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経産省の「グリーン成長戦略」文書、引用した英米データの記述に「誤り」発覚。「2050年ネットゼロ」での再生可能エネルギー発電比率を低く抑える“狙い”か(?)(RIEF)

2021-01-15 21:34:55

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  経済産業省が昨年末に、公表した2050年の脱炭素化に向けた「グリーン成長戦略」文書の“杜撰さ”が、改めて浮き彫りになった。再生可能エネルギーの発電量に占める比率を約50~60%に抑えるための根拠として、英米の比率の低さを強調したデータが「誤っている」可能性が出てきたためだ。引用された英国からはすでに「記述の誤り」が指摘され、米国のデータも誤解を招く疑いが浮上している。

 

 問題となっている経産省の文書は、2050年の温室効果ガス排出量実質ゼロ(カーボンニュートラル)を実現する手段として有力な再エネについて「すべての電力需要を100%再エネで賄うことは困難」として、再エネは2050年の発電量の約50~60%とすることを「参考値」とした。その根拠として、「英国の意欲的なシナリオでも約65%、米国でも55%(ただし2050年80%削減ベース)」との注釈を加えた。

 

 ところが、朝日新聞によると、在日英国大使館はこの指摘が誤っているとして経産省に指摘した。同紙によると、英国大使館は12日、経産省などの政府関係者やNPOなどにメールを送り、「誤解を招く内容が含まれていた」と指摘。英国のシナリオが「約65%」とした部分についても「英国はこのような目標は掲げておらず、英国の政策ではない」と否定したと報道している。英大使館がデータの誤りを指摘 政府の脱炭素化向け戦略:朝日新聞デジタル (asahi.com)

 

 同紙によると、英国は50年の温室効果ガスネットゼロ目標は掲げているものの、再エネの導入目標は定めていない。英国政府が設けた有識者機関は昨年12月9日、脱炭素化に向けた再エネ導入の道筋を提言したが、それも「30年までに60%、35年までに70%、50年までに80%」としており、経産省が引用した数字とは違う、という。

 

 また米国についての「55%(ただし2050年80%削減ベース)」の表記も疑わしい。バイデン次期米政権は「2050年100%クリーンエネルギー」をマニュフェストに記載している。米国での「クリーンエネルギー」の範疇には、原発が入る可能性もあるが、マニュフェストではそうした区別はしていない。トランプ政権はパリ協定から離脱しており、米国としての2050年目標も再エネ目標も設定していない。

 

 そう考えると、経産省が引用する「米国の55%再エネ」も米国政府のものではない可能性が高い。しかし、同省の注釈には引用先が明記されていないため、一見すると、「英米両国政府の2050年目標」のように読めてしまう。

 

 朝日新聞の取材に対して、経産省資源エネルギー庁戦略企画室は、「英国の有識者機関が19年に出した提言に基づいて『約65%』と記述したと釈明。昨年12月の提言に新たな数値があることは認識していなかったという。年明けに英国大使館から指摘を受け、『大使館と話して対応を考えたい。修正もありうる』と説明したとしている。

 

 この説明通りとすると、大使館から指摘があるまで、英国政府の公式文書に目を通していなかったことになる。エネルギー政策を扱う役所として、お粗末としか言いようがない。この言い訳が正しいかどうかも現時点でなお不明だ。経産省は、19年の英政府の有識者機関の提言の内容を示す必要があるだろう。

 

 問題はこの「間違いだらけの文書」が「政府の正式の戦略」であるかのように装ってマスメディアに公表した点にもある。発表文書は、「経産省が関係省庁と連携して策定した」としているが、政府の閣議を経た決定文書ではない。あくまでも経産省がまとめた一文書に過ぎない。

 

 同文書の問題点は、上記の点以外にも多数あることを別途指摘した。http://rief-jp.org/blog/109524

 

 とても閣議決定に耐えられる内容ではないのは一読すればよくわかる。欧米の政府文書では当然だが、同文書は、引用情報についての根拠が注釈として示されていない点で、公式文書としても「失格」である。

 

 都合のいい情報だけを、恣意的に並べ立て、「政府の決定事項」であるかのように装う役所に、エネルギー政策を委ねている政治にも大きな責任がある。

                           (藤井良広)