ヒマラヤで起きた大規模な氷雪崩と土石混流による被害。人類の経済活動由来の気候変動の影響が主因。排出削減への取り組みの遅れが犠牲者を増やす。早期警報と排出削減の強化を(RIEF)
2026-08-29 01:25:28
ネパールと中国の国境地帯に広がるヒマラヤ山系で26日に発生した、突発的かつ大規模な洪水と土石流によるネパール側の死者数は469人になった。中国側の死者3人と合わせ470人を超え、両国の行方不明者数は1300人を超える惨事となった。災害規模の大きさの一方で、その原因については、人間の経済活動に由来するCO2等の温室効果ガス(GHG)排出量の増加が止まらず、地球温暖化による気温上昇が氷河を融解させ、その際に氷河と岩盤が共鳴するように崩落して地震波が発生。川に流れ込んだ大量の土石流が川を一時的に堰き止め、その後に一気に激流となって下流地域を襲ったとみられている。人類のCO2排出量増大による気温上昇が、大規模な「気候災害」という形で、人類に跳ね返ったケースといえる。
各紙やメディアの情報によると、気候科学者たちは、今回の大規模なヒマラヤ山系での土石流の発生について、氷河の下にある岩盤が崩れたことで、氷河の大部分が剥離・崩壊してレンデ・コラ(Lhende Khola)川が塞がれ、その結果、川の水が下流へと激流となって流れ込んだ、との見方でほぼ一致している。Bloomberg Greenによると、ヒマラヤの氷河災害を研究するチューリッヒ大学の研究員、サイモン・アレン(Simon Allen)氏は「われわれが確実に確認できたのは、大規模な氷雪雪崩――おそらく氷と岩が混ざったもの――が発生し、それが氷河とその下の岩盤を剥離して流動状となり、壊滅的な洪水へと変化した」と指摘している。

地震波や衛星データ、および事故の映像に基づく初期の評価によると、氷河の下にある岩盤が崩れた後、氷河が非常に広範囲にわたって剥離して崩落したことが示唆されている。米国地質調査所(USGS)によると、氷河と岩盤の剥離・崩落によってマグニチュード5.2に相当する地震波が発生した。この衝撃で、氷河の氷雪や落石がレンデ・コラ川を塞いだことで、水量が急速に増え、瞬く間に氷河湖を形成した。この氷雪で急増された湖だが、次々と流れ込む水量の増大を支えきれなくなり、最終的に決壊して、一気に下流へと溢れ出したとみられる。
中国メディアによると、中国側の現場付近では2025年7月、氷河湖決壊が立て続けに2度発生していた。土石流を引き起こし、行方不明者が出たり橋が壊れたりしたという。ただ、国営中央テレビによると、中国自然資源省の専門家は今回の土石流について、分析の結果、ネパール側の高所で「氷雪崩」が発生したことが原因だと指摘。同雪崩が、堆積物などを巻き込んで土石流になったとし、原因は氷河湖決壊ではないと述べている。氷雪崩がいったん川を堰き止めて、氷河湖を作った上で激流化したか、氷雪崩が氷河と岩盤を剥離・流動化して土石流に転じたのか。

カナダ・カルガリー大学の地形学者で准教授のダン・シュガー(Daniel Shuger)氏は「標高約5,200mの地点にある氷河の末端が崩落し、谷底へと急勾配で流れ下り始めた。その過程で氷が溶け、土砂が堆積した」と指摘している。「大量の岩石が長距離にわたって落下すると、多量の熱が発生し、それが大量の氷を溶かして、岩石と氷が混じった土石流を引き起こすことになる。あの恐ろしい映像に見られる水の一部は、この現象で説明できるかもしれない」と述べている。岩石の長距離崩落によって摩擦熱が発生し、周辺の氷河の氷を溶かして、より大規模な氷雪土石流を生み出したとの見立てだ。
英Guardianによると、衛星画像を基に約0・2㎢の氷塊が崩落したとする地形学者の分析を伝えた。こうした崩落により発生した大規模な土石流が川を堰き止め、その後に決壊した可能性がある。ネパールは山岳地帯であることに加え、氷河が急速に融解しているため、鉄砲水に対して特に脆弱である。北極や南極を除けば、地球上で最も多くの雪と氷を蓄えるヒマラヤ地域は「第3の極」とも呼ばれる。ヒマラヤの氷河を水源とする豊富な水量の河川の下流には約20億の人々が暮らしている。氷河の融解は、時に洪水や土砂崩れを起こし、時に水不足を招いて、人々の生活に連鎖的な影響を及ぼしている。
その氷河の融解の速度は、地球温暖化の進展に伴い、早まっている。国連によると、2010年から2020年にかけて、ヒマラヤの氷河の融解速度は前の10年間に比べて65%速くなり、より広範なヒンドゥークシュ・ヒマラヤ地域全体での氷河湖関連洪水のリスクは、今世紀末までにおよそ3倍になると予想されている。チューリッヒ大学のアレン氏は「氷河が後退し、永久凍土が融解しているという物理的な知見をすべて総合すると、確かにその通りだ。専門家たちは、こうした現象がすでに発生しており、今後さらに頻度が高まると予想している、と結論づけている」と語っている。
ネパールに拠点を置く国際山岳総合開発センター(ICIMOD)の科学者たちは、大量の氷や岩屑がボテ・コシ川の支流であるレンデ・コラ川に流入し、下流で水、土砂、巨岩の急激な増水を引き起こした今回の現象の確認に取り組んでいる。同センターによると、この地域は昨年7月にも大規模な洪水の被害を受けていた。オーストラリアのラ・トローブ大学のアジア研究所所長のルース・ギャンブル(Ruth Gamble)氏は「(氷河が解けた土石流は)まるで『内陸の津波』のように振る舞い、約170kmも移動し、主要な幹線道路にも影響を与えた」と指摘している。
ICIMODの上級氷雪圏専門家モハメド・ファルーク・アザム(Mohd. Farooq Azam)氏は「氷雪圏での災害の頻度が増加していることは、今やかつてないほど明らかになっている。そのペースがあまりにも速いため、現在進行中の取り組みではこの急速な変化に対応しきれない」と指摘。同氏は、各地域の政府は「こうした国境を越えた災害に対応するため、共同で統合的な措置を講じるべきだ」と求めている。
「世界の屋根」と呼ばれるヒマラヤを中心とする高地地域は、世界平均のほぼ2倍の速さで温暖化が進んでいるとされる。気温の上昇が氷河の急速な後退を招いているのだ。世界氷河監視サービスによると、世界中の氷河は30年以上にわたり毎年縮小し続けている。国連が支援する研究グループによると、最近の氷の焼失の加速は、大気中への人為的な温室効果ガス排出によって引き起こされた地球温暖化が主因であることを疑いの余地なく示している。
温暖化の影響で氷河の融解が進み、氷雪崩と土石流のリスクに直面しているのは、ヒマラヤの山系だけではない。2025年5月には、スイス・アルプスでも、氷河と岩盤の崩壊による土石流で、村が一つ、丸ごと埋没されるという氷河崩壊事故が起きている。氷河崩壊が起きたのは、ヴァーレ州のバーチ氷河。ブラッテン村(Blatten)の上方に位置するバーチ氷河は、上部の岩石を食い止める栓のような役割を果たしていたという。しかし近年、氷河の永久凍土が劣化し、岩石の重みによる氷河への負荷が増大。このため、スイス当局は2013年からウェブカメラを用いて監視体制に入っていた。

岩石による負荷の増大により、バーチ氷河は、2017年から2023年の間に最大70mも滑り落ちた。さらに、2025年5月に入ると、監視装置が氷河の不安定化を示す動きを検知し、下流のブラッテン村等へ危険が及ぶ恐れが生じた。そこで5月19日、当局はブラッテン村の住民全員に対して避難命令を出した。その9日後の28日午後3時24分、バーチ氷河がブラッテン村と近隣のリード村の上で崩壊し、マグニチュード3.1の地震を引き起こした。その数分後に、ブラッテン村は約2,000万㌧の氷と岩に覆われ、姿を消した。
スイスのケースでは、監視体制による早期警戒と、適格な避難命令によって、村は姿を消したものの、住民は全員救われた。一方のヒマラヤのケースでは、これまでも致命的な鉄砲水が発生し、周辺住民にも犠牲を出してきた。しかし、同地では、十分な監視システムや早期警戒の体制は、いまだに十分には、とられていない。オーストラリア自然災害研究所(Natural Hazards Research Australia)CEOのアンドルー・ギッシング(Andrew Gissing)氏は「今回の事象は予兆なく発生し、下流の人々を不意を突いたようだ」と述べたうえで、「早期警報は人命を救うものであり、早期警報システムの改善に向けた取り組みが今、世界的に進んでいる」として、「スイスの例」を踏まえた対応の拡大を求めている。
科学者の多くは、今回のヒマラヤでの大規模な気候災害が、大規模かつ迅速な早期警報体制を、各地で構築するための「転換点」となることへの期待を示している。さらには、気候変動を抑制するための排出量削減の加速化への取り組みの促進も必要だ。気候政策をタナ上げした米国のトランプ政権の「暴挙」によって、グローバルな気候政策の勢いが止まってしまうと、ヒマラヤ山系での「悲劇」だけではなく、地球上の各地で、気候災害の激化が進むことになりかねない。
(藤井良広)

































Research Institute for Environmental Finance