超党派の若者団体「日本若者協議会」と「SOMPOインスティチュート・プラス」が共同レポート。日本のエネルギーの化石燃料依存構造からの脱却と、エネルギー自立性強化を求める(RIEF)
2026-08-21 22:05:16
今年2月の米国・イスラエルによるイラン攻撃で起きた「エネルギー危機」によって、中東原油に依存する日本のエネルギー調達構造の脆弱性が改めて問題化している中で、化石燃料への依存構造からの脱却と、エネルギー自立性の強化を求めるレポートが公表された。若者中心の非営利団体と、損保系シンクタンクの連携による提言だ。原油2割高が続けば5年で約6.8兆円、供給5割減なら名目GDP相当額で約11.9兆円という規模の損失を、しかも低所得世帯ほど重く被ることを示したうえで、こうした産業競争力の低下と国民生活の圧迫という大きな危機に対応するには、現在の政府による価格抑制を主体とした対症療法ではなく、「化石燃料依存の脱却」と「エネルギーの自立性強化」に向けて、省エネ・電化・非化石電源の拡大を軸とした「ショックに強い構造転換」への転換が急務、と指摘している。
レポートは、一般社団法人日本若者協議会(JYC)とSOMPOインスティチュート・プラスが共同でまとめた。「『危機対応』から『危機回避』へ~イラン情勢を教訓とした化石燃料依存脱却とエネルギー自立性強化を」と題している。ポスト石油戦略研究所代表の大場紀章氏が監修した。
2026年の中東情勢により、原油価格(WTI価格)は年初の約57㌦から、紛争初期には約67㌦へとおよそ2割上昇、ピーク時には最大で7割超の上昇となった。レポートは、こうした原油価格の2割上昇状態が今後も続いた場合、実質GDPへの累積下押し効果は5年間で約6.8兆円規模に達すると試算したうえで、さらに、原油供給量が5割減少するような事態が生ずると、石油製品や化学、輸送部門を中心に名目GDP相当額を約11.9兆円押し下げる可能性がある、との試算を示している。
特にこうした影響は、光熱費が可処分所得に占める割合が高い低所得世帯(約7.2%)が、高所得世帯(約3.1%)に比べて2倍以上に達することから、「化石燃料の価格ショックは低所得世帯の生活基盤を直撃する極めて逆進性の高い問題」としている。こうしたエネルギー危機に対する日本政府のこれまでの対応は、補正予算3.1兆円のうち約3兆円をエネルギー価格抑制のための補助金に割き、需要削減や構造転換への配分は極めて限定的、と分析。「価格支援は、目前の家計や企業の負担を和らげる『対症療法』としての意義はあるものの、構造転換のインセンティブを損ない、本質的な危機の影響を先送りすることにもつながる」と懸念を表明した。

そのうえで、求められる政策は、価格抑制を主体とする対症療法ではなく、「化石燃料依存の脱却」と「エネルギーの自立性強化」に向けて、省エネ・電化・非化石電源(再エネ)の拡大という「ショックに強い構造転換」へ、より多くの政策資源を振り向けることだ、と提言している。化石燃料依存リスクを下げるには、供給側対策と需要側対策の双方に基づく。再エネや蓄電池等は、商用化に向けた中長期的な取組が必要な一方で、供給側(着床式風力発電など)・需要側(EV・ヒートポンプなど)の双方で、商用段階または初期商用段階の技術はすでに4割を超えていることから、これらの技術を活用した代替策を進めることで、段階的に価格ショック時の産業コスト上昇圧力を緩和できるとしている。また、急速に拡大する世界のクリーンエネルギー技術市場における国内産業の成長や、大規模な雇用創出の便益を享受することができるとの期待を示している。
さらに、世界は産業革命以来の化石燃料中心の経済構造から脱却する方向に動いており、世界の再エネ発電量が、全電力量に占める割合も、2024年時点で32%に達しており、グローバルな脱化石燃料の動きが進む背景では、「技術・コスト要因」「政策・規制要因」「産業・競争要因」の3要因が影響していると指摘。特に、再エネは蓄電池の普及と合わせて、コスト競争力と性能を一段と高めていると評価している。
中東情勢のような化石燃料調達環境の悪化は、急激かつ予測困難な形で顕在化しうる「突発的リスク」であるとも位置づけた。さらに、日本はエネルギー自給率が低く、かつ既存の原油・LNG・石炭の各化石燃料の輸入先が特定の地域や国に偏っていることで、輸入先の紛争・政変や政策方針の変更、主要な輸送チョークポイントの封鎖等によって物理的な供給途絶と価格急騰が同時に生じうる構造となっている点にも懸念を示している。今回の中東紛争による原油価格の高騰は、まさに、こうした「突発的リスク」が現実化した一例、というわけだ。

日本の輸出の中心を担う製造業はエネルギー集約度が高く、グローバルな脱化石燃料の動きが進む中で、引き続き化石燃料に依存した生産プロセスを維持し続けることは、輸出市場での競争条件と国内での産業立地の両面で、不利を拡大させる方向に作用する、としている。またEUが導入した炭素国境調整メカニズム(CBAM)の対象品目が将来的に、日本の輸出の主力である自動車等へと拡大すれば、その影響は大幅に高まるとみるほか、脱炭素対応を取引条件とするサプライチェーン上の要求は、グローバルには大企業のみならず中小企業にも及んでおり、こうした要求への対応が遅れた企業は受注機会を失い、国際サプライチェーンから事実上締め出されるリスクもあると指摘。化石燃料依存からの脱却が進まない限り、こうしたコスト負担と市場アクセスの制約は今後一層強まる可能性があるとしている。
化石燃料への依存を低減する代替策としては、まず供給側対策として「クリーンエネルギーの供給体制を構築する必要がある」とする。太陽光発電や風力発電の導入量を増やすだけでなく、水素・アンモニア、合成燃料などを含め、発電、熱、燃料、調整力等を組み合わせて、化石燃料の供給ショックへの露出を下げる取組として整理する必要を強調。政府や経済界が主張するような、「調達先の多角化やガソリン補助金などの対応」を超え、化石燃料への依存リスクからの脱却を求めている。
需要側代替策では、供給ショックを受ける燃料消費量そのものを減らすために、省エネ、非化石エネルギー(再エネ)への転換、電力需要の最適化の三分野での転換を求めている。省エネは必要なエネルギー量を減らす対策、再エネへの転換は石油・LNG・石炭の直接利用や化石燃料由来電力への依存を下げる対策であり、電力需要の最適化は、蓄電池、V2Hなどにより、需給逼迫時や価格高騰時に需要を柔軟に調整する対策等だ。

化石燃料への依存からの代替策の転換では、短期~中期に現実的に進みうるEV・PHVへの一定程度の転換により、道路輸送関連部門の石油製品依存が低下する状況を想定。道路旅客輸送等の輸送4部門について、石油製品投入を一律10%減少させ、その削減額の35%を電気投入の増加として振り替えるなどの影響についても試算している。家計への省エネ効果についての試算では、先進国の家庭エネルギー料金は、これらの対策がなかった場合に比べ最大20%低くなり、低所得世帯ではその効果が最大25%に達するとしている。
また2022年1月に日本政府が、コロナ禍からの経済回復を原油価格の高騰が阻害する事態を防ぐために時限的・緊急避難的な措置として、石油元売り業者に補助金を交付し、超過分を補填して小売価格の上昇を抑える「燃料油価格激変緩和補助金」を導入した政策についても検証している。それによると、導入当初の2022年3月末までの実施を、延長・拡充を繰り返して2025年末まで継続し、約4年にわたる長期の市場介入となった点に懸念を指摘。その経済効果については、消費者・生産者にもたらされた利益の合計よりも、政府の補助金コスト・税収損失・外部費用の合計の方が大きく、同補助金は社会全体としては損失を生んだことになる分析している。
今後、日本がとるべきエネルギー政策の方向としては、化石燃料補助金のような「価格を後から抑える政策」から、あらかじめ代替策を講じて「価格の上昇や供給途絶の影響を受けにくい構造をつくる政策」への転換が望ましいとする。価格支援については、低所得世帯や、農漁業、物流、公共交通など、エネルギー価格高騰の影響が大きくかつ代替手段が限られる主体に限定すべき、としている。その場合も、低所得世帯への定額給付や、事業継続に不可欠な部門への支援を優先することで、価格シグナルを完全には消さないことで、生活・事業への打撃を抑えることができる、としている。 (藤井良広)

































Research Institute for Environmental Finance