世界の気候災害による損失額は年4500億㌦(約72兆円)。保険カバーはその3分の1だけ。保険会社の「保険引き受け回避」の動き、広がる。損失額の半分は北米(RIEF)
2026-09-02 22:36:08
(写真は、ベリスクの報告書から引用)
ネパール・中国国境地帯で発生した大規模な氷雪崩土石流による被害のように、気候変動に由来する災害による損失額が、世界全体で年間4500億㌦(約72兆円)に達するとの推計が公表された。そのうちで、保険でカバーされる損失額は、最大38%でしかない。損失額の約半分は、米国等の北米地域だが、同地域の保険カバー率は53%と過半を超えている。一方、日本を含むアジア地域での損失額は北米の3分の1だが、保険カバー率は14%と低い。気候災害による損失増大の一方で、保険が十分に機能しないと、災害後のインフラ・社会の再建等に支障が生じる懸念が出ている。
気候災害による損失額の試算は、リスク分析企業の米ベリスク(Verisk)が、同社のアニュアルレポートで示した。同社のモデルを活用して、気候変動と開発による災害の多発によって、世界は2025年時点で、年間4,500億㌦の損失を被る見込みと分析している。こうした気候災害の損失増加にもかかわらず、保険カバー率が低い水準で推移するのは、気候災害リスクによる損失額の増大に対して、保険会社が同リスクを排除するため、気候関連の保険付与を削減している影響もあるとしている。
気候災害による損失額を地域別にみると、米国を中心とする北米地域は、災害損失総額(2350億㌦)が最も多い一方で、保険カバー率ももっとも高い地域(53%)だ。だが、最大650億㌦の経済的損失をもたらした2025年にロサンゼルスで発生した森林火災の場合も、同損失額の対象となる物件の約3分の1は保険の対象外だった。同地域の場合、森林火災の増大による保険金支払額の増加の影響を踏まえ、保険会社が損害保険の引き受けに厳しい制限を付するか、あるいは引き受け停止をするケースが増えている。

ベリスクの分析によると、気候災害の増大により、平均的な年でも、個人(住宅)、企業、政府はおよそ2,790億㌦の無保険損失に直面しているという。気候災害が特に甚大な年には、これらの無保険損失の額ははるかに大きくなる。この損失額の拡大は、気候変動や都市化の進展による被害の増大に加え、最大の保険市場を抱える米国ではインフレ率を上回るペースで上昇している住宅建設費の値上がりも反映しているという。2025年は、世界の保険金支払額が1,000億㌦を突破した6年連続の年となった。米国本土にはハリケーンが上陸しなかったものの、保険会社は、被害額が記録的な水準に達したカリフォルニア州の森林火災や、被害額が年々増加している激しい雷雨に対する保険金の支払い額が増大した。
米国のロサンゼルス市場等をカバーする保険会社は、森林火災や暴風雨等による保険金支払いコストの増大に対応するため、住宅の屋根の修繕費などの多くを標準的な保険契約から除外した。さらに大手保険会社の中には、リスクが高いとみなされた住宅との契約更新を拒否し、一部の地域から完全に撤退したところもある。こうした「保険会社の撤退」により、同地域での気候災害による被害住宅のうち、最大35%の物件が保険に加入していなかったという。米国以外の新興市場でも、高額な自然災害の損失増大傾向を受け、住宅や企業による保険加入率は極めて低い、あるいは皆無に近い状態が続いている。
こうした傾向の結果、保険でカバーされる世界的な経済的損失額の割合は低下している。ベリスク社によると、2025年3月にミャンマーで発生した地震による被害額は約120億㌦に上ったが、保険会社が補償したのは1億㌦未満にとどまった。アジア市場での保険加入率の低さを反映した形だ。また米国内でも、2025年7月に発生し、130人以上が死亡したテキサス州の洪水被害では、被害発生当初は住宅関連の経済的損失として11億㌦に達すると予想されたが、米国の標準的な住宅所有者保険契約では洪水による損害は補償対象外であるため、同州での損失の大部分は保険未加入だった。

ベリスク社によると、保険コストの増大で保険会社が市場から撤退する現象が起きている米国の場合、多くの住宅所有者はカリフォルニア州が支援する最終的な保険機関である「フェア・プラン」に頼らざるを得なくなっているとしている。ただ、業界全体の損失(保険金支払い)が増加しているにもかかわらず、米国の住宅保険会社は、保険料の引き上げやリスクの高い住宅への引受削減に支えられ、堅調な利益をあげてきた。米国最大の損害保険会社であるステート・ファームは2024年、カリフォルニア州全域の7万2,000人の住宅所有者に対して保険契約を更新しないと発表。同州では、AIGなどの他の保険会社も規制対象の保険市場からほぼ撤退している。
大手損保のプログレッシブ社は8月に開いた決算説明会で、「(企業の)成長を慎重に管理し、収益性を守るため、引受審査の回数を増やすことで、意図的に引受枠を縮小した」と説明した。同社はまた、フロリダ州のリスクの高い沿岸地域の不動産に対する保険契約の更新も拒否し、他の地域でも暴風雨や山火事のリスクへのエクスポージャーを削減した一方で、「気候リスクの低い市場ではより急速に成長している」と述べた。
こうした保険会社の「保険引き受け回避」の動きがグローバルに広がる傾向について、アクティビスト団体「ニューヨーク・コミュニティーズ・フォー・チェンジ」の上級顧問であるピート・シコラ(Pete Sikora)氏はメディアに対して、「保険会社は、もはや引き受けたくない地域から撤退し、そのリスクを政府や個人に押し付け、地域市場を崩壊させた上で保険料を吊り上げる。これが常套手段だ」と述べている。日本の保険会社がこうした米国の保険会社の対応に追随しないことを望みたい。
(藤井良広)
https://www.ft.com/content/b359c765-29e2-4f5f-b72c-cd36668621e1?syn-25a6b1a6=1

































Research Institute for Environmental Finance