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金融庁など3省庁、「クライメート・トランジションファイナンス基本方針」公表。ICMAの「ハンドブック」の解釈指針。法的拘束力無し。タクソノミー設定せず、企業の「戦略」評価(RIEF)

2021-05-09 21:11:23

Transition001キャプチャ

 

  金融、経済産業、環境の3省庁は、「クライメート・トランジションファイナンス基本方針」を公表した。政府の「2050年ネットゼロ」に向けて、排出削減が困難なセクターの脱炭素への移行( トランジション)に資する取り組みへのファイナンスを促すことを目指す、としている。方針の基本的な内容は、民間金融機関で構成する国際資本市場協会(ICMA)の作成文書の解釈が中心で、法的拘束力はない。

 

 トランジションファイナンスについては、グローバルにはEUが法的な枠組み対象事業としての扱いを検討中。EUはサステナブルファイナンス行動計画の中で、グリーン&サステナブルファイナンスの対象となる事業分類(タクソノミー)を法的に整備する作業を進めている。

 

 EUによると、現在、グローバルなトランジションフレームワークの公表ガイダンス等は、ICMAを含めて12件に上る。日本の3省庁が他のフレームワークには触れず、ICMAのハンドブックだけをモデルにする理由は示されていない。

 

 3省庁の「基本方針」は、「ICMAハンドブックとの整合性に配慮しつつ、資金調達者、資金供給者、その他市場関係者がトランジションファイナンスに関する具体的対応を検討する際に参考となるよう、対応例等により解釈を示す」と述べ、ICMAが昨年12月に公表した「ハンドブック」に準拠した解釈文書であることを隠していない。

 

 そのうえで、ICMAが示す4つの要素①資金調達者のクライメート・トランジション戦略とガバナンス②ビジネスモデルにおける環境面のマテリアリティ③科学的根拠のあるクライメート・トランジション戦略(目標と経路を含む)④実施の透明性――に適合した資金調達は、トランジションファイナンスの対象として認められ得るとしている。

 

  同ファイナンスの資金調達主体としては、①脱炭素化に向けた目標を掲げ、その達成に向けた戦略・計画を策定、それに即した取組を実施するための原資を調達する主体(企業)②他者の脱炭素化に向けたトランジションを可能にする活動(投融資を含む)の原資を調達する主体(金融機関)とした。

 

 トランジションファイナンスの目的としては、「トランジション戦略の実現または実現への動機付け」と企業が打ち出す「戦略」に、パリ協定の目標に整合した長期目標、短中期・長期目標等の設定のほか、 脱炭素化に向けた開示、戦略的な計画を組み込むことを求めている。

 

 そのトランジション戦略には、パリ協定の実現に寄与する形で事業変革をする「意図」が明確に含まれるべき、とした。ただ、その意図を実現する移行プロセスの確保措置は盛り込んでいない。目指す「事業変革」には、「温室効果ガスの大幅削減を達成する燃料転換や革新的技術の導入、製造プロセスや製品の改善・変更、新しい分野の製品やサービスの開発、提供等、既存のビジネスの延長等、様々な観点からの変革が考えられる」等と幅広く設定したが、具体的なタクソノミーは示していない。

 

 同方針は、ICMAのハンドブックへの準拠を強調する一方で、ハンドブックのいくつかのポイントは、「素通り」している。たとえば、「科学的根拠のあるクライメート・トランジション戦略」の対象に、国別が決定する貢献(NDC)を加えるとしているが、ICMAは「(NDCは)必ずしもそうではない。現状では、各国のNDCを合計しても、1.5°C または 2°C を十分下回るというパリ協定の目標を達成できない」として対象から除外している。

 

 また温室効果ガス排出量の算定について、ICMAはScope1~3をすべて開示を求めている。これに対し、同方針は「Scope3は、資金調達者のビジネスモデルで重要な削減対象と考えられる場合、実践可能な計算方法で目標設定されることが望ま しい」と限定的な表現にしている。

 

 全体的に「排出削減が困難なセクター」の資金調達に配慮してICMAのハンドブックを「解釈」したといえる。投資家、特に国際的投資家が、これらの指針に基づく移行ファイナンス(ボンド、ローン)を評価するかどうかが今後の焦点だろう。3省庁は、銀行や年金等に働きかけ、「日本版トランジションファイナンス」に準拠した「削減困難セクター」発行のボンドや借入等を、補助金付きで後押しするつもりかもしれない。

 

 3省庁が準拠するICMAのハンドブック自体、市場では十分に受け入れられているとは思えない。昨年12月に公表後、1月に中国銀行(BoC:香港)が同ハンドブックに準拠した第一号のトランジションボンドを発行した。しかし、その後、第二号はまだない。BoCのボンドも、投資家から人気を得たとは言えなかった。同ハンドブックの最大の課題は、移行タクソノミーを明示してないため、発行体も投資家も、対象事業・企業の移行の妥当性をつかめない点とされる。http://rief-jp.org/ct6/109735

 

https://www.fsa.go.jp/news/r2/singi/20210507_2/03.pdf

https://www.icmagroup.org/assets/documents/Regulatory/Green-Bonds/Climate-Transition-Finance-Handbook-December-2020-091220.pdf