を、乾燥バッタで代用する手順だ。同社の担当者は「殺虫剤無しのバッタを原料にすれば、魚の餌にも、牛などの餌にも活用できる」としている。

 

一袋ルピー
1kg当たり20ルピー

 

 ただ、最初の実験では20㌧集まった時点で当局の予算が尽き、一時中止された。食糧安全保障・研究省はこのほど、実証実験の成果を踏まえ、他の地域でも実験を広げる準備を進めている。パキスタンのイムラン・カーン(Imran Khan)首相もバッタの飼料化計画を後押しする構えという。

 

 現在、パキスタンでは15億羽の鶏が育てられているほか、無数の魚類養殖所がある。ハイテクフィーズ社は年間、30万㌧の大豆を輸入し、油を搾り取った大豆殻を家畜の餌に利用している。成分としては大豆のプロティン45%に対し、バッタは70%と高たんぱく。価格も大豆は1kg当たり90ルピー(約58円)だが、バッタは無料。捕獲費用だけ。飼料化までの総費用でも同30ルピーほどで、大豆の3分の1で済む。

 
 もっとも、バッタの大群は、人に捕まえられる分をはるかに上回って飛び回り、増殖を続けている。このため、パキスタンでの試みがバッタ被害を減少させるまでにはまだまだいかない。しかし、バッタ被害と新型コロナウイルス感染の広がりで生計が成り立たなくなっている農家にとって、新たな現金収入となる。

 

パキスタンからインドへと展開するバッタの群れ
パキスタンからインドへと展開するバッタの群れ

 

 バッタの大量発生は、温暖化の影響で昨年、アフリカを襲った豪雨が自然界のバランスを超えた大量のバッタ発生につながったとされる。自然の循環を上回る気候変動の激化による。バッタを鶏に食べさせる試みは、いったん崩れた循環の輪を、何とか再生することでもある。

 

 各地で試みられている殺虫剤散布は、バッタの数があまりに多いので、それほどの抑制効果をあげていない。しかし、人体や他の生物への有害効果は無視できない。有害で効果の限られる殺虫剤を大量散布するより、国際社会をあげて、この「パキスタン方式」で、バッタ捕獲と、タンパク質化を推進してはどうか。(RIEF)

 

https://www.thethirdpole.net/2020/05/28/huge-swarms-of-locusts-could-be-fed-to-chickens/