第11回サステナブルファイナンス大賞インタビュー⑰サステナブルボンド賞:三重県「全国初となるグリーンボンドの通常債とテーマ債(水害レジリエンス債)の同時発行」(RIEF)
2026-04-12 01:29:04
(写真は、㊧から、授賞式で表彰状を受け取る三重県総務部財政課課長補佐兼企画・債権管理班長の永井崇郁氏、同財政課長の古川健氏、審査員でFINEV代表取締役の光成美樹氏、同、環境金融研究機構代表理事の藤井良広の順)
三重県は、2025年度に発行総額90億円のグリーンボンドの中に「水害レジリエンス枠(20億円)」を設け、全国初となるグリーンボンドの通常債とテーマ債の同時発行を実現したことで、第11回サステナブルファイナンス大賞のサステナブルボンド賞に選定されました。グリーンボンド内に別枠を設定するという工夫で小規模な地方公共団体でも独自のテーマ債を発行できることを証明したことで、他の地方公共団体のモデルになったといえます。三重県総務部財政課企画・債権管理班の永井崇郁(ながい・たかふみ)課長補佐兼班長に聞きました。
――環境問題に対する三重県の取り組みの特徴を教えてください。
永井氏 : 三重県は環境への関心が高い県だと考えています。その意識を最も体現しているのが伊勢神宮です。常に若くみずみずしい姿を保ち続ける「常若(とこわか)」という考え方があります。日本的な感性が育んだサスティナビリティの現れのような考え方で、その代表である20年ごとにお宮を新しくする式年遷宮(しきねんせんぐう)は、次回(2033年)が63回目で約1300年の歴史がありますが、その際に出る伊勢神宮で使い終わったヒノキは全国のお宮に配られます。リサイクルの考え方が受け継がれているのです。
また、古来、伊勢神宮にお供えとして捧げる魚介類を確保するため素潜り漁を行ってきた海女は、アワビや伊勢エビを全部獲りません。必要な分だけを獲って小さいものは残します。資源を獲り尽くすことなく、海の環境を守りながら漁をします。また、伊勢志摩国立公園の広大な森林から河川を通じて流れ出たミネラルが豊富な海の幸につながっていることを、私たちは生活の中で知っています。
――地域にサステナブルの考え方が刷り込まれているのですね。
永井氏 : 一方、昭和30年代に四日市市に日本初の大規模石油化学コンビナートができ、発展の過程で大気汚染や水質汚染の公害問題が発生しました。これを機に県行政は環境問題に一層積極的に取り組むことになります。2002年には全国に先駆けて、産業廃棄物を処分場に搬入する事業者に搬入量1㌧当たり1000円を課税する産業廃棄物税条例を設けたことがその代表です。事業者に税負担を課すことで廃棄物の減量やリサイクルを経済的に誘導します。税収は基金に積み立て、継続的に取り崩して違法投棄の監視や指導の強化などに活用しています。

永井氏
2019年12月には2050年までの県域からの温室効果ガス(GHG)排出実質ゼロを目指した取り組みを始めました。自動車の電気自動車(EV)化が進んでも県内の自動車関連企業が競争力を維持・向上できるよう、次世代自動車に関するサーキュラーエコノミーの観点を踏まえた技術的解説を行う講習会や業態転換に向けた伴奏支援を行っています。電動自動車部品の分解展示を行い、企業の皆さんの「これなら作れる、挑戦できる」という部品製作や技術の研究を後押ししています。また、石油化学コンビナートのカーボンニュートラル化に向けて、水素やアンモニアの供給体制構築の検討を行うとともに、環境問題への対応で産業構造転換が起きても、企業が成長できるよう、検討会や情報共有会を開き、事業者が専門家のアドバイスを得られる仕組みも構築しています。
――先進かつ積極的な取り組みですが、そのための資金調達はどうしていますか。
永井氏 : 三重県は2021年に、2030年度におけるCO2排出量を2013年度比30%削減(2023年に47%削減に改訂)するという目標を掲げる「三重県地球温暖化対策総合計画」を作成し、GHG排出量を削減する「気候変動の緩和」と、気候変動の影響を軽減する「気候変動の適応」を車の両輪として取り組んでいます。これに合わせて2022年3月、東海地方初のグリーンボンドを50億円発行しました。同年10月の第2回発行ではグリーニアム(グリーン性のプレミアム)が地方債で初めて付きました。なお、この第2回分では、脱炭素社会の実現に向けた県民の機運の醸成を図るため、発行総額70億円のうち5億円を個人向け債として発行しました。それ以降、継続して発行しています。発行額の70%を一般事業会社、宗教法人、個人事業主など「諸法人」が占めるといった特色があります。こうした実績から、グリーンボンドの発行を通じて地域レベルで地球温暖化問題を解決しようとする機運が醸成されていると思っています。
――今回、初めて適応策向けの発行となりました。その背景や理由を教えてください。
永井氏 : 地方債は、地方財政法により原則、公共施設の整備事業などのハード事業の財源にしか充当できないという制限があります。先ほど、地球温暖化に対し、緩和策と適応策を車の両輪にして対策を進めていると言いましたが、GHG排出削減に関する緩和策は、企業や生活者への省エネ支援、高温に強い農作物の品種改良など地方債を活用できないソフト事業が多い一方で、水害対策など気候変動への適応策は、強靱化事業などハード事業が多くなります。結果として、地方債で資金を充当できるハード事業は、緩和策と適応策で2対8となり、適応策のほうが多くなります。実は地方債に合っているのは適応策のほうなのです。
また、三重県では、過去に伊勢湾台風や紀伊半島大水害といった大きな水害がありましたので、投資家IRでは、これまでも気候変動によって発生する水害から県民の命を守るインフラ強靱化事業である適応策にグリーンボンドで集めた資金を活用することの重要性を説明してきました。ただし、投資家は緩和策であるCO2削減の取組に着目します。特に県外の投資家は三重県の水害対策に直接的なメリットがないためか適応策に関する関心が薄く、適応策の重要性をもっと分かりやすい形で説明できるようにしたいと考えていました。そうしたところ、東京海上日動火災保険から「レジリエンス」(防災、減災、復旧早期化)というテーマで債券を引き受けたいという提案がありました。われわれのニーズと一致しており、特に、河川、ダム、海岸保全施設の強靭化に注目をいただいたことで、両者間で投資対象事業の調整を始めました。
――発行に向けた投資家との調整はスムーズに行ったのですか。
永井氏 : 地方債のグリーンボンドの利率は基本的に横並びですが、投資家に適応事業の価値を評価していただければ、利率の引き下げは可能なのではないかと考えていました。結果は、地方債グリーンボンド10年債の利率は一般の地方債より0.01%のグリーニアムが付くのが通常ですが、水害レジリエンス債はそこからさらに0.01%引き下げてもらえました。一般の地方債であれば1.754%の利率となるところを1.734%で発行できました。

――投資家からはどのような要望がありましたか。
永井氏 : 対象事業が被害をどのくらい軽減するのか、その額がきちんとわかるようにして欲しいとの話がありました。本県の県土整備部が事業評価で行う費用対効果の分析(B by C (総便益を総費用で割ったもの))の際に「被害軽減期待」(例えば何十年に1度の大きな災害による被災からどの程度の資産等(家屋や事業資産、農家資産、農作物等)を守れるか)を算出していたので、これを投資家に示しました。
――通常のグリーンボンドとテーマ債の水害レジリエンス債の同時発行という新しい形態での発行は難しくなかったですか。
永井氏 : 三重県の市場公募債の発行規模は年間190億円と大きくありません。グリーンボンドを10月に90億円発行し、一般の市場公募債を3月に100億円ほど発行します。担当者は私を含めて3人なので、レジリエンス債をグリーンボンドとは別に単独発行するのは、事務的な負担が大きくなります。そのため、グリーンボンドの中に「水害レジリエンス債」というテーマ枠を設けて同時発行することでコストを削減しました。地方債市場では毎年1000億円以上発行する財政規模の大きな団体と、われわれのように年に1~2回、200億円程度しか発行しない団体に分かれます。今回の取組で、後者の団体がテーマ債を柔軟に発行できる方法を提案できたと思い、「三重県方式」と名付けさせていただきました。
――枠の設定による同時発行は小規模地方公共団体でもスムーズにテーマ債を出すための工夫だったのですね。評判はどうでしたか。
永井氏 : 昨年10月に東京で行われた地方債合同IRでは、三重県ブースに他の自治体の方々が来て、同様の方法でしかも適応策に焦点を当てて取り組んでみたいと言っていただきました。枠を設けてテーマ債の形にすれば、投資家も投資の意義をPRしやすくなりますので、需要が見込めると思います。ESG債市場の活性化に少し貢献できたのではないかと思っています。
――次のステップに向けて、どのような構想を持っていますか。
永井氏 : 引き続き、水害対策も含め、適応策に焦点を当てた債券を発行していきたいと思っています。特に三重県は南海トラフ地震の被害想定地域に含まれることから、防災・減災の一層の充実が必要です。そうした部分に投資家が価値を見出していただけるなら取り組んでみたいと考えています。緩和策についても投資家需要に応えられるよう事業を充実していきたいと考えています。
(聞き手は、宮﨑知己)

































Research Institute for Environmental Finance