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第11回サステナブルファイナンス大賞インタビュー⑱サステナブルボンド賞:愛知県「第一生命保険を引き受け手とする、日本初の水害対策と地震対策を資金使途に限定する債券の発行」(RIEF)

2026-04-14 12:16:39

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 愛知県は、第一生命保険との連携で、水害対策のグリーンボンドと地震対策の地方債を同時に発行し、それらを全額、同生命が引き受けることで同県のリスク対策資金を確保する取り組みを実践したことで、第11回サステナブルファイナンス大賞のサステナブルボンド賞に選定されました。台風や豪雨等の気候災害が年々激甚化することに加え、南海トラフ地震など巨大地震対応にも資する取り組みを機関投資家である生保と連携して、国内で初めて実践したことが評価されました。愛知県総務局財務部資金企画課長の今井繁樹氏と同課課長補佐(公債グループ班長)の小林麻紀氏、同課主査(同グループ)の小久保竜也氏に聞きました。

 

――新しい形の債券を発行した動機と目的を教えください。

 

 今井氏 :  愛知県は市場公債の発行規模が全国で3番目に大きい団体で、毎年3000億円以上発行しています。資金を確実に調達するため、投資家の方々との信頼関係の構築をコンセプトにIR活動を積極的に行い、県債を安心して購入していただけるよう努めています。ただ、近年、市場環境が大きく変化をし、投資家の固定化と発行年限の短期化が進んできました。同じ投資家の方々に依存する調達になりつつあり、年限については、5年債、10年債、20年債、30年債といろんな年限の債券を幅広く発行しているのですが、新型コロナウイルスの流行時に県債の発行総額が増えたこと、および金利の先行きに不透明感が出てきたことで、近年は5年債の発行額と発行割合が増えています。

 

 金利上昇局面なので、発行年限が短期化すると、借り換えした際に多くの利子を払わなければならなくなる借り換えリスクが高まります。そうした中では資金調達の安定性を高めるための取り組みが必要ということで、投資家のニーズに応じて資金使途や発行年限を調整して発行する「スポット債」に新しく挑戦しようと考えました。スポット債をどういう設計にするかを検討する中で、通常債のIRの場で対話していた第一生命から、資金使途を水害対策と地震対策に限定したグリーンボンド+アルファの債券の発行について提案をいただきました。

 

今井氏
今井氏

 

 愛知県は自動車産業を中心に日本の産業界を牽引する地域であると同時に、南海トラフ地震や、気候変動による豪雨の多発など自然災害のリスクに向き合う地域でもあります。水害対策や地震対策は愛知県にとって喫緊の課題で、ちょうど関係する大きな事業に取りかかっていたこともあり、両対策事業を資金使途とするスポット債として発行することとしました。

 

――水害対策に関しては浸水レジリエンス債などといった名前の使途限定債券を発行している地方公共団体がありますが、地震対策を資金使途とした債券発行も組み込んだ事例は珍しいです。地震対策のほうは、具体的にどのような事業に資金を当てるのですか。

 

 小久保氏 :  地震対策事業としては、愛知県は現在、災害応急活動を後方支援する機能を持つ「基幹的広域防災拠点」の整備を進めています。緊急消防援助隊や自衛隊が災害時における拠点指揮運用機能を確保できるよう、それぞれの隊のベースキャンプ用地を用意し、支援物資の受け入れと配送を担うターミナルを県営名古屋空港の隣接地に整備します。空路を通じて全国から集まる緊急消防援助隊や自衛隊、援助物資をここで受け入れて、県内のエリア物流拠点に向けて配送する拠点にします。

 

 また、南海トラフ地震など津波被害をもたらす可能性のある巨大地震に備え、「ゼロメートル地帯広域防災活動拠点」の整備も進めています。海抜ゼロメートル地帯において、堤防沈下や津波で取り残された人を、ボートやヘリコプターで救助して浸水区域外へ移送する拠点になります。調達した資金はこうした整備事業に充当します。

 

 ちなみに水害対策のほうは、大雨に備え、河道の浚渫(しゅんせつ)や護岸改修、流下能力の回復といった河川整備事業や、農地や農業用施設の災害防止事業等の適応事業に充当します。

 

――ゼロメートル地域広域防災活動拠点は、津波もそうですけど台風による高潮災害時にも役立ちそうですね。

 

 今井氏 :  高潮にも効きます。水害対策も地震対策も、両方を包含しています。

 

――愛知県と第一生命の連携は、地方債を発行する自治体や投資家の間でかなり評判になりました。

 

 小林氏 :  他の自治体や投資家から多くの問い合わせをいただきました。他の自治体からは、水害対策のグリーンボンドとは別に、地震対策については、資金使途を限定したスポット債とすることで、ESG債の認証、いわゆるラベルがなくても、資金使途を特定することで、投資家にとって魅力のある債券となり得る、と示せたことを評価していただきました。

 

  投資家の方々からは、今までお付合いのない投資家の方や、金融機関ではない一般の企業からもお問合せがありました。より多くの民間資金を地方債市場へ呼び込む契機につながるものと考えています。

 

㊧から小林氏、今井氏、小久保氏の順
㊧から小林氏、今井氏、小久保氏の順

 

――気候変動により自然災害が年々深刻度を増し、水害対策には多額の資金が必要です。地震対策も想定巨大地震のことを考えると、民間資金の活用がより重要になってくると思われますが、今回の新しい形の債券発行は、より多くの民間資金を地方公共団体が行う水害対策や地震対策事業に呼び込む先鞭をつけたものという手応えは感じていますか。

 

 今井氏 :  私どもにとっては安定的な資金調達が大命題です。今回のスポット債は、投資家層の拡大のために何をしたらいいのかと考えて取り組んだもので、先鞭をつけようとか、国内初だとか、と力んでやったものではありません。ただ、他の自治体も活用できるものであるし、他の投資家の方からも「うちでもやれませんかね」などといった問い合わせを受けていますし、多くの投資家が債券投資を通じてCSRに貢献したいとお考えになっているように感じました。この取り組みが広がっていけば、多くの民間資金を地震対策や水害対策に呼び込めるのでないかと本当に思います。そういう意味では、結果として、サステナブルファイナンスの可能性を広げる一歩になったとは思っています。

 

――次のステップを教えください。スポット債の発行は今後も続きますか。

 

 小林氏   :   愛知県はもともとグリーンボンドを2022年度から毎年100億円発行し、地方公共団体が共同でグリーンボンドを発行するグリーン共同債にも参加をしています。グリーンボンドは資金使途が建設事業に限られているので、対象となる建設事業がないと発行額を維持することができません。愛知県はちょうど関連する大規模な施設の整備が完了し、これまでグリーンボンドの資金使途の多くを占めていたグリーンビルディング事業(省エネ性能が高い建築物の整備)も2026年度以降減少していく見込みです。

 

  われわれは起債のロットを50億円単位としているため、あまり対象事業が少なくなると起債が維持できなくなります。そのため、投資家のニーズをとらえて、資金使途や発行年限を調整するスポット債の取り組みはより重要になってくると考えています。現時点ではまだ個別の投資家のニーズを捉えているわけでないので、引き続きIR活動で、投資家と対話を続けて考えていきたいと思います。

 

                          (聞き手は、宮﨑知己)