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雨宮日銀副総裁、高炭素集約企業向け融資の多い金融機関の資産劣化リスク、金融システムに負の影響を及ぼす可能性を指摘。日銀として外貨通貨建てグリーンボンドへの投資を認める(RIEF)

2022-11-27 22:46:57

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 日銀の雨宮正佳副総裁は27日、脱炭素への動きが遅れる場合も、進む場合も、「金融機関の融資先に損失が生じたり、融資先の資産価値が劣化したりして、金融機関の投融資の量と質を変化させ、 金融システムに負の影響を及ぼす可能性がある」との認識を示した。また気候変動は、中長期的に、経済、物価、金融情勢に極めて大きな影響を及ぼし得る要因として、「物価の安定」と「金融システムの安定」を責務とする中央銀行にとって気候変動への対応を重視する姿勢を強調した。

 

 雨宮副総裁は、同日、神戸市で開いた日本金融学会の総会で講演し、見解を示した。同氏は気候変動が金融システムに及ぼす影響について、脱炭素に向けた動きが遅れる場合と、脱炭素に向けた動きが進む場合の両方について、経済、金融システム等に影響が生じる可能性を指摘した。

 

 前者については「物理的リスク」が顕在化し、自然災害の発生によって金融機関の融資先に損失が生じる可能性が高まる点を指摘した。後者については、金融機関の既存の融資先が炭素排出の多い企業(電力、鉄鋼、セメント等)の場合、融資先企業の資産価値は劣化する、とした。いずれの場合も対応次第では、 金融システムに負の影響を及ぼす可能性があると指摘した。

 

 多くの国の中央銀行は「物価の安定」と「金融システムの安定」を責務とする。同氏は気候変動による金融システムへの影響に加えて、「物価の安定」への影響についても、「地球規模での自然災害の大規模化や頻度の増加で、社会インフラの喪失やサプライチェーンの寸断等により経済活動が阻害される頻度が高まっている。これらは実体経済活動の変動を大きくし、ひいては物価の変動につながる」と指摘した。さらに脱炭素社会への移行過程がスムーズに進まない場合、化石燃料等のエネルギー価格の変動と、その他の財・サービス価格への影響が懸念されると付け加えた。

 

 こうした環境下で、中央銀行の「市場中立性」の視点から、民間金融機関が温室効果ガス(GHG)による「負の外部性」を考慮しないで投融資を行っている場合、金融機関の投融資に対して「中立な行動」をとると、「いわゆるブラウン産業に偏った資源配分を温存することになる」とした。金融機関が「負の外部性」を考慮した投融資を実施している場合は、「そうした民間の投融資ポートフォリオに比例的に中央銀行が資産買入れや資金供給を行う方が、脱炭素社会に向けた民間の動きに対して中立ということになる」との判断を示した。

 

 日銀は昨年末以来、実施している金融機関の気候対応の投融資のバックファイナンスとして、ゼロ金利資金を供給する「気候変動対応オペ」を実施しているが、雨宮副総裁の見解は、こうした日銀政策の「正当性」を説明する形でもある。気候変動オペは年2回実施しており、対象金融機関数は63件、貸付残高は総額3兆6000億円になっている。

 

 一方、欧州中央銀行(ECB)はタクソノミー等を判断基準として、社債の買い入れや担保の扱い等に気候変動への対応を考慮したファイナンスを実施している。同氏は「わが国では、気候変動対応に関する基準やタクソノミー等の議論は流動的。日本の金融仲介は、間接金融が中心なので(タクソノミーがなくとも)銀行を通じて脱炭素に資する投融資をバックファイナンスする気候変動対応オペは、大企業のみならず中小企業の脱炭素化への取り組みを金融面から支援するうえで、わが国では最も効果的な方法」とした。

 

 金融システム対応では、各金融機関が気候変動の影響をリスク管理で踏まえることの重要性を指摘する一方で、同問題には、リスクが顕 在化し得る時間軸が非常に長く不確実性も高い、リスク管理に必要なデータが存在しない等の課題があると指摘。それらへの対応として、気候変動に伴うリスクが顕在化した場合の金融機関や金融システムへの影響を定量的に把握する「シナリオ分析」の重要性をあげて、「金融機関とも対話を深める等を通じ、シナリオ分析の高度化を進めていく」とした。

 

 日銀の中央銀行としての業務運営での気候変動への対応としては、今年からTCFDの勧告に沿った情報開示を実施していることに加えて、「日銀が保有する外貨資産について、従来からの安全性と流動性を重視する方針の下で、外貨建てグリーン国債等の購入を行っている」と明らかにした。同氏はグリーンボンドの購入額等は明らかにしていない。

https://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2022/data/ko221127a.pdf